第5話 恋愛話

"まもなく発車いたします"

僕しかいない列車の中、発車の振動で僕は右に傾く。今日采和はいないので、僕は昨日と変わっていない景色を眺めていた。

列車が揺れたとき、誰かの体が僕に触れた。その時、上の方から声がした。

「おはよう、凪沙君。昨日ぶりかな?」

「る、類真さん!いつのまに…」

少し後ろが長い黒茶髪に、薄灰色のメッシュが左側に入っているのは、同じクラスメイトの類真。なんだか不思議なオーラを放っていて、近づきがたい感じがする。

さっきまでいなかったのに、気配もなく近づいてきたのは…結構不気味な感じだ。

「今日は、采和君はいないようだね。他に乗客もいないようだし…今は僕と凪沙君の二人きりだね」

「そう、ですね……」

あまり話していないからなのか、とても気まずい。会話に大切なアイコンタクトをとれないこと、とても申し訳ない。

僕は気を落ち着かせるため、視線を外へ移した。外には、木と、田んぼと、緑に包まれた、たまに赤色のある山があるだけ。それ以外は、たまに建物があるくらい。他には逆に安心してしまうほど何もない。

「それにしても、凪沙君が同じ列車だったとは。いつもは別の車両にいるから、分からなかったな」

「僕も、昨日乗ったばっかりなので。類真さんが同じ列車だったのも、今気づきました」

類真は、細い目をさらに細くして微笑みながら話した。僕もその微笑みに少し安心感が湧き、落ち着いて話せるようになった。なのに、なぜか敬語は外せなかった。大人っぽい感じがするからだろうか?

「んー…凪沙君、さっきからずっと敬語だね。僕には、外してもらっていいよ。そうしたほうが、君も話しやすいと思うな」

「わ、分かった。じゃあ、ためで話すよ」

僕は敬語を外すと、類真はますますにっこりとする。嬉しかったのだろう。

僕と類真は、しばらくお互いに質問をしていた。好きなもの、趣味、特技、最近あったこと、苦手なもの…気になることは、どんどん質問して話した。一番質問をしたのは、多分類真。

美奈辰駅に近づいてきた頃、類真はいつも以上の笑顔で僕に言った。

「凪沙君、僕と恋話しないかい?凪沙君の恋愛事情が、ちょっと気になっちゃって」

「え?急に…?別にいいけど」

「じゃあ決定だね。まずは…凪沙君の好きなタイプはなんだい?」

突然の展開に、僕は少し動揺する。何より、初めて男性と恋話をしたので、どう話したらいいのか分からなかった。

「好きなタイプ…うーん……人によるけど、優しくて、人思いで、浮気をしない人…とかかな。基本的に、僕を大切に思ってくれる人が好きだよ。類真さんは?」

「そうだね。僕は、凪沙君みたいな人がタイプだよ」

類真は丸くした指に顎を乗せながら、僕を見つめて言った。

僕みたいな人…僕って、どういう人なんだろう?身長が小さくて、動物が好き。そして周りに流されやすい……?んー、よく分からない。やっぱり、類真は不思議な人だ。

僕が首を傾げると、類真は「フフ」と笑ってから何かを呟いた。その直後――

"次は 美奈辰駅〜 次は 美奈辰駅〜"

「到着だ。じゃあ、行こうか」

「うん、行こう」

類真は最後に何を呟いたのか、そしてなぜ采和はいなかったのか。

いくつかの疑問をいだきながら、僕は類真と学校へ向かった。


その頃の采和ー

「うっわ最悪!電車逃したー!」

数時間に一本の電車を逃し、絶望していた。

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狼と兎と虎と 夜之星 @turuya0912

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