ゴールデンウィークに読むのにピッタリなゴールデンな小説
豆腐数
ゴールデンな小冒険
古道具屋さんで古地図を買った。安かったのと「ひょっとしたら宝の地図かもよ」という店主のおじさんの口車にまんまと乗せられた結果だ。それには大ざっぱなここら辺の情報が載っていて、今私がいる町から東の方向、何もない荒野にポツンと井戸の絵が描かれており、その上に「GW」とある。他にこれといった情報は載っていないようだし、おじさんの言葉を信じるなら、この「GW」の井戸になにかあると考えて間違いないだろう。いつもお昼に食べるたまごサンドイッチより安い地図、最悪ムダ足でも駆け出しの冒険者の私には経験値になるだろう。早速準備をして出かける事にした。
この街から目的の井戸までは徒歩半日くらい。今は日が昇ったばかりだから、お昼過ぎくらいには着く。
街で朝ごはんに宿の半熟ハムエッグとカリカリトーストと野菜スープを食べて出発。途中でスライムをボコったり面白半分にじゃらしてみたりしながらまっすぐ東へ進む。お昼のたまごサンドイッチの包みを開けてからしばらく歩いた後、目的の井戸にたどり着いた。
地図通り、周囲は草木もチョロチョロしかない荒れた土地。昔はここから水を汲んで人々が生活していたのだろう。昔はこの辺りにも村があったと今朝いた街の食堂のおばちゃんから聞いたことが。とりあえず石でも投げ入れてみる。少しの間の後、乾いた音。都合の良いロープが垂れ下がっていたので、そこから伝って下に降りてみる事に。
井戸の底にはわかりやすく扉があって、開けると謎の魔術による灯りのともされた廊下があった。その一本道を進んだ先にあった部屋のドアを開けた先にいたのは──。
「ようこそいらっしゃいました、わたくし、GWと申します」
全身金ピカのワニが出迎えた。部屋に満ちた謎の灯りを反射してうおっまぶしっ。
「GWって何」
「ゴールデンワニ、略してGWでございます」
「異国の言葉同士が混ざり合ってて気持ちが悪い」
「そりゃわたくしキメラの一種でございますからねぇ」
部屋はよくわからない書物とか薬とかが並んだ棚でいっぱい。井戸端会議と生活の場ではなく、魔法使いの隠れ家的研究所だったのか。通りで都合の良いロープが垂れ下がっていたわけだ。ホコリが積もっていて人が最近まで使っていた痕跡は見当たらず、持ち主は死んだか去ったかして放棄状態のようだけれど。
「そして私を下から見る目つきがいやらしい」
「わたくしワニでございますから! 人間さまとお話しする時、見上げる形になるのは仕方のない事で!」
「そもそもスパッツだからパンツなんか見えないと思うけど」
「スパッツの隙間から見えるパンツもオツなものでごぶぅ!」
背中を踏んづけてやったら感触が柔らかかった。金はやわらかいと聞いたことがある。だから倒すと経験値をいっぱいもらえるタイプの敵なんかは、金ピカじゃなくて硬い鉄の身体で身を守っているんだとか。
メタルじゃなくてゴールデンのワニは、倒したら何をくれるのだろう。レベルアップの音がしないから経験値は大したことないみたい。しかし──。
「おー、金塊のゲロを吐いた」
汚い気もするけど金は金だ、このスケベワニ、もっと吐くかな。
「追加で踏まないでゲボォ!」
「おー出る出る」
「こんなに酷い扱いを受けているのに、主人以上に仕えたくなる、何故!?」
あーその欲求はねぇ……。
「私、魔物使いレベル1」
パラッパッパッパー♪ レベルアップのファンファーレが鳴る。ちょうど今レベル2になったので、自己紹介は訂正の必要がある。
初めての冒険はスケベなワニとの邂逅だった。目立つワニを引き連れて、時々踏んづけては金のゲロを吐かせ、わたしの冒険は続く。
「ああっ♡♡もっと踏んで! シワシワの主人に踏まれてこき使われるより、駆け出し冒険者少女のフレッシュな足で踏まれる方が生きてる心地が……グエ!」
ゲロゲロゲロ。
パラッパッパッパー♪
ゴールデンウィークに読むのにピッタリなゴールデンな小説 豆腐数 @karaagetori
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