雨上がり。夏のアスファルト。

 太陽は大抵、私の思惑とは違ってる。

 夏は近過ぎるし、冬は遠過ぎる。

 窓から西門からの道を見下ろしていると、仲睦まじげに歩く二人の男子が映る。その内の一人が随分楽しそうに話しかけ、一人はそれを鬱陶しそうに退けた。

 性質がまるで違っていても仲が良さそうな二人に思わず笑みがこぼれる。二階まで漂ってくる雨上がりのアスファルトの匂いは青春そのものだった。彼らを取り巻く空気もまたそうだった。

 雲を切り裂いて差し込む日差しが水溜まりに反射して街を飾った。

 サアっと風が吹いて全部をかき混ぜる。


「お待たせー、いこー」

「んー」


 私は「マジ最近暑すぎサイアクー」と呟く親友の怪訝な顔を見た。彼女は不機嫌ではあったが、何処か晴れやかでもあった。それは私が欲しいものな気がして「ワカルー」と適当に返した。


「帰りマック寄らん?」

「いいよー」

「そういや関西はマクドらしいね」

「あー、聞いたことある」


 他愛も無い会話は私を現実に引き戻す。ここに青春の香りはしない。

 酷く湿度が高い下駄箱に来ると気分は最低だった。以上な数の傘が刺さった傘立ての周りに異常なほど不快感を感じて気が滅入った。ぬるーく湿ったローファーの履き心地も最悪だ。

 私は外に出て晴れ始めた空を見上げた。


「あー、肌がキモい。サイアク。マジイライラするわ」


 親友の言葉に「分かるわー」と適当に返した。いっそ思いっきり晴れるか思いっきり雨が降るかにしてくれ、という気分になる。

 私達が並んで歩き出すと全てを流すような強い風が吹いた。


「あー、キモチー」


 鬱陶しくスカートを煽ぐ親友を私は睨んだ。はしたない奴は嫌いだ。でも、彼女のだらしなさは今に始まったことでもない。だから私は睨むだけに留まった。


「パンツ見えるよ」

「いいよ別に減るもんじゃないし。それより暑い方がヤだわ」

「マジ暑いね」

「いや、ホントそれ。もっかい風吹いてくれ」

「分かるわー」


 私は適当に返した。

 雨上がりのアスファルトの匂いが鼻腔をくすぐった。

 今日も太陽は私の思惑とは違っていた。

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向日葵と山梔子 こあ @Giliew-Gnal

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