第2話

「どれが一番出る?」

買わないけど。

大事な脚が腐ると困る。

まだ、あと10年は保つだろう。

「取り込むのは目が人気。」

「シュレッダー乾燥で出てくのに?」

「程良い弾力と潤った感じが良いんだと。」

「そうかぁ。

いくら?

触ってもいい?」

「商品に?えぐり取って持ってくのか。

随分とアグレッシブで生きがいい。

生解体は珍しい。」

「そうだなぁ。

随分と珍しい。

耳生きてるみたいだね。」

ぶるぶる震えて青白くなっていく。

「君の目と引き換えにどうだ。」

「おじさん商売上手だね。

こいつの両の目合わせても足りないよ。」

取引は下手ってる。

「博士の遺作。」

「っそう。」

まだ見たい物一杯あるんでね。

「博士の頭ん中が私に入ってる。」

ははっ商人が笑った。

「だから君はプライスレスだし。

君無しじゃ、この世界が成り立たない。」

そうと断言したかった。

が、

「そうでもないよ。」

謙遜を選んだ。

「部品としては?」

「どれも人気だよ。

一投目は、どのパーツもそれに合わせられるから。

値段としては、内臓を合わせづらいから安価で。

四肢が、やはり人気かな。手っ取り早く体感できる。

君も腕と脚だ。

次はデータの擦り合わせが必要だからね。」

腕と脚を諦めて、全て使うか。

悩むな。

造られた物より神経が偉くて、

触れた感じも踏み込んだ感じもいい。

使用期限在りで瑞々しい。

しかも、このパーツは曰く付きで。

「脚は」

商人が笑う。

「聞き飽きたけど、話したいならどうぞ。」

一緒に笑う。

細胞に記憶が蓄積されている。

生命体には不思議な神秘がある。

バラすには勿体無い気がする。

脚は分化した凸性だ。

そして

腕は分化した凹性だ。

それから…

それらは恋人だった。

ロマンを自分の身体で体現した。

足を手で触れる時、穏やかで満ち足りて恍惚だ。

何億の月日も距離も通り越したような出逢いだった。

神様のような立場で超越した存在で振舞える。

お前らをもう一度出会わせてやったのは、この私なのだよと。

崇めたまえよと。奉れよと。

いや狙っても無いし、たまたま偶然。

確かめる術も無いし。

自分の感覚だけで確信を持つという。

説明し辛い環境。

「穴上で何が起こってる?」

「さぁ。

部品が投げ入れられるだけでは無くて、

完全体で入って来てる。

そのうち、下穴も攻め入れられるのかもなー。」

高らかに商人が笑う所を見ると彼なりのジョークなのだろう。

そんな事は在り得ないと。

「解体見てくか?」

「いや、使えないパーツに興味はない。」

ついでに、したい話もし終わって、

ここに用はない。

おっと…

左脚が…

ははっ。

同じ体温を持つ。

「何で左脚を選んだ?

ここで右脚を掴んでたら興味は持たなかったよ。

仲間に縋ったつもり?

四肢完全なる生命体。」

このままだったら分解されるだけだっただろうね。

わらすが?ってやつ?

藁にも縋っちゃう?

まぁ自分優秀な極太鉄線だけど。


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