現在の目標

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 ──現在の目標



 意識が戻った。


「クソ。やったのか? おい、ラル? “FREYJA”?」


 俺が起き上がると目の前に赤い光を放つ穴があった。


「君はやったよ。地球側のゲートキーパーを倒した。後は地獄のゲートキーパーを倒せば、それでお終いだね。準備はいいかい?」


「ああ。そうみたいだな。飛び込んで、ケリをつける。準備万端だ」


 俺が振り返るとアーマードスーツは木っ端みじんだった。せっかくのハイテク装備だったのに残念だな。あーあ。


 俺が持ってるのはGER-1とHAS-40Sだけ。手榴弾は全部使っちまった。予備弾薬ももう残ってねえぞ。ラスベガスで全部賭けちまったみたいに素寒貧だぜ。


「お前!」


「あ? どうした、デルタ? お前はラルと一緒に逃げろ。ここからは俺の仕事だ」


 ラルの傍からデルタが走ってきて俺の手を握った。


「私も行く! お前と一緒に!」


「おい。何言ってるんだ。もう戻れなくなるんだぞ? お前は地球で暮らす方がいい。悪魔どもは俺たちを目の敵にしている。そいつらがうようよしているところに今から飛び込むってことなんだぜ?」


「それでも一緒に行く! 絶対!」


「我がまま言うなよ、デルタ。俺に任せとけって」


「お前はもう武器もないだろ! それで勝てるのか!?」


「どうにかする。訓練は受けてる」


「ダメだ! 私も連れていけ!」


 クソ。こいつは我がままってものじゃねえ。デルタは本気だ。


「分かったよ。一緒に殴り込もうぜ、デルタ」


「うん!」


 いてくれれば心強いのは確かだ。今のデルタは足手まといじゃない。


「ここに飛び込めば地獄に行けるんだな?」


「そうだよ。行こう」


「オーケー。行くぞ!」


 俺たちは一斉に赤い光に向けて飛び込む。


 奇妙な浮遊感を味わったのちに生暖かい空気が漂ってきた。


「ここが地獄か。コンビニはなさそうだな」


 荒れ果てた都市の残骸が周囲に広がり、空は真っ赤で太陽は黒い。そしてさらに奇妙なのは空にぽっかりと穴が開いているということだ。どこかは知らんが、間違いなく地球上ではないことだけは確かだ。


「さて、ゲートキーパーはどこだ?」


「そこにいるぞ」


 建物の残骸の陰から地球にいたのと同じ巨大な狼の悪魔が姿を見せた。


 それから無数の悪魔の群れ。見たことのないような不細工な連中がぞろぞろとやって来た。こいつはあまり嬉しくない歓迎だな。


「異端者と異形が乗り込んできたか。しかし、私がいる限り門は閉じぬ。また地上に悪魔を送り込み、その地を我々のものとしようではないか。我々はこうやって地獄を広げてきたのだ。見よ、この世界を。我々が征服した地だ!」


「そうかよ。じゃあ、本来の持ち主に返してやるから死にやがれ」


 初手でHAS-40Sをフルオートでぶっぱなつ。


 狼野郎は回避しやがったが周囲の取り巻きが吹っ飛んだ。


「地上はいただく。我々のものとする!」


 狼と悪魔どもが四方八方から迫る。クソ、やべえぞ。


「ここは任せろ、偉くない人間。私は強いぞ!」


 ここでデルタが援護してくれた。


 狼野郎の取り巻きどもの悪魔を操り、狼野郎を襲わせたのだ。無数の悪魔が狼野郎にしがみついて牙を突き立て、肉をむしり、傷を抉って攻撃する。


「何だこれは……! 群れの支配が奪われているだと……!?」


 狼野郎は失敗した。取り巻きどもを連れて俺たちを袋叩きにするつもりだったんだろうが、そいつが逆に自分を襲っているのだ。いいざまだぜ、クソ野郎が。


「おうおう。調子に乗りすぎたな、ポチ? まだ俺たちを殺せそうか?」


「おのれ……! その異形もとろも食い殺してくれるわ!」


 狼が突進してくる。俺はデルタを抱えて回避し、廃屋に飛び込む。


「くらえ!」


 そしてすかさずGER-1で射撃。狼野郎の肉が裂け、そこにさらに悪魔が群がる。腐った傷口に群がるウジみたいに群がり、肉を削ぐ。


 狼野郎は悲鳴を上げながらも俺たちを狙う。


「異端者! そして異形! 貴様らは死ぬべきだ!」


「ほざけ、ポチ公。俺たちの世界に首を突っ込んだのが運の尽きだぜ。今日は地獄の閉店セールだ。お前らの命は格安で販売。在庫一掃だぜ。デルタ、やるぞ!」


 俺がGER-1で射撃し、デルタが悪魔を操る。


 これで終わりだ。


 GER-1のエネルギー放射はゲートキーパーを完全に引き裂き、デルタが操る悪魔の群れがトドメを刺した。ゲートキーパーは悪魔の海の中に沈み、悲鳴すらもその群れの中に消えていった。


「グッドジョブ! これで終わり。一先ずはね」


 ラルが歓声を上げると上空にあった穴が小さくなって消滅した。


「これでもう地球には帰れない。どうしたもんかね?」


『悪魔のアルゴリズムを再分析したところ、先ほどの仮称ゲートキーパーと同様の悪魔の反応を検知しました。地球以外に繋がっている門があると推測されます』


「へえ。じゃあ、そいつらをぶっ潰しながら地獄を滅ぼすか?」


『それもよろしいかと』


 俺が言うのに“FREYJA”が淡泊にそう返した。


「デルタ。それでいいか?」


「いいぞ。全部やっつけて、ここに私の国を作る! お前は部下にしてやろう」


「またクソガキが調子に乗って。だが、それぐらいの心意気じゃなきゃやってられんな。さて、やるとするか。徹底的にな」


 俺たちの目的は決まった。




 Current Objective:Destroy All




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地上に地獄が広がり、悪魔たちが笑い、悪魔狩りの男が銃を握る。 ~地獄に侵略された地球で愉快な大悪魔ちゃんと一緒に悪魔狩りに行きます~ 第616特別情報大隊 @616SiB

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