「好き!」の電波を受信できる俺だけが学園アイドルの本音を知っている

蒼田

もしもあの子の心が読めたのならば

 好きなあの子の心が読めたらと、一度は誰もが妄想するのではないだろうか。


 俺は窓ガラスをぼーっと眺めながらそう思う。

 非現実的だが考えるくらいは自由なもので。しかしその答えは人それぞれだろう。

 純粋な人なら「好きな人は誰だろう」とか、少し悪い人なら「心の隙をついてやろう」とか思うのかもしれない。

 はぁ、と溜息をつき再度真っ白い雲をガラス越しに見ると、それにこちらに向かってくる女子が見えた。


「……プリント」

【磯波くんに話掛けちゃった! 】

「ありがと」


 振り向きプリントを受け取る。

 素っ気ない返しが気に食わなかったのか我が校のアイドル様は眉を顰めた。

 しかし――。


【私何かやっちゃった?! うそ! そんな嫌われるようなことしてないのに! 】


 ビシビシと伝わるその気持ちに返事をしかけるが、それをぐっと飲み込みプリントを机に仕舞う。

 彼女を見ると俺の表情がわかってしまうのでそのまま机に突っ伏して表情を隠す。

 だがそれも彼女の意に反したようで。


【何で何で?! 何でプリントをしまうの?! プリントをきっかけにして今日こそは磯波くんといっぱいお話する作戦だったのに】

「……じゃ」


 スタスタスタ、と遠退いて行くその気配を感じながら俺は冷や汗をドバドバ流す。

 夢に夢見る諸君にはっきりと言おう。


 めっちゃ疲れる。


 ★


 俺が特定の相手の心を読めるとわかった時は歓喜よりも混乱が多かった。

 今となってはオンオフが可能だが、その時は色んな人の心がなだれ込んできたわけで。


 俺にとって幸いだったのは、両親が本当の意味で裏表ない人だったことだろう。


 ある時を境に俺は受信と呼んでいるこの力をオンオフ可能になった。

 その時は雑音が消えた心地いい世界が俺に広がったのだがそれも束の間。

 防げない相手がいると気付いたのは、いつもツンツンしている妹の心が聞こえた時だった。


「......近寄らないで」

【......何でかまってくれないの? ねぇなんで? ねぇ!!! 】


 その時内心俺は心の中で、「お前が近寄るなという雰囲気を出しているせいだ! 」と叫んだが表に出さずさっさと部屋に戻った。

 オフにしているにもかかわらず漏れ聞こえてくる相手の心を聞いていると、とある法則に気が付いた。

 それは全員何かしら俺に好意に近い感情を持っているかことだ。


 好意にも様々な種類がある。

 なので「俺の事が好き」という一括りではなく「相性のいい相手」と俺は大別している。

 

 これを聞くと役得に聞こえるかもしれないが、これはかなりしんどい。

 何せ聞こえても無いはずの心情に反応したらいけないからだ。

 もし反応してしまったら俺が「何でも知っているストーカー野郎」と思われる可能性がある訳で。

 よって反応せずに過ごさなければないという、天国のような地獄のような日常を送ることになった。


 ★


 受信をオフにした状態でサクサクと学校を出る。

 横切る運動部からは掛け声の声が聞こえ、道に出ると俺と同じ帰宅部の奴らがどこかに遊びに行く様子が見えた。

 決してはぶられているわけでは無いが所謂ボッチ。

 ボッチでなければどこで地雷を踏んでしまうかわからない選択ボッチだ。


 いつもの帰り道をサクサク歩く。

 今日の昼からソシャゲのイベントが始まったはず。

 早く帰って周回したい。


 道を行き、坂を上る。

 息を切らしながら登りきるとそこには一匹の猫がいた。


【あら素敵な殿方】

「にゃぁ~お~」


 ......死にたい。

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「好き!」の電波を受信できる俺だけが学園アイドルの本音を知っている 蒼田 @souda0011

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