第4話

あ…

「生命体…ピクリともしていない。」

解体されるんだ。行く末は結局バラバラになって。

だから動かない方が都合がいい。

そっちの方がいい。

のに…

あの時の想いに憑りつかれたかのように

身体がばらばらになるような思いが

圧し掛かる。

「死んでる方が、やりやすい。」

「…あぁ。」

「水を掛けてみるか。」

「・・・」

悩んでしまった。

「右手に鼻息触れるか。

胸郭は動いてるか。

確認してみても文句は言わない。」

「手に息が触れる。

胸郭も動いてる。」

右手で口を拭うと

「博士が、よくやってた。」

聞き流そうとした。

「安堵の時だ。」

安堵の…

・・・

「これ譲って貰えないか。

メンテ10回と…」

何事もなければ永久的に動く事が出来る。

博士は年に1回メンテナンスをした。

健康診断だよと笑っていた。

博士がいない今。

私がそれを担う。

私が。

私しかいない。

出来る存在が。

これをし続ける事に疑問が全く無い事は無い。

少しずつ何かがおかしくなってきているのではないか。

「脚を貸して貰えないか。」

「脚は返せない。

もうこれは私だ。私の一部だ。」

「マントに併せて貰うだけでいいんだ。

このマントに。」

ボロボロのマントに…

「そのマント」

「博士が身に着けてた物だ。

もう、これしかない。」

そうだった。

「マントの代わりはきかないという事か。

この脚は博士のものではない。」

「承知…」

マントを注意深く持ち広げる。

左脚を添えて…

眺める。

「37年前って所だな。」

「そんなに経ってはいない。

博士は…」

博士は死んだ。

同じ事を繰り返す構えを、

構えのままでいさせた。

「水ぶっかけて行くか。」

「いや。動かず運べた方が良い。」

右手が湿り気を帯びる。

髪も濡れていた。

左は全くよく分からなかった。

「有難う。

困った時は遠慮無く。」

呼んでくれ。

「止まる前に駆け付けろよ。」

「あぁ約束する。」

誰かを必要としなくとも動いていけるよう

プログラムされている。

それが出来る。

おかしな動きをしていると思う。

静かに壊れてきているのだろうか。

右と左の脚は長さが時々微妙に変わる。

生命体のそれと持ち合わせのものとは違う。

感覚も鋭く違う。

持ってる物は何だろう。

持ってる物で変わる身体。

中身は変わり得るのだろうか。


「ウグ、帰り?」

「あぁ。何か用があった?」

「いや、特には無いよ。」

雑談用だ。

葉のような傘は日差しをエネルギーに変え、雨を避ける。

組み替える脚は自家エネルギーとなり動き続ける。

博士は何で、こんな物を、ここに置いたのだろう。

大概、同じ事を繰り返す。

同じ言葉がけを延々と。

なのに、博士は、ここで足を止め、たわいのない言葉を出していた。

「博士と、いつもここで何を話してたんだ。

覚えている事は?

印象深かった事は?」

「いや、特には無いよ。」

・・・

「そうか…」

すると首を変に動かした。

首がもげるのか…

メンテナンスは何時していたか。

もう千切れたら、そのままでいいかと。

一気に思っていた。

「目と口が痛そうだ。」

そう生命体を見ながら吐いた。

恐らく一緒の方を見る。

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あなざーわーるど 食連星 @kakumi

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