第2話 登場

 ___2159年。その年にこの時代は始まった。

 突如として現れ始めた怪人に対抗すべく、国民の武器の使用が認められたのである。

 結果、今ではコンビニでも簡単に銃が手に入るようになった。


 今俺がまさに構えているのがそれ。コンビニで買える一番安価な銃。

『インスタントガン』定価1800円(銃弾別売)


 正直ちゃんとしたガンショップで買えば、同じくらいの値段でもう少し性能が良いものが買えるのだが、コンビニエンス分だから致し方がない。ないよりはマシってやつだ。


 怪人が突っ込んでくる方向を読んで、身をかわす。ギリギリのところで、大きすぎる爪が腕に当たってしまった。少し血が出る。


「・・・いって」


 生憎のところ、武器はあるが防具はない。一発でもまともに攻撃を食らったらおしまいだ。


 怪人はまだ突っ込んでくる。なんとかよけるが攻撃は終わらない。続けて、爪で突き刺そうとしてくる、それもギリギリかわす。かわすが完全にはよけきれない。


 段々と体力もすり減っていき、少しずつ俺だけが消耗していく。銃を使いたいところだが、素人が怪人に当てられるわけがない。闇雲に撃ってもよけられてしまう。

 

 それに実を言えば、この銃、銃弾が装填されていないのである。

 

「この前使ってから装填し直すの完全に忘れてた。やらかした」


 そうなれば、必然的にヒーローの到着を待つしかない。

 避難警報が鳴った時点で、ヒーロー署に通報は入っているはずだから、もうそろそろ来ると思うのだが・・・


 その時、とんでもないほどに眩い光が辺りを照らし、びっくりするぐらいの大音量でヒロイックなBGMが流れ始めた。


 夜空を見ると、派手な色のスーツを着た人物が浮かんでいた。そして、俺と怪人の間に着地する。


「またせたな、一般人!私が来たからにはもう安心だ!!!」


 そんな大きな声をださなくても聞こえる、なんてことは言えないので、素直にお礼を言う。

 毎回思うが、この派手な登場にいくらの税金が使われているのだろうか。まあ、命よりは安いのかもしれないが、その経費を削れば、もう少し有用な使い方が出来るとも思う。


 なんて考えていたら、はあっという間に怪人を倒してしまった。


「よし、これで地球の平和は守られた!!!ふはははははは!!」


 足元に転がる怪人の死体を見て、ヒーローは高笑いをする。


 いや、なんかこっちの方が悪役みたいだな。


「ああ、そうだ一般人。一応、IDカードをここにかざしてくれるか。別にどうってことないのだが、規則なもんで。公務員は辛いぜ!!!」

「あ、はい」


 これもやりなれたものだ。なにせこの時代、週に2回は怪人に出会う。そのたびにヒーローに助けてもらい、こうやってヒーローが持っているスマホ型の何かにIDカードをスキャンする。

 どうやら、ときたま怪人が一般人になりすましていることがあるようで、それの防止のためらしい。


「じゃあ、またな一般人!!平和に暮らせよ!!」


そう言うとヒーローは飛び立ち、空の彼方へと消えていった。


「・・・はあ、早く帰ろ」


俺は、足早に家へと向かった。





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インスタントヒーロー 狗文斎 @kbunsai

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