第2話 力の発現2

 僕は駆け出した瞬間から後悔していた。何が楽しくて訳の分からない危険人物と追いかけっこしているのだろうか。

 どこまで逃げれば勝てる?そもそもいつまで追いかけてくるのだろうか。

 追いかけてきていることを確認するために後ろをチラ見すると男はスマホを取り出して誰かに電話をしている。

 仲間を呼んでいるのだとしたらやはりヤクザか何かなのだろう。

(この街にヤクザっていたのか)


 前を向きなおして足に力を込めた瞬間「」、全体重が乗っていた足は踏み場を無くし、体は前に倒れていく。

 足元を見れば直径五十センチ深さ五十センチほどの穴が開いていた。

(こいつ、異能力者か)

 転倒がやけに遅く感じた、足が嫌な方向に曲がる。きっと最低でも捻挫だろう。地面に体をぶつける、鼻に不快な感覚、足に激痛、最低の気分。


 まずい事になったな。きっとこの男はその怒りを僕にぶつけるだろう。蹴りか拳かナイフか、どちらにしろ僕よりも一回り以上デカい男に攻撃されればただでは済まないだろう。

 この期に及んで僕はまだこの状況を面白いと考えていた。

(油断している、足首を捻った小僧一人くらいにこれ以上手間取るはずがないと高を括っている)

 僕は負けず嫌いだ。それは勝ちたいというのもあるが、それ以上に相手に勝ち誇られるのが嫌いだった。この性格は大概悪い方向に向かう、だけれどもそれが性分だった。


 足が痛い、転んだ時に頭を打ったせいかやたらくらくらする。

 起き上がり顔を上げる。すぐ近くに男の影。顔色は感情の高ぶりのせいか赤くなっていてはげていたら茹蛸みたいになっていたのだろう。

 現代人の性か未だに握りしめていたスマホを投げつける。そして同時に男に飛びかかる。狙いは一点眼球。

 最早勝ちたいとかではなく、僕に残っているのは後悔させてやるという一念だけだった。

 拳に湿った硬質で少し柔らかい感触。顔に衝撃。拳に肉をたたく感触。腕を切り裂かれる。脇腹から体に異物が入る感覚。痛みで全身にうまく力を入れられなくなる。手で何かを掴みほどける感覚。手には大量のほつれた繊維。

 こいつこの炎天下に手編みのセーターでも着てんのかよと最後に笑ってやろうとしたとき、男の影が見えないことに気が付いた。

 それから見えたことは一瞬のこと過ぎてあまり理解できなかった。

 血だまり。酷く腰の曲がった巨大な老婆。青い雷。桁違いの衝撃。

 僕は理解する間もなく気を失った。


///


 コンクリート打ちっ放しの冷たさを感じる天井、白いカーテン、ポニーテールで長身の女。

「目覚めたのね、いいわそこで寝てなさい。余計なことをするんじゃないわよ」

 そう言って女はカーテンを開けて出ていった。


 程なくして白衣の初老の男がやってきた。

「鼻骨骨折、腕の三ヶ所の切創、脇腹からの刺傷、そして重度の脳震盪。まあ一週間は安静にするといい」

 そういうだけ言って男は立ち去ろうとした。

「ここはど・・・」

「そうそう、本題を忘れていた。君には異能力の無許可使用の罪がかかっている」

「何を言って・・・」

「まあ、それ自体は相手の男も同じだったが、君は我々の異能力者の管理から逃れていたという罪もある。精々言い訳でも考えておくといい」

 言いたいことを言い終わったのか僕の言葉を一切聞かずに白衣の男は去っていった。


(ここはどこなんだよ)

 動かそうとしても体はいうことを聞かなかったので僕は目を閉じた。

 最後の瞬間見たあれらは何だったのだろうか。あの時僕はきっと死ぬのだろうとどこか思っていた。だけどここにこうしているということは助かったのだろう。

 そして白衣の男が言っていた「異能力の使用」とは何のことだろうか。

 考え事をしようにもどうにも思考がまとまらず、いつしか僕は眠りについていた。


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人類バーサス_異能力 よりとも @yoritomob59

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