第6話 進め【最終話】
「美味しい……。おうちに帰りたいよぉ……」
かおりが泣き出す。
「帰れるなら、そりゃ帰りたいけどよ。ここで生きてくしかねーじゃん」
翼がボソリと言う。
「狼とか怖いけど、魔法使えるならなんとか生きていけるんじゃ」
公平が必死でかおりを慰める。聡子は黙って、みんなの顔を見つめている。
「帰れるよ。その為に僕はここに来た」
翼が、プリントアウトした紙を見せていると突然翼が苦しみだした。
「なんだこれ……息が……助けて……計……」
「まさか……充電……?! 綾! 綾! 聞こえるか?! 頼む、スマホを充電してくれ!」
兄の声は、確かに妹に届いていた。
苦しむ翼と、天に向かって叫び声を上げる計。翼の身体が薄くなり、かおりが泣き出し、聡子と公平は使える限りの魔法を使って助けようと試す。
実際は10分程度の時間だが、少年少女達には永遠と思える時が過ぎた頃、翼の身体が元に戻り苦しみも消えた。
「綾……ありがとう! 伝わってるなら、僕を操作して時空魔法を使って」
計が無限収納を使う。妹に伝わったと分かり、計はホッとした。
その頃、綾は……。
「見たでしょ。これがお兄ちゃんだよ。お父さん、もうグダグダ言ってる暇はないわ。翼くんのスマホはここにある。残り三人、今すぐスマホを充電しないと、お兄ちゃんの友達が死んじゃう。難しい事を考えるのは後。まず、全員に連絡を取って。これ、お兄ちゃんが連絡先をまとめてくれてる。まず担任の先生に連絡したら良いって書いてある。私じゃ、駄目なの。子どもじゃ相手にしてもらえない。だから、お兄ちゃんはこうするしかなかった。お兄ちゃんが死んじゃっても良いの?! 早く、なんとかしてよ! 大人でしょ?!」
綾の悲痛な叫びは、大人達を動かした。
聡子が世間知らずのお嬢様を装い、街に入る商人の馬車から情報と服を入手する。計が持参した胡椒は、予想以上の価値があったらしく服だけでなく街で使えるお金も手に入った。
ファンタジーが好きな公平は、土魔法を工夫して避難所を作った。だが、頑張り過ぎて魔力が切れて倒れてしまう。
泣いていたかおりも、帰れるかもしれないと分かると明るくなった。翼も、即席で作った剣……実際は、ただの棒だ……を振り回して身体を鍛える。
「オーブを集めれば、行きたい世界の扉が開く。そしたらきっと帰れるよ。あれから翼みたいに苦しむ人がいないって事は、きっと綾が動いてくれたんだ。大丈夫。僕らは助かる。みんな一緒に帰ろう」
計の言葉に、全員が力強く頷いた。
異世界転移アプリ 編端みどり @Midori-novel
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