第3話

凄い。

体内から水出る。

「漏らしたな。」

「何も言っても無い。」

「そいつだよ。」

「あぁ。

これが…」

俗に言う生命体のちびるってやつか。

豪快にやっちゃってる。

「鼻があれば臭うのかな。」

「だろう。

よく分からんがな。

上も下も零しまくって忙しい生き物だ。

暫く入って無いから、そろそろ干からびるだろう。

瑞々しいうちに処理しないといかんな。

こっちも忙しくさせられるよ。」

頭を近づけた所で色の付いた水分が広がる所しか

把握できない。

右手を伸ばす。

「まだ温かい。」

「触ったのか。」

「右手でね。

水分にも強い。」

「媒体には弱いから、むやみやたらに触れると

腐り落ちるぞ。

いいもん持ってるのに、もろく作り変える気持ちが分からん。」

「手と足のために湯浴びをしてる。」

「手足以外には危険な事を…」

「水は不快。」

聞かないふりをして続けた。

「湯と水が違うって?

ありゃー同じだ」

「違う。温度が。」

分かんねー奴には分かんねーのよ。

言ってもそれこそ分かんねーだろーけど。

定着状況は良いから大丈夫。

一緒にいたいという生命体の細胞記憶をも利用してる。

だから強い。

個々のパーツよりも。

生命体の細胞に宿る信念を侮るなかれ。

そんじゃそこらの病には負けぬ。

と思ってる。信じてる。

よく知らない生命体の

よく分からない想いに

気持ちを馳せるとしたら

それは

よく分からない事への

畏怖と尊敬を

無理矢理捻出しているだけなのだろうか。

よく分からない。

あぁ。

私いいこと考えた。

「番、手に入らないか。」

「君が作ったらいいだろう。

博士の真似事を出来るのは君だけだ。」

「違う。

生命体を番で欲しい。」

「古の遥か昔より」

「あぁもういいよ」

今度は、こっちが話を聞かなきゃいけない番になる。

ばんになる。

こっちは、つがいが欲しい。

物も情報も。

御託は要らん。

「もう駄目な時、目をあげる約束するから、

この生命体丸ごと譲ってくれ。」

黙ったまま商人が視線だけくれる。

まぁ気持ちは分からんでもない。

これから一儲け出来る時にハイエナが現れたのだから。

「ウグ。」

「はい。」

世の中には…

無理な道理と無茶な要求は通せないよ、

博士を思い出す。

博士は、資料と映像と音声と台詞を遺して消えた。

「なぁ。」

「はい。」

「博士は、っまだ生き」

「もうっ死んだっ。

博士はっ死んだんだ。」

何回も繰り返した言葉が。

さらさらと流れていく。

私達は一言一句覚えていると言いながらも、

覚えていると言いながらも。

「私達はっそれをっ見ていないっ」

「見せていないっ。

私は見た。

博士が干からびて…」

干からびて…

中身がなくなっていくのを。

それは誰もが止められない。

博士がいない今。

私が音を出す必要はない。

全て博士のために。

全ては博士のために。

博士が生きた名残を今も続ける。

「博士は今を生きていた。

私は過去も現在も未来も存在し続ける。

私もあなたも。」

違いは明確で明瞭で。



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