第4話 本当にやりたいこと
「寝てた・・・?」
「爆睡だったぞお前」
「えっ・・・帰りの運転士さん誰ー?」
「まっさん」
「ひゃあ・・・やっちゃったぁ・・・」
「オタク席で寝るお前、なかなかシュールだったなぁ」
「久しぶりに本気で踊ったから疲れちゃった・・・ねぇたくみー、ご飯なに?」
「カレーこっしゃったろか」
「まじ!?」
「たまにはね」
俺がそう言った時、電話が鳴った。美玖はすかさず電話に出て、要件を聞いた。
「お待たせいたしました!小糸でございますっ!」
「あ、美玖ちゃん。裕太ですー」
「もしかして、たっくん?」
「そうそう。変わってくれる?」
「はーい」
電話の主はいとこの裕太兄さん。俺に一体何の用だよ・・・。
「はいおまちどおさまです」
「朝言ったSL団臨、俺もチケット取れた」
「・・・まじ?席番どこ?」
「5号車12番AB席」
「5車12AB・・・?俺が取ったの5車12CDだわ」
「おマジか!じゃあ松くんと当日一緒に迎えに行くよ!」
「B席取ったってことはまっさんも乗るんだ」
「そうだよー。あと明日清見台7時30分発の太田経由俺だから!」
「おっけ!じゃまた明日ね!」
そう言って電話を切り、カレーライスを作った俺は部屋で1人飯を食べ始めた。考え事をするために。
「マネージャーか・・・」
「たっくみー」
「もう食ったの!?」
「たくみと食べたいから」
「あぁそういうことか。・・・どうするかな・・・」
「うちはね、たくみがずっと横にいてくれるだけでいいの。特段なにもしなくていいって感じで」
「はぁ・・・」
「それに・・・たくみの美味しい差し入れが食べたくて・・・」
「本心表したなお前」
「事実だもん・・・」
顔を真っ赤にして本音をぶちまけた美玖。予想はできていたが、やはりそうだったか。
「美玖はさ」
「うん」
「俺の応援団をやりたいわけ?」
「えっ?うん・・・」
「だと思ったよ・・・」
「ごめんね・・・最初から正直に言えばよかった」
「・・・あんたの願い、叶えてやるよ」
「えっ!?」
「あいちゃんもそろそろ産まれてくるだろうし、お前の思いがわかったんだよ」
普段鈍感なたくみがここまで思うってなかなかない。そう思った私は、たっくんに思いっきりぎゅーって抱きついたの。たくみ、ありがとっ。
翌日の4月11日、美玖と俺は学校を休んで病院へ向かった。今日は俺の診察じゃない。さっき言った、あいちゃんの誕生である。朝8時に病院に着き、すぐ分娩室へ向かうと、20分くらいであいちゃんが産まれた。
「あいちゃん・・・!!」
「感動してんじゃん」
「女の子だってよ」
「親父!やっぱ家族なんだなぁ・・・」
何より美玖に似ている。名前は愛花。名付け親は、なんと美玖。そう、この赤ちゃんには既に美玖が愛花と名付けることを家族全員で決めていたのだ。
「おまたせ・・・」
「母さん、ほんとお疲れ様」
「ママ、大好き!」
「お疲れ。母子共に健康でよかった」
「あいちゃんは?」
「検査だべ。1週間したら退院できんでしょ?」
「そうだね。それまでまたしばらく、2人で過ごしてね。そして退院したら、お兄ちゃんとお姉ちゃんが面倒見てあげてね」
「うち、がんばる!」
「あははは。そいや母さん、この子すんごい美玖に似てない?」
「確かに。美玖の踊っている時の笑顔に似てる」
「可愛い・・・!」
「おいおい・・・」
美玖のためにも俺はこの時、マネージャーになることを決意した。帰ってから2人の世話なんてやってられんって言ってる暇はないしな。
2人の願いを叶える時 小糸匠 @koito_2716
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