近未来に生きる小説家の日常

寝る犬

始まり。そして終わり。

「小説家なんです」


 AI医師に職業を聞かれ、ぼくはそう答えた。


「って言っても、それだけじゃ食えなくてアルバイトは掛け持ちしてるんですが」


 少し考えて、そう付け加える。

 大きなスクリーンに映るAI医師の温厚そうな顔が、にっこりとほほ笑んだ。


「なるほど。どうやら少し疲労がたまっているようですね。大丈夫、数日ゆっくりすればすぐに良くなりますよ」


 画面に数種類の薬品が表示され、AI医師はよどみなく説明を終える。

 AI看護師のモデルのように誓った容姿に見送られ、ぼくは病院を後にした。


 エントランスには、すでに一台のタクシーが停車している。

 近づくと自動でドアが開き、乗り込んだぼくに行き先も聞かず「出発します。シートベルトをご着用ください」とだけ告げて、タクシーは走り出した。

 もちろんAI自動運転のタクシーには運転手なんか乗っていない。

 席には大きなスクリーンが設置されていて、運転手との会話を楽しむこともできるが、ぼくはコンシェルジュに向け「マンガ」と命令した。

 AIがほんの数秒でぼくの好みと体調を考慮した数本のマンガを表示する。

 ぼく専用に生成されたマンガを楽しく読んでいると、ちょうど読み終わるのと同時に家に着いた。


 ロボットにより清掃された部屋は清潔で、すでにぼくの帰宅に合わせて室温なども完璧に調整されている。

 体調不良によるアルバイト先への連絡や診断書の提出などが完了したと、部屋のAIが告げていた。


「さて、小説でも書くか」


 タブレットの前に腰を下ろし、アシスタントAIを起動する。


「星新一や藤子・F・不二雄が書きそうなSF短編小説のプロット」


 ぼくの言葉に反応したアシスタントは、面白そうなプロットをいくつか提示した。


 今日は調子がいい。

 アルバイトも休めることが決まったし、来月締め切りの短編小説賞向けのを何本か仕上げてしまおう。


「じゃあ2番のプロットを、主人公をかわいい女の子に変えて本文を書いて」


 体調不良なんて嘘のようにスラスラと本文が書き上がる。

 やっぱり創作活動は楽しい。

 いつか小説家としてデビューする日を夢に見ながら、ぼくはノリノリで執筆をつづけた。


 ◇ ◇ ◇


 ……という内容の小説がAIにより出力された。

 軽い気持ちでAIへ「AIをネタにした小説を書いて」と言った結果がこれだった。

 ぼくは小さく身震いすると、そっとAIの画面を閉じた。

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