拷問専門は異世界へと転移しました

鴉杜さく

第1話 異世界転移

拷問というものは長い時間をかけて、人を痛めつける行動である。

そしてその拷問を自分から進んでしようというものは滅多にいない。

被害者の悲鳴をずっと聞き続けなければならないし、なにより血だ。

あたり一面を血が染め上げる。


だから任せられる人材というのは捨て駒だったりする。


奴隷や借金があるものなど。

拷問を子供が担当するのは珍しくなかった。


しかしそれをしるのは国でもほんの一握りというわけだ。


その拷問をする人間の中に一人だけ異質な人間がいた。

名を、赤道 愉快といった。

戦争孤児だった。


その少年が担当した拷問は結果はいいものの、どれもみんな終わった後口から涎を垂らし焦点の定まらない目をしておりその後の生活は出来なくされているのだ。


彼の拷問は1件目から既におかしかった。

拷問でそうなることが分かってからは罪人の拷問を任せられるようになった。


新人に担当をつけて一人ずつ教える新人育成というものがあったが、彼は担当していない。

なぜなら彼が担当した新人はみな、3日ほどで様子がおかしくなるからだった。


そんな彼だが、普段は黒マスクをして散歩をしており顔を見れるのは拷問をされる人間のみであった。




「こんにちは。不知火 かがちさん。僕はあなたの拷問を担当します、赤道 愉快と申します。以後、お見知りおきを」


「おれは、何も喋らねぇぞ」


「そうですか。。僕が興味あるのはあなたのですから」




—1時間後



口から涎を出し、脳みその皮膚をとられ、爪も剥げ髪の毛もなくなった男が出来上がっていた。


身体を今度は開こうとメスを入れようとしたとき他の人にはない喉の形に眉を顰めた。


身体に執刀しようとしていたメスを喉に慎重に入れていく。

間違えて頸動脈を斬らないように。


上の皮膚だけを綺麗に取り去るとそこには一つの四角い小さな箱があった。

持っていた針で突いてみる。


それは急にパキッと音を立てて開いていく。

男の喉を破壊し、人体に影響を与える。


だが、それはとどまることを知らずに成長を続けた。


突如としてピカッと光る。

人間の目には耐えられない光である。

咄嗟に目を瞑ってしまうと体に圧迫感が与えられる。


口に溜まっていた空気が吐き出される。

それと同時に新しい空気を吸い込む。


吸い込んだ瞬間に違和感を覚える。


拷問をしていた地下施設はこんなにも空気は澄んでいなかったし、鉄と血の香りがした。


無理矢理ばちッと目を開く。

眼下には草原。


周りには木が生い茂っている。

そして数十メートル離れた地面には水面が揺れていた。


自分と同じように降りている者は約30名。

そのほとんどが意識がない。


そうしている間にも地面は水面に近づく。


咄嗟に木の蔦を掴んで、持ち前の身体能力で木の上に着地した。

そのまま木を伝って地面に降り立つ。


別に人が死のうとどうでもいいけど水に人がいっぱい浮いているこの状況は正直笑っちゃうよね。


黒マスクの下でくふっと笑っていると人が突然浮いた。

驚きで目をぱちくりとさせていると後ろから草原を踏む音が聞こえ、ゆるりと振り返った。


そちらの人間も驚いた顔で俺を見ていた。


「なんで意識を保っている? 目覚めるのが早すぎないか?」


「俺に言われても知らないけど……」


3人。

潰そうと思ったらいける。

だが、先ほどの力がこいつらだとしたら手間取りそうだな。


諦めて従うふりをして話を聞いてみるか。

それからでも遅くはないし。


従うという意思を見せると彼らは着いてこいとだけ言うとそのまま歩き出した。

ちらりと後ろを振り返ると30名ほどの男女がふよふよと漂いながら着いてきていた。


この世ならざる力、だと言いたいが俺がここにいることが既にこの世ならざる力によるものの可能性が高い。


「まずはようこそと言っておこうか。君はというよりは君たちはこの世界を救うために呼び出された異世界の人間だ」


「……? 待て。俺たちは同じ世界から呼び出されているのか?」


「ん? 確かそうだと報告を受けているが……違うのか?」


だとしたら30名ほどの人間は。

後ろをちらりともう一度振り返る。

先ほどは興味がなくて視界にすら入っていなかったが、こいつらフレミー学園の制服を身にまとっている。


「相性最悪だよ」


フレミー学園。

俺がいた世界の一番大きな学園。

優等生と金持ちだらけの学園。


俺とは対極の存在。

知らず知らずのうちに重いため息が漏れてしまう。


「君は何か武術でもやっていたのか? 平和な世界から召喚したと聞いていたのだが君は他の者たちと違って身のこなしが鮮やかだった。それに目覚めている」


「俺は眠れないんですよ。だから意識はあったけど光が強すぎて目を瞑っていたけど呼吸した瞬間に違うと確信して目を開いただけですよ」


「では、水に入らなかったのは?」


「俺は……水に触れてはいけないんです。いや、もう触れていいっていうのは分かっているけど。だめなんです」


支離滅裂な俺の言葉。

嚙み合わない。


きっとそう思っているのだろうな。


「水は『御主人』が俺に禁止したんです。触れるなって。それが6年ぐらいだったんですけど。その間に俺の身体は水を受け入れることが出来なくなって。お風呂とかもだからすごい呼吸とかがはやくなって過呼吸になったりします」


俺は奴隷だから『御主人』がいた。

その御主人は幼児が大好きな人だった。

成長したらどこかに勝手に嫁がされるか、仕事にいかされる。


俺は後者だった。

俺がまだ幼児だったときに、俺は御主人を拒否した。

そのときに水を禁止された。


どんどん体の水分がなくなって生命が危なくなっていくのが自分でわかるのが一番怖くて、恐ろしかった。


でも。

それでも。反抗的な子には仕置きをしなきゃだから俺は水分を飲めなかった。

仕置きが終わった後、やっと水分を与えてもらえる時に水を急に入れられた。


咳き込みかけたけど、それは許可されてなくて慌てて飲み込んだ。

それが余計に拍車をかけたって今なら分かる。


その後水を飲もうとしたりお風呂に入るって時、川に水浴びをしなきゃいけないとき。

色んな場面で水に触れたとき、俺はパニックになるようになった。

あの時の死の恐怖が水を怖いものへと変えてしまったのだ。



成長してもそれは変わらなくて。

御主人は俺の仕事先で随分と悩んでいらっしゃった。


その期間は自由に出歩いていい期間だったから俺は街によく出かけていた。

そのとき路地からずるずるって引き摺る音が聞こえて俺は気になって追いかけてしまった。


拷問部屋に入れられる前の囚人が引き摺られている音だった。

一瞬だけ見えた扉を開けた先にたくさんの拷問器具があって。

俺でも出来るかもしれないって思って御主人のいるところへ帰ったのだ。


そしたら御主人は捕まっていた。

俺は呼吸する場所がなくなった。


どうしてだと叫んだ。


俺にはあの人しかいなかったのに。

俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ。


そんな目で俺を見るなと。


喚いた。

そのときは年相応だった。


そのあと保護されてしばらく監視もされた。

そして数か月後。

俺を面倒だと思ったのか監査官は拷問を担当しないかと持ち掛けてきた。


全てがどうでもよかった俺は頷いた。

あわよくばそれで死にたかった。


でも、俺には拷問の才能があったのか死ぬことはなくそのまま罪人を専門とする拷問をするようになった。


そして現在異世界にいる。

人生、何があるのか分からないものだね。


そうしていると目の前に大きな城のようなものが。


「ここが我ら、サンクレア王国の国王の住居サンクレア城です。本当はこのまま謁見へと向かいたいところなのですが、皆様お目覚めになられておりませんので、目覚めてからに致しましょう」


大部屋へと案内され、そこに運び込まれる。

俺も待機を命じられた。


この部屋は元々物置部屋のような役割を果たしているのか片付けられなかったであろう木箱が置かれている。


その木箱の上に座って。

というか片膝を立てて座っている。


この体制が一番落ち着くからだ。


それから1時間もしないうちに彼らは順番にゆっくりと起きた。

皆同じ反応を最初にするものだから疲れてしまった。


皆に俺は誰だと聞かれるし、ここはどこだと聞かれるし、何をしたのか聞かれるし。


俺が答えられるのは最初の俺が誰かってことだけなんだよな。

しかも皆バラバラに起きるから30回も同じことしてくたくただ。


木箱の上でぐでーっと伸びていると大部屋の扉が開いた。

3人の騎士に加えて身長が少し低い女性が立っていた。


「皆様、お目覚めになられたようでなによりです。これよりステータスの確認を……」


「ちょっと待ってください。ここはどこなんですか」


「話は最後まで。それも説明しますから。今は指示に従ってください」


金持ち学園共は総じてプライドが高い。

誰かに指図されるのを特に嫌う。


面倒なこと言いやがってあの女。舌打ちを一つ溢す。

そのうちの一人が「はぁ!!?」とキレた。


俺はため息を一つ溢すと腰からサバイバルナイフを一つ抜いた。

そのままキレた一人の傍に移動するとソイツの首にナイフを翳した。


「うるさい。黙れ。話が進まない。イライラするんだよ」


尻もちをソイツが付いたのを確認するとサバイバルナイフをしまい、どうぞと話の続きを促した。


「……ぇ、えぇ。今からステータスの確認とこの世界について話していこうと思います。とりあえずはステータスと唱えてください」


「すてーたす」


ブオンという音とともに半透明の板が出てくる。

金持ちどもははしゃいでいる。


「そこには各々のスキルや能力値が記されています。今から順番に名前を呼びますのでその板に書かれているのをそのまま読み上げてください。よろしくおねがいします」


というかずっと光っている少年がいるんだよな。

キラキラしてるけど目が痛い。


その少年から視線を外して天井を見上げる。

うつらうつらしているときに耳に入った小さくも大きくもない。

けれど芯の通った声。


「旭川 湊です。職業は剣士。ヒットポイント154。マナポイント98。攻撃力322。俊敏121。知力89。属性 風 無属性。称号 百鬼夜行の王。加護 妖物の加護 太陽神の加護。スキル 刀熟練。世界理論。以上です」


のそりと起き上がりそちらをみると黒髪に緑色のメッシュ。

根本は青っぽい。

瞳は黄色。


片側の少し長い髪を触っている。

中性的だが男だ。


金持ち、というわけではなさそうだが優等生というわけでもなさそう。

先ほどの知力を聞く限りどうやら勉強は得意ではなさそうだし。


「では最後ですね。赤道 愉快さん」


呼ばれた。

のそりと木箱の上から降りる。

俺に視線が集まる。

普段は一人からの視線は独占するけど、こんなにもたくさんの人からの視線を集めることはないから緊張する。


「あら、先ほどのナイフの方」


「覚え方酷くないですか? というかどうやって俺の名前を把握しているんですか? 自己紹介してないですけど」


「企業秘密です」


—知りすぎると碌なことないですよ。


耳元で女は囁いてから何事もなかったかのようにさあと促してきた。


目の前の板を見る。



実はずっと思っていたのだが。

俺だけ板が黒くて字が読み取れないのだ。



「あの……ステータスの板が黒いというか赤黒くて字が読み取れないんですけど。どうしたらいいですか?」


「あら……水晶持ってきて」


水晶というと丸い透明な球体状のものだったはず。

騎士が出ていきほどなくして戻ってきた。

手には水晶が握られている。


「さぁここに手を翳して」


手を水晶の上に置くと、キラキラと煌めきだす水晶。

だがキラキラと光ったのは一瞬だった。

その後、ぐるぐると赤黒くなったと思ったらそのままバキンッと割れた。


赤黒いといわれて一番最初に思いつくのは血だ。


こっそりと破片を一枚もらっておく。


「これってどうなるんですか?」


俺のステータスが今の状態では分からないようだし。


「職業だけはギリギリ分かったからそれだけ記録しておきましょうか。職業 拷問士。……あなた元の世界で何してたのよ」


「……え。拷問です」


「どんな過酷な世界から来たのよ……」


あきれ顔で言われるがそういう環境で生きていたとしか言えないからニコリとだけ笑っていた。


「さて、ステータスの確認が終了したということでこの世界について説明をさせていただきますね」


後ろの騎士が前に出てくる。

頭のアーマーを外し、手に持つ。


「それについては我々から。皆様このような姿で失礼する。我々は世界協和機構所属騎士団、ヴァンダル兵科である。この世界は現在魔王に侵略され人間の領地として残っているのは世界全体土地として2割に満たない。それ以外は精霊や巨人族。そして魔族に取られてしまっている。精霊や巨人族は魔族に組しているため全てが我々と敵であると心得てくれ」


「それともう一つ。君たちが裏切り行為などが判明した場合我々が……殺す」


その奥底に眠る冷たさを感じゾクリとした感覚が駆け上がった。

だがこれは恐怖ではなかった。


興奮だった。



壊してみたい。拷問したい。



「では、今日はもう休んでいただき明日から早速訓練する。今のうちに休んでおけ」


その後案内された部屋に入ると監視の目がないかを入念に確認した。


確認し終えるとため息をどっと吐いた。


分かっただけでも13。

監視しすぎだろ。


一度だけ見せているサバイバルナイフは問題ないと判断してそれを腰から出す。

翳すけれどいつも通り鈍い輝きを見せるだけだった。


これさえあれば、俺は生きていける。



この世界は危険が多すぎる。

それに明日から訓練と言っている。


脳みそだけでも休ませるか。

眠れないから目だけを閉じる。


今日はたくさんの新しいことがあったけど、生きているならそれでいい。



―早く拷問したいなぁ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拷問専門は異世界へと転移しました 鴉杜さく @may-be

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ