患者と医者の会話

岸亜里沙

患者と医者の会話

医者「君は、とても精神的に病んでいるね。重症だよ。私の言う通りにすれば、きっと良くなる」


患者「お願いします、先生。僕を救ってください」


医者「いくつか質問をしてみて分かったが、君は鬱憤を晴らす場所が無いが為に、たまに暴力的になったりしないか?」


患者「はい。正にその通りです。無性に力を何かにぶつけたくなります。なので先生、どうか抗鬱剤を処方してください」


医者「必要ないよ。薬に頼るのは、無知な人間だ」


患者「ですが、とても苦しいのです」


医者「私が君に提案をする治療法というのは、薬ではなく、実際に一度、人殺しをしてみるという方法だ」


患者「えっ?人を殺す?」


医者「そうだ。君には私の妻を、殺してもらおうと思っている」


患者「何故ですか?」


医者「いや、ちょうど私が今、浮気をしていてね。妻の存在が邪魔になったのだよ。だから君のその“力”を借りたい」


患者「そんな。僕、人殺しなんて、したくありません」


医者「私が診察した結果、君は一度、大きな力を解放する事で、精神的にも安定するはずなんだ。つまりこの方法なら、私は君を救えて、逆に君は私を救えるのだ。ギブアンドテイクの関係だと思わないか?」


患者「でも僕は逮捕されてしまうじゃないですか」


医者「それも心配は無い。加害者が精神疾患であれば、犯罪を犯しても、不起訴になるのが常だ。私が君を精神疾患で通院中だったと証言するだけで、君は罪には問われない。カルテも作成してあるしな」


患者「なるほど、それは名案ですね。これで僕も楽になれるんですね」


医者「では、取引は成立だね。我々の手で、完全犯罪をなし遂げようじゃないか」


患者「先生、残念ですが、僕が殺すのは奥様ではありませんよ」


医者「何?」


患者「僕が殺すのは、あなたです。先生。僕はあなたの奥さんから依頼されました。不倫をしている旦那を殺してほしいと。なので、僕はわざとあなたの元へと通院をしました。精神疾患であれば、あなたの言う通り殺人を犯しても罪には問われないので、それが理由です」


医者「ま、待ってくれ。私は金も支払うぞ。500万円を君にやる。それでどうだ?」


患者「僕は金で動く人間ではありません。それに、客観的に見て、あなたのが死ぬに値いする人間だと思いますので」


医者「た、頼む、止めてくれ」


患者「ですが先生、あなたは私の暴力性というものを見抜いていましたね。その点は評価します。名医だと思いますよ。なので、最期くらい胸をはってください」


医者「・・・そうか、やはり君だったのか」


患者「何がですか?」


医者「妻と不倫をしていたのは」


患者「な、何を言ってるんです?そんな事、してる訳ないじゃないですか」


医者「気づいていないとでも思っていたのか?全てお見通しだよ。ミステリー好きで、狡猾な妻なら、浮気をしていた私を巧妙な方法で殺しにくるだろうとね。だからその時を待っていたんだ。罠にかかったのは、君たちの方だ。君は私を殺そうとしたが、私に返り討ちにあってしまう。そして、妻は君に殺人を依頼した罪で逮捕される。これで邪魔者を全て消し去る事が出来た。私の一人勝ちだよ」

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患者と医者の会話 岸亜里沙 @kishiarisa

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