インスタントヒーロー
狗文斎
第1話 邂逅
「・・・引くぐらい疲れた」
残業を終え、帰路につきながら、ついぼやいてしまった。
労働基準法って、ギリギリをどれだけ攻められるかっていうものじゃないと思うんだけどな。
絶対チキンレースかなにかと勘違いしてるよ、うちの会社。
時計を見ると、すでに日付が変わっている。それを見て、少し笑いがこぼれる。
人間ってストレスがたまりすぎると、笑ってしまうらしい。
「俺、どこで人生間違えたんだろ」
新卒で今の会社になんとか入り三年が経つ。毎日残業続きで、心身共にもうボロボロになってしまった。
大学時代に思い描いた夢も、希望も、欲望さえも、今はどこにあるのか分からない。
街灯がぽつり、ぽつりとある夜道を歩いていると人生のように思えてくる。光を頼りに歩いてきたはずなのに、その光が手に入ることはない。ただただ薄暗い道を歩き続ける。そんな人生。
「ってまぁ考えてばっかじゃ、ダメだよな。早く帰ろ。あずさも待ってることだし」
あずさ、とは俺の妹のことである。幼いころに両親を亡くした俺たちは二人で支えあって生きてきた。もちろん他の親族、具体的に言えば、父さんの姉に厄介になってはいたが、俺がこうして仕事に就いてからは二人で暮らしていた。
だから、いくら辛くても今の仕事を辞めるという選択肢はない。せめて、あいつが大学に行けるようになるまでは、支えていかなければならない。兄として。
家の近くの路地に差し掛かり、子供のころによく、あずさと遊んだ公園の前を通る。そろそろ家に着くころだ。よかった、今日は早く帰れそうだ。
しかし、現実はそう、甘くはない。
『Attention。怪人が現れます。速やかに避難してください。繰り返します。怪人が現れます。速やかに避難してください。繰り返しま___』
突然鳴り響く警報音と避難指示。目の前には警察の規制テープを模したホログラフィックが現れ、世界を分断する。
「まずいな。早く帰らないといけないのに」
すると、怪人が上から出現し、ものすごい勢いで地面に着地した。衝撃でひびが入る。
その姿は、この世の者とは思えないほどに異形だった。だがしかし、なんとか人の姿をしている。まさに怪人。その言葉がドンぴしゃりと当てはまる。
俺は、鞄からインスタントガンを取り出し、銃口を怪人に向ける。
「耐えれて五分か。早く来てくれよ、ヒーロー」
そう呟き終わる前に、怪人はわき目も降らずに、真っすぐ俺にとびかかってきた。
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