沖縄戦

……………………


 ──沖縄戦



 俺はラルとデルタを連れて研究室の外に飛び出る。


「動くな、准尉! 射殺許可は下りているのだぞ!」


「そうかい、少佐。だが、俺はもう俺の意志でしか動く気はないんでね」


 SER-95の銃口を向けて来た統合特殊作戦コマンドの部隊に俺はHAS-40Sをぶっぱなった。092式強化外骨格も電磁加速で放たれる口径40ミリの散弾には耐えられず一瞬でミンチに変わる。


「射撃を許可する! 撃て!」


「クソ!」


 だが、他の作戦要員オペレーターは正確に俺にSER-95の口径25ミリ高性能ライフル弾を叩き込んだ。痛みが一瞬したが死は訪れない。


「なるほど。これが悪魔の力って奴か。最高だな!」


「効いてないだと!? クソ、射撃を続けろ!」


「お返しだぜ、ご同輩!」


 すぐさま他の作戦要員オペレーターにHAS-40Sの散弾を叩き込み殲滅。


「今の銃弾は確かに受けたはずだが、傷ひとつない。ラル、お前のおかげか?」


「その通り。君は究極の戦士になった。戦い続けることができる」


「最高だな」


 俺たちは警報が鳴り響くタウミエル・コンプレックスの中を駆ける。


『天竜湊准尉。有用な装備を発見しました。回収することを推奨します』


「了解、“FREYJA”。位置を示してくれ」


『表示します』


 俺のヘッドHマウントMディスプレイDに有益な装備とやらがある場所のへの案内が表示され、俺はそれに従ってタウミエル・コンプレックスの中を駆け抜けて進む。


「な、なんだ!?」


「何が起きてる!?」


 タウミエル・コンプレックスの中にいる研究者たちは大慌てだが相手にする必要はない。連中に俺たちは殺せない。


『この研究室の内部です』


「突っ込むぞ。爆薬設置」


 俺は研究室の扉に戦闘工兵用の梱包爆薬を設置して脇に退避。


 起爆ボタンを押せば扉は跡形もなく吹き飛び風通しがよくなった。


「で、どれが役に立つ兵器なんだ?」


ヘッドHマウントMディスプレイDに表示しています』


 “FREYJA”が示したのはゴテゴテとした機材が接続されている見たこともないようなライフルだった。既存のどのような銃とも似ていない。


「こいつは何だ?」


『ゲヘナマテリアルを充填し、ゲヘナラジエーションのエネルギーを転換し、射出する兵器GER-1です。天竜湊准尉ならば無限に使用可能です』


「そいつはすげえな。早速使おうぜ」


 俺はSER-95を捨ててGER-1を拾った。


『リンク完了。いつでも使用可能です』


「さて、脱出だ」


 そこで俺たちがタウミエル・コンプレックスの中で脱走を始めてから響いていた警報とは別の警報が鳴り始めた。


「何だ?」


『国連人類防護軍の通信を傍受。沖縄に悪魔の大規模な部隊が上陸しました。現在、国連人類防護軍極東方面軍が全力で応戦中』


「クソ。このタイミングでくるのかよ。勘弁してくれ」


 “FREYJA”の言葉に俺は思わず呻いた。


「“FREYJA”。どうにかして輸送機を確保してくれ。沖縄に行くんだ。何があっても」


『手配しています。普天間空軍基地に向かってください』


「あいよ!」


 ラルとデルタを連れてとにかくまずはタウミエル・コンプレックスからの脱出だ。


「動くな! 天竜湊准尉! 貴様の射殺命令は出ている! 余計なことをすれば射殺する! 武器を捨てて投降しろ!」


「やなこった」


 国連人類防護軍部隊がタウミエル・コンプレックスのエントランスを封鎖するのに、俺は早速GER-1を構えて銃口を連中に向け、引き金を引いた。


 次の瞬間、レーザーのような指向性エネルギーが放たれ、国連人類防護軍の兵士たちが薙ぎ払われた。凄まじい威力だぜ、こいつは。


「さてさて。足を準備しないとな。普天間までは距離がある」


『準備しておきました。使ってください』


「上出来だ、“FREYJA”。いい仕事するな」


 タウミエル・コンプレックスの正門に軍用四輪駆動車が滑り込んできた。無人だ。


「あれだな。乗り込むぞ。ラル、デルタを連れてきてくれ」


「任せて」


 俺が運転席に飛び込み、ラルがデルタを引っ張って後部座席に飛び込んだ。


「飛ばすぞ」


 アクセル全開。速度違反なんてクソくらえだ。


『沖縄の防衛に当たっている全部隊へ! 緊急事態だ! 沖縄は現在大規模な悪魔による攻撃を受けている! 全戦闘員はすぐに配置に着け! 繰り返す──』


 戦術リンクは大パニックを起こしている。かなりの規模の悪魔が上陸し、瞬く間に沖縄が制圧されて行っているらしい。


 どこもここも悲鳴が上がっている。


「やばいな。普天間は大丈夫か?」


『普天間基地守備隊は悪魔と交戦を開始しました。悪魔が侵入しています』


「クソッタレ。本当に俺たちを追いかけてるみたいだな、ええ?」


 普天間まで上陸した悪魔が進出したとしても驚くことはない。悪魔どもには運ぶべき武器弾薬や食料、車両などはない。津波のように膨大な規模で押し寄せ、そのまま押し流すだけである。


 シンプルだ。それ故に強く、人類は負けてきた。


『警告します。前方に複数の高脅威悪魔が存在。我々の進行方向です』


「マジかよ。勘弁してくれ。運転を任せていいか、“FREYJA”?」


『了解。運転を代わります』


「任せたぜ」


 俺は軍用四輪駆動車の運転を“FREYJA”に任せると俺は助手席側に設けられていたルーフのハッチから半身を乗り出し、GER-1を構える。


「クソ。ゴリアテとブルかよ。邪魔くさい連中が集まりやがって」


 普天間まで続く道路にこん棒を握ったゴリアテとブルのデカブツコンビが6体。


「景気よくいこいうぜ、不細工ども」


 GER-1の引き金を引き、レーザー上のエネルギーをブルの頭に叩き込む。ブルの頭が蒸発したように消滅し、痙攣しながら地面に崩れ落ちた。


「いたぞ! 異端者どもだ!」


「殺せえ!」


 こっちに気づいた悪魔どもが勢いよく突撃してくる。


「残らずくたばりやがれ」


 蹴散らして、蹴散らして、蹴散らして、進み続ける。突撃だぜ。


「手伝ってやる、偉くない人間!」


 デルタがそう言って突進する軍用四輪駆動車のフロントに障壁を展開した。


「オーケー。連中を轢き殺せ、“FREYJA”」


『了解』


 軍用四輪駆動車は最大まで加速し、ブルとデルタに突撃し、そのまま撥ね殺した。ブルとデルタの巨大が弾け飛び、周囲に蹴散らされる。


「このまま普天間に行くぞ。進め、進め」


 俺たちを乗せた軍用四輪駆動車は沖縄の道路を突っ走る。


 上空を大量の無人戦闘機と無人爆撃機が飛び交い、上陸した悪魔たちを猛爆撃しているが、敵もペガサスやワイバーンを展開してこちらの航空戦力を迎撃している。こいつは地獄になりそうだ。


『前方に無人戦車。友軍です』


「今は俺たちはお尋ね者だぜ。不味いぞ」


『では、無人戦車をジャックします。こちらの移動に利用しましょう』


 “FREYJA”はさも大したことはないというようにそう言って、前方に現れたAMR85無人戦車の制御を奪い、こちらのエスコートに使い始めた。すげえな、こいつ。


『間もなく目的地ですが、普天間空軍基地の守備隊のステータスが壊滅状態です』


「おい、勘弁してくれ。輸送機は離陸できるのか?」


『基地施設の破損は最小限です。離陸は可能と思われます。基地に侵入してきた悪魔を一定数排除できれば、ですが』


「はいはい。俺の仕事だな」


 あーあ。もう大忙しすぎて過労死しそうだぜ。


「見えたぞ。普天間基地だ」


『突入します』


 俺たちを乗せた軍用四輪駆動車と“FREYJA”がジャックした無人戦車が同時に普天間空軍基地のゲートを破壊して突っ込んだ。


「畜生。悪魔だらけだ」


 普天間空軍基地のあちこちに悪魔がいる。上陸してきたセイレーンやディープワン、それから定番のデカブツであるブルとゴリアテ、そして無数のマリオネットとヘルハウンド。パーティーでもやってるのかって規模だ。


「ぶちのめすぞ。“FREYJA”、輸送機を絶対に守ってくれ。そして離陸させろ」


『了解』


 俺はGER-1を握って軍用四輪駆動車のルーフから悪魔どもを攻撃し、“FREYJA”がジャックした無人戦車も砲撃を始めた。


「いい武器を持ってこれて助かったぜ。弾切れしない武器ってのは最高だ」


 GER-1の発射レートは極めて高く、SER-95の連続射撃モードより遥かに早い。SER-95が1発撃つ間に3発は撃てる。その上威力は抜群だ。沖縄に溢れた悪魔どもが次々に狩り取られて行き、気分が良くなる。


 無人戦車の55口径120ミリ電磁戦車砲も多目的対戦車榴弾HEAT-MPを叩き込み、悪魔どもの侵攻を遅らせることに成功している。この調子だ。


「おい。偉くない人間。ちょっと試したいことがある」


「何だよ、デルタ? 何かできるのか?」


「うん。お前と喋ってる奴と話させてくれ」


「“FREYJA”のことか? “FREYJA”、デルタが話がしたいらしいぞ」


 俺がそう言うとヘッドHマウントMディスプレイDの装置のひとつである3Dプロジェクターが作動し、着物姿の“FREYJA”のアバターが表示された。


『何でしょう、デルタ-999?』


「あの男が言っていたこと、本当にできるのか?」


『計算上は可能です。しかし、予想外の事態も想定されます』


「なら、やってみるから手伝え!」


『分かりました。私が分析し、構築した悪魔のアルゴリズムについてそちらに送ります。受け取ってください』


 デルタが言うのに“FREYJA”がそう言って何かを操作した。


「う……」


「おい! 大丈夫かよ?」


 すると、デルタが眩暈でも起こしたようにふらつき、慌てて俺が支える。


「……悪魔を操れる、と思う。多分だけど。やってみるから手伝え」


「分かった。なにすりゃいいんだ?」


「私を守ってろ。失敗したら逃げるから」


「了解」


 俺はGER-1を構えて悪魔たちを狙い、デルタを援護する姿勢を取った。


「やれる、はず!」


 こちらに津波のように押し寄せていた悪魔ども。


 それが一斉に動きを止めた。


「マジかよ。やったのか?」


「うん。できた! 流石は私だ! けど、これはちょっと疲れる。慣れてないから。早く逃げるぞ、偉くない人間!」


「オーケー! “FREYJA”、今のうちに輸送機を飛ばせ!」


 デルタを抱えて俺はラルとともに“FREYJA”が操縦しており、滑走路に進出した戦術級パワード・リフト輸送機を目指す。


「乗り込め、乗り込め。さっさと脱出だ。このクソッタレな島にはいられないぜ」


 俺たちは下ろされた後部ランプから輸送機に飛び込み、輸送機は滑走路を加速し始める。後部ランプはゆっくりと閉じ、エンジンが大きくうなりを上げる。


「シートに座れ、ラル、デルタ。急げ!」


「了解!」


 俺はラルとデルタを輸送機のシートに座らせ、ベルトを付けさせる。急がないと離陸の際にのGで輸送機内の壁に叩きつけられちまう。


『離陸します。ですが、上空は混戦状態です。かなり荒れた操縦になることを事前に謝罪させていただきます』


「あいよ。とにかく上海につけばそれでいい。やってくれ」


『最善を尽くします』


 こうなったら後は“FREYJA”頼りだ。俺に出来ることはない。


 上空は飛来した悪魔と国連人類防護軍の無人戦闘機で大乱戦。ミサイルが飛び交い、悪魔が体当たりし、もう滅茶苦茶。


 “FREYJA”が操縦する輸送機は揺れまくり、まるで乱気流どころか台風の真っただ中を飛んでるような感じである。食い物が腹に入ってなくて助かった。もし、沖縄で飯食ってたら今頃ヘルメットの中がゲロだらけだ。


『沖縄上空を離脱。これより上海に向かいます』


「いよいよだな」


 後は地獄の門を閉じるだけだ。


……………………

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