毎日小説No.29 二択問題

五月雨前線

1話完結

 仕事を失い、家を失い、愛する妻に不倫され、全てを失った俺。


 公園で寝泊まりしていた時、怪しげなヤクザの集団に囲まれ、『命をかけたデスゲームに参加するか? するよな?』と強引に迫られた。


 デスゲームの勝利報酬は3億円と聞いた瞬間、私は参加すると伝えた。もう失うものは何もない。半ばやけくそ気味に返答するとヤクザの一人に殴られ、私は気を失った。



 目が覚めると、視界は完全な闇だった。そして手足が全く動かせない。何が何だか分からず混乱していると、機械の合成音声のアナウンスが聞こえてきた。


『今から二択問題を出題する。お前が今どちらの状態に置かれているか、答えよ。


①真っ暗な部屋の中で、目隠しをされながら拘束されている

②目を潰された状態で、目隠しをされながら拘束されている


間違えた場合は即死、正解したら3億円だ。じっくり考えるがよい』


 私は必死に思考を巡らせた。目を潰されているかどうかはすぐに判別が出来そうなものだが、全身に麻酔のようなものが打ち込まれているらしく、顔の感覚が全くないために何も判別が出来ない。


 何より、恐怖で頭が回らなかった。50%の確率で死ぬのだ。死への恐怖でガタガタと震えていた俺は、突然閃いた。


 ヤクザの目的は何だ?


 俺みたいなぼろぼろのホームレスを捕まえて何の得がある? 常識的に考えて、ホームレスにいきなり3億円をプレゼントするわけがない。考えられるのはやはり……臓器売買だろうか。いや待てよ、確か人間の眼球は高値で売れると聞いたことがある。臓器移植が目的の場合、目を潰すことはしないはずだ。


 ということは①か? しかし、正解したところで3億円はもらえない。だとすれば……これだ。一発逆転を狙うには、こうするしかない。


「答えが出た! 俺の答えは③だ!!」


『……何だと?』


「そもそも、正解したら3億円なんて嘘なんだろ! どちらを選んでも臓器売買の目的で俺を殺すはずだ!! だから俺はどちらも選ばない! 俺の答えは③だ!!」


『……ぷっ、あーはっはっはっは! 面白い男じゃないか! 気に入った!』


 俺が咄嗟に捻り出した回答は、どうやら向こうのツボを押さえていたらしい。現れた数人のヤクザのよって拘束が解かれた、俺は緊張から解放され、その場で気を失った。




 その後、ヤクザのボスに気に入られた男は流れでスカウトされ、ヤクザの事務所に入所。10年かけてヤクザのトップに登り詰め、今度は自分自身がホームレスを捕まえる立場になるのは、また別のお話……。


                           完


 

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