第6話 週末

9歳になった年の5月に行った水族館、今そこにいる、あの時小さいながらに感動した。一面青いシーツで、そのシーツにはいろいろな生命がいて。包み込まれるような気持ちになった。母は私の手をぎゅっと握っている。でもその手の温もりはリアルに感じた。もう10年近く握られたことがないけど、母の手の温もりだとすぐに分かった。涙が一筋流れた。母の叫び声が聞こえる。でも目を開けることができない。今までの疲れなのか、起きることができない。母の顔が見たいけど、今はもう休もう。母の嗚咽が最期に聞こえた音だった。


最期に人間は走馬灯を見ると言うけど、1番楽しかった記憶をまとめたものが走馬灯なんだろう。最期にあんな幸せな経験をできるならいいや、と思う。母には無条件に愛してもらえなかった。やっと認めることができた。今までは認めたくなかった。でも私は母を無条件に愛していた。母は今どうしているのかわからないけど、私のことを忘れさえしないでくれればいいけど、実際はどうなんだろう。世界から消えても全部は知れない。だからこれからはずっと母の後ろから絶対離れないよ。

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消えても見きれない 美琴 @azu___5

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