ゲートキーパー

……………………


 ──ゲートキーパー



 輸送機は何とか沖縄を離陸し、全ての元凶であるUNE本社施設がある上海に向かう。


「ラル。そろそろ説明してくれ。どうやって地獄の門を閉じるってんだ?」


 これが問題だ。簡単に閉じれるものなら、頭のいい連中がさっさと閉じてる。


「門は本来繋がるはずがないものを無理やり繋げている状況なんだ。時空を捻じ曲げて繋げ、そして固定している。だから、その固定している存在さえ排除すれば門は自然と消滅するってわけさ」


「なるほど。そいつをぶっ壊すんだな」


「ぶっ壊すと言うより殺す、かな。門を維持しているのは悪魔だ。ゲートキーパーと言われている。地獄の側と地球の側に1体ずついて、門を繋げている。それをどちらも殺せばいいんだよ」


「つまり、俺たちは地獄に乗り込むのか?」


「そう。そのための力はもう君に与えている」


「マジかよ」


 俺はようやく気づいた。こいつはハッピーエンドに繋がってないってことに。


「クソ。ゲートキーパーを殺した瞬間、門は閉じるんだろ? 地獄の側に乗り込んでゲートキーパーの片方を殺せば門は閉じ、もう俺たちは地球に戻れない」


「そうなるね。止めたくなった?」


「いいや。やってやるよ。俺がやり遂げれば多くの連中が助かる。やってやるさ。俺は軍人だからな。それに地獄に乗り込めるんだぜ。クソッタレの悪魔どもを地獄でも絶滅させてやるよ」


「そうでなくっちゃ!」


 あーあ。まあ、いいさ。どうせ今の俺は悪魔みたいになっちまってるんだ。地球に残ればそれこそサミュエル・ハーグリーブスみたいな連中に解剖されて、ホルマリン漬けだろうしな。


「しかし、頼みがある、ラル。デルタを世話してやってくれ。地獄には俺だけで乗り込む。デルタはどこか安全な場所に連れていってやってほしい。地獄に行くのは俺だけで十分だ。だろう?」


「まあ、戦力としては君だけ十分だし、それにボクは自由に地獄と地球を行き出来るから何の問題もないよ。引き受けよう」


「サンキュー、ラル。これでクソみたいな戦争も終わりだ」


 輸送機の中で俺は安堵の息を吐く。


「……お前、地獄でひとりで戦うつもりなのか?」


「そうだよ。お前がいたってしょうがないだろ、デルタ。恐らくサミュエル・ハーグリーブスってマッドは沖縄でくたばってる。お前のことを知ってる人間は少ないはずだ。ラルに世話してもらって静かに暮らしな」


「……分かった」


 妙にデルタが聞き分けいい。腹が減ってるせいか?


「“FREYJA”。上海までは問題なさそうか?」


『現在空域に悪魔は確認できません、全て沖縄に投入されたようです』


「なるほどね。じゃあ、敵の留守を襲撃だ。派手にやろうぜ」


『上海付近に利用可能な国連人類防護軍の装備は一切存在しません。ですが、輸送機内にいくつかの装備を搭載しておきました。確認してください』


「気が利くな。早速見てみようか」


 俺は輸送機内に積み込まれていた軍用コンテナを開封する。


「おおう。マジかよ。こいつはすげえ。ヘカトンケイル・コンバット・アーマードスーツじゃねえか。最新鋭の代物だぞ。統合特殊作戦コマンドでもこいつを拝めるのは稀だったな。沖縄に置いてあったとは」


 ヘカトンケイル・コンバット・アーマードスーツは最新鋭のアーマードスーツだ。電磁装甲で戦車砲だろうと弾けるし、武装は超強力な35口径電磁機関砲やら口径70ミリ多目的ロケット弾やらやりたい放題の兵器。


 6本のマニュピレーターアームがあってそれらでSER-95やHAS-40Sなどの歩兵用の小火器を利用可能と来た。こいつはいいぜ。気に入った。


「“FREYJA”。最高のプレゼントだ。で、このまま飛行して上海のUNE本社には直接乗り付けられそうか?」


『今は断言できませんが交戦は避けてUNE本社に降下します。その過程で輸送機が破損する可能性が高いです』


「クソ。だするとラルとデルタを逃がすのが難しくなるな」


 輸送機がなければ悪魔の支配地域真っただ中の上海から逃げる手段がない。


「そこはボクがどうにかするから安心して」


「頼りになるな、ラル」


 ここはラルを頼るしかない。


『間もなく上海上空です。多数の悪魔の反応がありますが強行突破してUNE本社施設屋上に着陸しますので衝撃に備えてください』


「あいよ」


 それから輸送機が凄い勢いで揺れまくって墜落するんじゃないかってぐらいに降下し始めた。マジで大丈夫かよ?


『5秒後に着陸。準備してください』


 “FREYJA”がアナウンスし、そのアナウンス通りに輸送機が着陸し、一気に後部ランプを下ろしてUNE本社施設への屋上に繋げた。


「オーケー。乗り込むぞ。UNE本社施設内は悪魔だらけなんだろ?」


『その通りです』


「じゃあ、大虐殺と行こうぜ。こいつを使ってな!」


 俺はヘカトンケイル・コンバット・アーマードスーツを装着し、リンクさせた。全てが良好に反応している。武装も装甲もばっちりだ。いけるぞ。


「さあ、出撃。景気よくいこう」


 俺がアーマードスーツを前進させるとその巨体からは想像できないほどの速度を出して、進み始めた。屋上から施設内に繋がる扉を蹴り破り、施設内に押し入り強盗。非常階段をすっ飛ばして一気に降下する。


「ラル。ゲートキーパーはどこにいるんだ?」


「君に見えるように道を示した。それに従って進んで」


「あいよ」


 俺のヘッドHマウントMディスプレイDにどういう方法で介入したかは知らないが、ラルがゲートキーパーまでの道筋を表示した。昔のARみたいに現実の映像に進行方向が上書きされる。


『悪魔の存在多数です。よろしければ戦闘をお手伝いします』


「やってくれ、“FREYJA”」


『了解』


 “FREYJA”はアーマードスーツで俺がアーマードスーツ本体に搭載されていたAIに任せている部分を操作し始め、火力を最大に発揮する。


 悪魔はクソみたいにいやがる。


「死ね、異端者!」


「裏切者に死を!」


 ブルとゴリアテ、アシュラがラッシュで押し寄せ、そいつを凌げば次はユニコーンの波状攻撃だ。マリオネットとグレムリンもわんさかやってくる。


「偉くない人間! 雑魚は任せろ!」


「よっしゃ。やれ、デルタ」


「私が大活躍だ!」


 デルタが悪魔の制御を奪い、同士討ちさせて壊滅させる。マジですげえぞ。これが最初からあれば楽勝だったのにな。


「どうだ! 私に一杯感謝していいぞ!」


「ああ。感謝感激だぜ。救いの女神だ。この調子でやっちまえ!」


 デルタが悪魔どもをかき乱し、俺がアーマードスーツで突破。


 かなりゲートキーパーのいる場所まで近づいてきたぞ。どうやらUNEの連中は地下に地獄の門を作ったらしい。ラルの道案内は地下に向けて進んでいる。嫌な感じがするな。地下ってのはどうにも気味が悪い。


「異端者あああっ! 死ねええっ!」


「うお。何だコイツ。未確認の悪魔じゃねえか?」


 地下に続く巨大なエレベーターに居座っていたのはブルより5倍は巨大な悪魔だ。


『未確認です。排除してください。支援します』


「あいよ! やってやりましょう! くたばりやがれ、デカブツ!」


 “FREYJA”がアーマードスーツの兵装を操り、ロケット弾を早速デカブツに叩き込む。電子励起弾頭のそれが勢いよく炸裂し、爆発そのものがデカブツを引き裂き、衝撃波が殴り倒す。


「たっぷり味わいな、不細工。お前らが持ってない文明の味がするぞ」


 俺は口径35ミリ電磁機関砲を操ってデカブツを射撃。デカブツを滅多打ちにする。


「ここは通さん! 死ね、異端者!」


「おっと。当たらないぞ?」


 デカブツは馬鹿デカいこん棒を振り回すも、このアーマードスーツの反応速度はすごぶる早く、簡単に躱せる。しかし、空振りしたこん棒がエレベーターの制御盤をふっ飛ばし、ロックが外れたエレベーターが一気に地下に向けて落下し始めた。


「クソ。マジかよ。勘弁してくれ」


 俺たちは纏めて地下に急降下。その衝撃で壁に衝突したデカブツの頭が弾け飛び、元凶がくたばった。クソ、迷惑な野郎だったな。


『ゲヘナマテリアル由来の高エネルギー反応を検知。地獄の門が急速に近づいています。戦闘に備えてください』


「了解。終わらせるぞ、畜生め」


 アーマードスーツはまだ機能するし、弾薬もたっぷりだ。ぶちかましてやる。


「いよいよだよ。ゲートキーパーがいる。倒して、門を閉じるんだ」


「ああ」


 そして、エレベーターがドンと揺れて最下層に到達した。


「ハロー。あんたがゲートキーパーか?」


 見たこともないような巨大な機械が置かれ、その中心部で真っ赤な光が火山の火口のように溢れかえっている。


 そして、その前にさっきのデカブツですら赤ん坊に見えるぐらいの巨大な狼がいた。黒い毛並みに鋭い牙と爪が剣呑に輝き、真っ赤な瞳が俺たちを捉えている。


「異端者と異形のもの。ここまで来たか。なるほど。我々の予想を上回る存在だったな。だが、我々は門を守る。全てを侵食してしまうまで」


「そうかい。あいにくだがこっちとしちゃお帰り願うぜ。あんたらは長いし過ぎだ。延長料金を払ってもらわねえとな。血で払えよ、化け物」


 俺を睨みつけながら静かな声で狼が言い、俺はそう返して銃口を向ける。


「お前はここで終わる。悲鳴を歌い、苦痛を捧げ、死を舞うがいい、異端者」


「くたばれ」


 狼が動き、俺が動く。


 初手で“FREYJA”がぶっぱなったロケット弾は回避された。レーザーによる誘導式の代物なのだが、ロケット弾の速度より敵が速い。面倒だな。


「“FREYJA”。全火力を叩き込め。弾が尽きてもいい。最悪俺がどうにかする」


『了解』


 俺はマニュピレーターアームでGER-1を操作することに集中し、他の兵装は“FREYJA”に任せた。GER-1の弾速は流石に躱せないだろう。


「私はゲートキーパー。門を守る獣。お前は通さん、異端者。そのちっぽけな鎧ごと噛み砕いてくれよう!」


 不味い。突進してきた。アーマードスーツの兵装が全く効いていないように見える。突進が阻止できない。クソッタレ!


 狼が巨大な口を開き、牙を剥け、アーマードスーツに食らいついた。


「うおっ!? 畜生! どうなってるんだ、“FREYJA”!?」


『敵の攻撃から防衛姿勢を取っています』


 俺がよく状況を観察すればアーマードスーツがマニュピレーターアームで踏ん張って狼の口が閉じで俺をアーマードスーツごと食っちまうのを阻止していた。


「オーケー! チャンスだ。ここで決めるぞ。“FREYJA”、パイロットシート、オープン。このまま俺を射出しろ!」


『了解』


 アーマードスーツの緊急時の脱出システムが作動し、俺が開いたままの狼の口に向けて射出される。そして、俺の手にはたっぷりの手榴弾とHAS-40Sだ。やることは決まってるってもんだぜ。


「おらっ! たっぷり味わえ、クソッタレのワンちゃん!」


 手榴弾のピンを抜いて狼の口の中に放り込み、HAS-40Sの散弾を手当たり次第にぶちかます。電子励起爆薬の手榴弾が炸裂し、巨大な爆発が生じる。、狼の口が爆ぜて俺とアーマードスーツごと吹っ飛んだ。


 ああ、畜生。意識が……。


……………………

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