ノーシス 短編集

ひろや本舗

『死ぬとRPGゲームの世界に行くようになった現実の話』


 長い時間のような、短い時間のような。覚束ない感覚が消えて、私の目が覚めてくると、光が広がった。


 真っ暗な夢だった。それが覚醒するにつれて、最初から真っ暗な場所にいたのか、と思った。


 私の足元に美しく透明な水面が広がる。足元は冷たくはなく、濡れている感覚もなかった。水面に雲が浮かび、暖かな日差しが差し込んで、水面を輝かせていた。


 正面を見ると、いつの間にか黒人の女性が立って居た。白の光沢を持ったエナメルのボンテージ風の衣装。それが非常に、黒い肌に映えていた。美しく、そして、スタイリッシュ。


 それを見た瞬間、手足が震え出し、力なく崩れ落ちた。私は、胃の辺りが非常に重く感じ、吐き出そうとするが何も出てこない。


 私は、この場所とこの女性を知っている。


 最悪だ。ここは『ノーシス』だ。


 私、浦川洋二は、『生前』にノーシス関連の仕事をしていた。研修で聞いたことがある。ノーシスのオープニング、チュートリアルは浅瀬の美しい川に、黒人の美女が立って居る、と。その時の資料に掲載されていた画像にも、そっくりだった。


――ノーシス。

 今や、知らないものはいない、ゲームの名前だ。


 ノーシスは、故人が転生と副賞の為にRPGゲームをする世界だ。

 故人の記憶をデータ化し、アバターを作成する。アバターはプレイヤーと呼ばれ、ノーシスと言う中世ヨーロッパを元としたファンタジー世界に放り込まれる。プレイヤーは、RPGの世界で生き残りをかけて冒険をしなければならない。


 そして、最高難易度のクエストを達成した時、ゲームクリアと見做され、規格外の豪華な副賞と共に『現世に復活』できる。ノーシスでは、その復活を『転生』と呼んでいるが。


 今、私はノーシスにいる。私は『故人の記憶』から作られたアバターだ。


 つまり、私は死んだ。


 死んだ身体、アバターだというのに、生前の身体とまったく変わらない。冷や汗、混乱、胃の深く鋭い痛み、眩暈。全てが変わらなかった。生きている、とまで思える。死んでいないのではないか。これは何かの間違いではないか。夢とか。


 私は、自分が死んだ時の事を思い出そうとした。


 いい人間であろうとした。人が、嫌がる事、面倒と思える事でも率先して頑張ってきた。どうして私が……こんな目に。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、自分が死んだときの事を思い出そうとした。

 日曜日、私は、毎週の予定として身障者のボランティアに出ている。

 ボランティア団体で、受付、来客対応や雑務、イベント企画の打ち合わせを行った。特に、変哲もないありふれた一日だったのを覚えている。

 翌日、会社に行ったのを覚えている。

日曜日は、私の命日ではない。

 朝、部下が私のデスクに来て、申し訳なそうに言った。可哀そうなぐらい縮こまっていて、表情が暗い。

「水曜日に先方へと提出する報告書が間に合わないと思われるので、人手がほしい」

彼、橘君は非常に真面目で、私の指示も的確にこなしてくれる。ただ、真面目と丁寧さで、業務に時間をかけすぎている点があった。

 私は、他の社員に声をかけたが空きはなく、私が手伝う事にした。

部下の報告書の内容を確認し、作業を手分けする。私は、できた部分のチェックを行い、修正等を行った。橘君は苦しそうな表情をしつつも、真剣にパソコンに向かっていた。

彼が、少しばかり顔色が悪く、頬がこけているのが気になった。仕事のストレスもあるのだろう。この報告書が終わったら飲みにでも誘おうか、と思った。

 結局、水曜日には間に合わず、部下と一緒に先方へ謝罪に行く。昼に、落ち込んでいる部下を励まし、奢ろうとするが、橘君は「自分のミスの為」と言って、各々支払う事になった。

 帰社後、部長へ顛末を報告し、その夜、部長と居酒屋へ。

 確か、部下の話、ノーシスの話などしたかと思う。酒のペースが速かった事を覚えている。店を出て、道を歩き……。そこから記憶が無い。翌日の記憶もない。そこで終わりだった。

 自分は水曜日に死んだ。しかも、急アルで……。

「もしもーし、大丈夫ですかー。大丈夫ですよー。頑張れば転生できますからねー」

 と、他人事のように言う、ノーシスの女性に腹が立った。

 つまらない死に方をしたものだ、と悔やんでも悔やみきれない。真面目に、正しく生きようとしてきた。それを実践してきた自信はある。それも、正しい事をしていればいい事があるはずだ、との思い続けてきたからに違いない。

 何故、こんな目に私があわなくてはならないのだ。もっと、ノーシスにくるべき人間はいるだろうに……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ノーシスに来て、最初に行った事は馬車を買う事だった。


 私は、ゲームがそれほど得意ではなかった。自分の苦手なものを、ちゃんと理解していた。


 得意な事と言えば、営業し商売する事。それぐらいしか自分にはできない。ずっと、仕事ばかりしてきたのだ。


 ノーシスでは、現世から課金される事で手に入れる事ができるMC(マジッククリスタル)というものがある。そのMCは、コルと呼ばれるノーシス内の通貨に変えたり、ガチャに使い装備品を当てる、などができる。


 他にも様々な利用価値があるMCだが、最初にシステムからもらう事ができるMCで馬と馬車を買った。驚くほど簡単に手に入れる事が出来た。


 露店を回り、特産品を調べ、それを買って街を出た。


 最初は失敗した。


 道端のモンスターに阻まれ、最初の街へと命からがら逃げ帰った。

道沿いにはモンスターがいて邪魔をする。街道から外れるとより強いモンスターが。夜になると、さらに強いモンスターが人々を襲う事を知った。


 馬車での商売をするには、強いプレイヤーを雇うか、自ら強くなるしかない。


 が、この問題は、他の馬車やプレイヤーの団体の後ろをバレない程度の距離を空けて進む事で解決した。他のパーティーがモンスターを駆逐すれば進む事が出来る。

私としては非常に申し訳ない気分で一杯だったが、聞いた話によると、特段マナー違反というわけではないらしい。しかし、これについては議論がある。


 先行していたプレイヤー達を街で見かけたら奢ったり、格安でアイテムを卸したり、お金を渡したりしていた。そうして、少しずつ顔も広くなり仕事も増えていった。


 街や村の特産品を仕入れ、馬車で輸送し、商店で売ってもらう。そんな毎日が続いた。


 その一方で、レベルアップもする。


 危険な道を行く時にはプレイヤーを雇う。そのプレイヤーからレベルアップ、スキル、装備の助言を求め、自身を強化していく。


 一人での交易に慣れ、大分経った頃だった。


 その頃、プレイヤー間で大きな戦争が起きた。


 人身売買を生業とするプレイヤーギルド、テアティサル・ローカストという組織。

それに対抗するミレミアムというギルド。そのミレミアムを中心とした、プレイヤーギルド連合とローカストの戦争だった。


 回復アイテムや戦闘用のアイテムが飛ぶように売れた。私としては、ローカストは主義思想上ありえない、と思っていたので、ミレミアムに格安でアイテムを卸し続けた。


 ローカストはNPCと呼ばれるノーシスの人々を奴隷化し、プレイヤーを捕らえ処刑する事で経験値の売買を行う。そんな非道の奴等は許せない、という正義感からだった。いずれは、自分もミレミアムのメンバーになろうと思っていた。物流と補給の点では、かなり役に立っているとは思うが。


 正しい事の為に戦う、という方が自分の信条にあっていた。


 ミレミアムの支部へアイテムの納品した日の帰り。


 モンスターや危険なプレイヤーを警戒し、移動中に、森で倒れている人を発見した。


 鬱蒼と生い茂る木々、その根元に彼は横たわっていた。鎧が、木漏れ日に反射したから分かったのだった。


 男性のプレイヤーだった。プレイヤーとNPCの違いは、ぬいぐるみのようなナビゲートシステムが身近にいるかどうか、で分かる。彼の胸元にナビシステムがいた。彼のナビシステムは甲虫だった。デザインはぬいぐるみのような姿。このナビシステムの姿は、MCで変更できる。私は、柴犬タイプだ。いつも私の横にいる。柴犬タイプは人気があり、購入にはMCもかなり掛かる。


 ナビシステムは基本的に不干渉であり、命じられたことしかしない。ゆえに、自分のプレイヤーが死にそうだとしても何もしない。


 大柄で、髭はなく髪は短い。格闘家か、ボディビルの選手のような印象を持った。若い顔立ちだが、この世界のプレイヤーに歳は関係ない。


 男を馬車に運び、残っていた回復アイテムを彼に与えた。


 このノーシスという世界では、死にかけると、次第に身体が重く動かなくなり、意識が遠のく。そして、意識が完全に薄れた時、二度目の死が訪れる。


 私も一度、経験がある。あの時の恐怖は消し去る事は出来ない。今、思い出しても、あの自分が細く小さくなるかのような、消えていく感覚は身震いがする。


 助けられた彼は、一命を取り留めたかのようだった。


 私は、彼を介抱するとともにある事をしていた。この世界では、通信機能がない為、小鳥型のモンスターに手紙を配達してもらう。このモンスターは、相手プレイヤーを探し出して直接届けてくれる。


 この小鳥に、ミレミアム支部の知り合いに手紙を出していた。


 ふと、背中に気配を感じ、振り返ると助けたプレイヤーが剣を構えて立っていた。


 助けてやったのに、という落胆した感情はない。多分、そういう人間なのだろう、と思っていた。


「今の手紙は?」

 彼は言った。表情は堅い。


「ミレミアムに確認と報告を」


「……助けて貰った礼に命は取らない。馬と馬車を貰おうか」


 確実だった。この男だ。

 前にミレミアムへアイテムを卸した時、こんな話を聞いた。

――ローカストの捕虜を虐待する者がいた。その男性は、ギルドのルールに従い、裁かれる事になったが、捕縛される前に逃げた。彼を追っている。見たら連絡してほしい。

 と、顔が書かれた手配書を渡されたが、「私は、賞金稼ぎではないので」と手配書を受け取らなかった。


 最初に、男性を見た時、手配書の男に似ていた。ちらっと見ただけだったので、記憶に自信がなかったが。


 一応、ミレミアムギルドに恩を売りたいので連絡だけはしておこうと思い、手紙を出した。


 捕縛しておけば良かったな、と思ったが仕方がない。手配書の男に、そっくりなだけかもしれなかったし、と自分でも間抜けな言い訳をする。


「念のために聴くが、ミレミアムに追われているのは、お前で間違いないな?」

 彼は黙ったままだった。


 私は、もう一度尋ねる。

「捕虜虐待でミレミアムに追われているのはお前だな?ローカストからも手配書が出ているぞ。大人気だな」


 ミレミアム支部で話を聞いた後、他の街でローカスト側の手配書を見かけた。


 ローカストの捕虜を虐待していたのだ。あちらからも敵認定されるだろう。


 他の賞金稼ぎにやられたか、追っているギルドの誰かにやられたか。返り討ちでもしたのだろうか。


 彼は、眉を潜め、目が細くなる。その中の瞳が、怒りで強く輝いたように私には見えた。歪んだ口で、彼は吠えた。


「ローカストはクソだ。クソに人権もルールもいらない。俺が正しい事をしてやったんだ。クソは全て死ぬべきだ」


 気持ちは分からなくもないが、同じレベルに下がるのもどうかと思う。相手がクソならクソな事をしていい、というのは、大抵はクソな事をする大義名分が欲しいだけだ。結局は同じレベルの人間で、立場が違っただけだろう。正しいクソは存在しない。


 私は腰に下げた剣を抜いた。対プレイヤー戦は、いつ以来だったか……


「ミレミアムに命がけで尽くしてきた。これは重大な裏切りだ」

 彼は絶叫する。憎悪を吐き捨てるかのような声、そして、表情から怒気の強さを知る事が出来た。


 言い訳と理由を求め、その言い訳を盾に好き勝手し、何か起きると他責を問う。こういうタイプは何を言っても無駄だ。


 相手の足が動いた。それを感じ取る、と相手は一瞬で間合いを詰めてきた。だが、対応できない速さではない。私は剣で受けようとする。


 相手の剣が、尋常ではない速さで輝き、弧を描く。ガキン、と派手な音が、森の静寂を破る。


 相手の一撃の重さに、受けた剣が私の横っ腹に埋まる。そして、私がうめき声を発する暇もなく、二撃目が、私を襲う。先ほどより耳障りで、甲高い金属音が鳴り響く。


 同じ位置に打ち込まれたのは助かったが、自らの剣が、私の身体を深く切り裂いた。受けきれなかったのだ。


 焼けるような痛みと痺れ、動きづらくなる手腕。身体がべっとり、とした何かに絡まれるかのように重くなる。死の重み。私の身体が、二度目の死に近づく。


 流石、元ミレミアム。強い、と認識した。命のやり取りは何度あっても慣れるものではない。緊張で胃に鉛が出来たかのように感じる。表情が強張る。冷や汗で身体が凍えるようだった。


 私の、武器で防御するパリィスキルが低いわけではない。純粋に、相手の技にガードをものともしない、異常な攻撃力と速さがあるのだ。


 しかも、相手の繰り出した技は、ただの二段切り。初期技でこの威力……。


 各武器に初期技、二次技、三次技……と5段階の攻撃スキルがある。その中で、剣スキルの初期、一番下級の基本技で、この威力。


 攻撃スキルを含め、スキルは使っていく程にレベルが上がっていく。

 そして、剣の常時発動型スキル、所謂パッシブスキル、『剣ダメージ増加』、『スキルディレイ減少』などのスキルも上がっていく。


 その、各スキルが高い、というだけでは、この威力は説明できない。これはそれらの最大レベルを超越している。


 多分、彼自体の固有スキル、つまりは彼のみに与えられたスキルに依るものだろう。


 固有スキル、最近では能力と呼ばれるものがある。一人一人違う能力を持つ。パッシブタイプが主流である。常時発動型のほうが、強く、利便性がある、という事だった。


 またも、彼は二段切りを私に打ち込んできた。あの高速の斬撃が、私を切り裂こうとする。


 私は、瞬時に「100万」と呟く。斬撃は、私の身体を多少、切り裂いたものの、致命傷にはならなかった。先程とはうって変わって、私の身体で相手の剣が止まった事に、相手が驚愕する。


 短期で決めないと、自分の命も危うい。それだけではない。大損をしてしまう。


 私は「100万」と呟く。スキルを発動し、技を繰り出す。自動的に修正される、その動きに身を任せる。


 3次技、ライトニングブレイド。


 刃が輝き、一閃を見舞う。ライトニングブレイドは、前方に高速で移動し、すれ違いざまに光速の斬撃で、敵を薙ぐ技。刀を装備している人間は、居合など別の名前つけていたりする大人気技だ。


 この3次技の威力と、3次技のレベル、そして、私の能力で攻撃力は上乗せされている。


 男は腹を斬られ、その場に倒れる。


「ぐぅ……あぁぁあああ」

 彼の口から重く苦悶の声が零れ、それが断末魔の絶叫に変わった。恐怖と悲痛な響きが、私の耳を貫き、脳を揺らすかのようだった。


 相手が消え始める。


 私は、一撃で相手を倒すとは思っていなかった為、しまった、と思った。


 この一撃に、100万コルは、高すぎた。

 私の能力――バトルスペキュレーションは、攻撃と防御の一回毎、金を支払い、その金額に応じて、それぞれの効果を上げる。

 金額に上限は無いため、資産があればある程、一撃必殺もしくは鉄壁になる事ができる。が、それをすれば破産する。上限は無いが、資金がマイナスになってまで能力を発揮した場合、多大なリスクが待っている。最悪は死だ。


 うまく金額に合った攻撃と防御を行うのがコツだ。ケチれば死ぬ。大盤振る舞いをすれば、大損どころか、経済的に死ぬ事も、実際に命を落とす事もある。


 100万コルは、相手の防御力に合っていない。オーバーキルだった。つまり、あの攻撃で、損をしてしまった。防御にも何かしらのバフ――ステータスアップが為されている、と予想したが、外れてしまった。


 だが、今、生きている。それ以上の得は無い、と納得した。


 男は完全に消える前、呟いた。

「何故……俺がこんな目に……」


「自業自得だろ」

 私は吐き捨てる。


 その後、手配書を手に入れ、懸賞金が支払われた。どうやら、倒した後でも支払われる仕組みらしい。


 賞金300万コル。今回は100万の儲けにしかならなかった。賞金稼ぎは割に合わない、と思いつつ、私は次の街へ向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 現世。


 橘は、指名手配犯の男が死ぬところを見て、快哉を叫んだ。


 上司の裏川を殺してから、彼はずっと、ノーシスでの裏川の様子を見ていた。

現世では、ノーシスの様子をネットで見る事ができる。


 あの男が、ミレミアムで新人ながら傲慢な振舞いをしていた時には、腹も立ち、ストレスにもなった。ローカストのプレイヤーを、牢屋番として凌辱、拷問、虐待をしていた時には、早く死なないかな、と願ったものだ。


 あの姿は、現世と同じだった。人は、死んでも治らないのだ、と橘は知った。


 報告書の遅れを橘に押し付け、必要のないチェックと、修正という名の自分好みの改変を行い、仕事を遅らせたばかりか、先方への謝罪も橘に謝らせてばかりだった。  


 仕事は基本、余計な事をし、部下のせいにしながらも、自分が部下思いな上司である事を見せびらかす。裏ではパワハラを行い、橘も受けてはいたが、何人もの先輩が辞めるのを見てきた。


 そもそも、納期に間に合わない仕事を振っておいて、日曜日に呑気にボランティアをしているのが腹に立つ。過去に、その話をしたが、良い事をしている俺の邪魔をするな、と、こちらを悪人と言う様子で叱られたものだった。


 無能で、善人ぶる事だけに苦心し、立場が下の人間を虐待する。それが裏川という男だった。あの一週間の出来事で、橘は溜まりに溜まった憎悪を吐き出すことになった。


 あの日――橘が裏川を殺した日。


 仕事を押し付け、部長と飲みに出かける姿を見る。

 そして、深夜、仕事帰りに、泥酔して倒れている浦川を見つけた。

 頭が真っ白になった。憤怒と屈辱感で、身体が自然と動いた。裏川を、酔った同僚を介抱するかのように、人気のない路地へと運ぶ。


 そして、ネクタイで首を絞めた。


 暴れていたが、すぐに動かなくなった。


 人を殺したという事実に恐ろしくなったが、すぐに解放感と高揚感に満ちた。悪人を倒した。自業自得だ。


 自分が殺した上司の葬式に、何事もなかったかのように参加し、彼の両親から「部下として、ノーシスにいる上司を応援したい」だのなんだの言って、上司のノーシス内での名前を教えてもらう。


 ノーシスの様子を見るには、キャラクターの氏名が必要だ。


 その時から、ずっと彼はノーシスでの裏川を見てきた。今、死ぬところまで。その日々も、今日で終了だった。彼はスマホを手にし、電話をかけた。




 その後、橘は、浦川殺害の容疑で逮捕される。


 殺害を認め、橘は言った。

「二度も、奴の死を見る事が出来ました。とても満足です」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あとがき


 多分、誰かが先にやっているであろう、異世界ファンタジーの叙述トリックを練習に書いてみました。

 時間あったら、叙述トリックについても説明や分類などを書いておきたいところ。


 ノーシスの本編も書かずに、短編書いてました。長編だけじゃなくて、読み切りもあった方がいいかな、と思いまして。

 ノーシス本編では、それほどトリック重視じゃないのですが、よろしくお願いします。

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