疲れた夜のタリスカー
白川津 中々
■
クタクタに疲れてもう飲まなきゃ駄目だと思った。
帰り道の途中、少し外れて裏路地に入る。目当てはたまに使うBAR。明日もあるからとりあえず一杯だけ飲んで帰ろうと扉を開き、後悔。犇く酒飲みたち。薄暗い中で鮨詰めの蟒蛇。
「いらっしゃいませ」
セカンドの接客スマイルに指を一つ。「奥のカウンターへどうぞ」の案内。空きがあるのかと恐る恐る進むと確かに誰も腰掛けていない椅子が一つある。あるが、狭い。
「すみません」
詫びる必要もないのに隣客へ頭を下げ着席。ウェットタオルをもらったタイミングで頼むタリスカーストレート。飲むだけ飲んでさっさと店を出ようと思い待つ。待つ。待つ。来ない。当然だ。満席御礼絶賛カクテル作成中。俺のグラスは少なくとも今着手しているモーツァルトアイスクリームが完成した後。この店の特殊な器具を用いて拵えるアイスクリームをバーテンダーが取り出すのには一手間二手間かかる公算。タリスカーまではまだまだ。終電もある事だし長居などしたくはないが、「また来ます」と言って帰ってしまう勇気はない。時計と酒棚を見比べる手持ち無沙汰。カウンターに設置された蝋燭が幾分小さくなる頃に、ようやく「お待たせいたしました」とテイスティンググラスが置かれる。しかし、シングルショットを飲み終える時間くらいでこの繁盛に閑古鳥がやってくるわけはなく、支払いまでにまたしばらくかかるだろう。夜が、更けていく。
疲れた夜のタリスカー 白川津 中々 @taka1212384
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