人類バーサス_異能力
よりとも
第1話 力の発現1
70年前、世界を巻き込む大きなテロが起こった。
それは今では認知されている「異能力」を用いた最大のテロ事件で、一時はそのテロ組織が独自国家まで作り出す程の発展を見せた。
当時はまだ異能力がまともに認知されておらず対応が追いつかず、多くの人が亡くなったらしい。
異能力というのが完全に個人に属している体系化不能の能力で、人々は隣人を恐れた。それ故に情報が大きく封鎖されて当時の状況は断片的にしかわかっていない。
しかし確実に言えることはこのテロ事件は解決していて、どのようにしてそこまで発展した事件が解決されたのかわかっていないということだ。
この事件を解決したのはどこぞの軍隊であったり、魔法使いの末裔であったりと様々な憶測が飛び交っていて、中にはただ一人の少年が解決したという荒唐無稽な噂まで信じられている始末だ。
そしてテロ事件が解決した後問題になったのはテロ事件に関わっていない異能力者たちの対応だった。
当時はそれは深刻な問題で魔女狩りのように異能力者が私刑にあって吊るされるなんてことまであったらしい。
現状を重く見た国際連合は二度とこのようなことが起こらないようにと異能力研究都市「サイト」が設立され、そこで超常の力を管理、研究するために世界中の異能力者が集められた。今では全世界で六つのサイトが設立されている。
そしてサイトには大きな自治権が認められていて、人種も生まれも国も関係ない一つの国家の様相を呈している。
生後半年以内に異能力の有無が検査されてサイトへの移動判断がされる。全ての異能力者がサイトに行くわけではなく、一般生活に支障をきたす強い異能を持つ者だけが行くことになっている。
僕はこの八月に「サイトA」の高校に編入することが決まった。
普通は異能力は生まれた時から保持していて途中から発生することはまずないらしい。しかしその事態は起こった。
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七月の夏休み、炎天下。僕は一ヶ月を超える休みを持て余して真昼間に一人散歩に繰り出していた。
(きっとこの後僕は暑すぎて散歩に行くと決めた僕を恨むのだろうな)
僕はそうやって近い自分の未来を予想しながらあてもなく散歩をしていた。目的地はない、強いて言えばなにか面白いイベントがあればいいのにと考えていた。
そんなことを考えたからだろうか、それとも運命か僕の耳は男の怒号に甲高い悲鳴、騒乱の音をとらえていた。あまりのタイミングの良さに鼻で笑い、僕は自分の心に従って音のほうに足を向けた。
「ふざけてんじゃねえぞ!」
男がナイフを振りかぶりながら叫んだ。
激昂しているのだろうか何か言っているが遠巻きからでは言語として認識することができない。
甲高い悲鳴を上げたのは鼻から血を垂らしながら地面に倒れているやたら夜の街にでもいそうな派手な格好をした女だろうか。
思ったよりも重大な事件が発生している。男はいまにもナイフを振り下ろしそうなほど平静を欠いているし、そのガタイの良さは力仕事か肉体を誇示することで利益得られる何らかの_例えば脛に傷を持っているような_仕事についていることは容易に想像がついた。
住宅街の細道、周囲の住宅を見ると窓からちらりと人影がのぞいているのがわかる。それ以外の人影はなし。
(まずは警察に連絡だな)
冷静さだ。焦りはミスを生む。僕は平静を欠き始めている自分の精神を無視してスマホを取り出して警察へ連絡をした。
(果たして彼女は警察がここに来るまで無事でいられるだろうか)
たしか警察が現場に到着するまで十分か二十分かかると聞いたことがある。それまでにきっとあの男は地に伏せる女に一生残る致命的な傷を与えるだろう。
そして僕はそれをただ眺めるだけ?
きっとあの男も自分がこの法治社会で人目のある場所で何をやったのか気付くだろう。その時僕を見つけたらどうするだろう、住宅から覗く人影に気が付けばどうなるだろうか。
足が震えている。これは恐怖だ。目の前で行われている野蛮な光景へのものだけではない、このまま立ち尽くして傍観者でいるだけの臆病な自分への恐怖だ。
(きっと僕はここで立ち尽くしたことを一生後悔するだろう)
(きっと僕はこの選択を悔いるだろう)
面白い。自分の心の動きをそう感じて、僕は口角をあげて息を吸い込み大きく声を上げた。
「うわ、はげが人を襲ってる!」
その言葉とともに男はこちらに振り返った。
僕はこちらにおびき寄せるために警察に通話する振りをしようとしてそういえば警察に連絡しようとしてコールしていたことを思い出した。
これ幸いと警察に住所を告げ始めると男はこちらに走り出してきた。
僕はそれを見て走り出した。
ちなみに別に男ははげていなかった。
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