いずれ菖蒲か杜若 👘

上月くるを

いずれ菖蒲か杜若 👘





 鯉のぼりや菖蒲湯で男子の成長を祝う端午の節句の風習は、昨今、急速にすたれ、LGBTQなど多様性化が進む今後は、ますます過去のものになる傾向が強まりそう。


 伝統の衰退を惜しむ声も聞かれますが、ヨウコさんは菖蒲湯はともかく、その気はなくてもこれ見よがしな印象になりがちな鯉のぼりには複雑な思いを抱いています。


 民家の庭で風に泳いだり項垂れたりしている場面には懐かしさより当惑を、河川の両岸をまたいで大量の鯉のぼりを飾る近年の光景には、正直、美より煩を感じます。


 一方の菖蒲湯は他者の迷惑にならないし、清々しい香りや、血行促進、疲労回復の効果を楽しめるそうなので試してみたいと思いつつ、まだ恩恵に浴したことが……。




      🎏




 今朝のラジオを聴いて、その菖蒲が、自分がこうと信じて疑わなかった(花菖蒲の花が咲く前の状態)菖蒲とは、まったくもって似て非なるものと知って驚きました。


 さっそくグーグル先生に教えを請いますとたしかに!! 菖蒲湯に使う菖蒲の花はアヤメとは似ても似つかず、蒲の穂のように素気ない(菖蒲さん、ごめんなさい)。


 それもそのはず、菖蒲はサトイモ科orショウブ科、花菖蒲はアヤメ科に属するそうですから、そもそもの植物としての始まりからして別種だったのですね、は~。💦


 で、そこからがまたややこしいのですが、菖蒲はかつてはアヤメと呼ばれていて、花菖蒲は花アヤメと呼ばれていた……理由は花びらに網目の模様があったから??




      🏇




 まったく本家本元の菖蒲にとってはやれやれな話ですが、それをさらにややこしくしているのが「いずれ菖蒲か杜若」という、いかにも意味ありげな諺っぽい言の葉。


 しかも、その語源には、平安時代末期、平清盛勢に追われて源氏が没落するなか、源氏側でただひとり平家側に就いた従三位じゅさんみ源頼政が関わっていたというのですから。


 驢馬のような駄馬に乗っていた老いぼれ武者のイメージの頼政が、なんと、怪鳥・ぬえを退治した褒美として鳥羽上皇から寵愛の菖蒲前あやめのまえという美女を賜ったそうです。


 源頼政とて初めから老いぼれていたわけではなし(笑)、それなりの艶福があって当然ではありますが、十二人の美女から選んでみよと命じられたとは、眼福眼福!!

 

「五月雨に沢辺の真薦まこも水越えていづれ菖蒲と引きぞ煩ふ」歌でお応えしたと太平記にあるそうで、それは後付けとしてもなかなか隅に置けませぬね、従三位頼政。(^_-)




      ⛩️




 ところで、艶福にはとんと縁のないヨウコさんにも、花菖蒲の思い出があります。

 ころは六月、梅雨に入る前かor梅雨の中休みであったか、鈍い曇り空の日でした。


 ある大先輩に連れられて、明治神宮御苑の花菖蒲園を観に、途中下車したのです。

 いやなことの前にきれいなものを観ておこう……その思いやりにいたく恐縮して。


 仕事でとんでもないことを仕出かしたお詫びに某団体事務局に向かったのですが、当時すでに芥川賞を受賞されていた大先輩には、どれほどのご迷惑だったか。🙇

 

 白色、桃色、紫色、青色、黄色など、いずれも清楚な、そして凛然と真っ直ぐ空を目ざす花菖蒲と真逆の自分の現状が情けなくて、地面ばかり見ていましたっけ。💧




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