モノ言わぬ遊園地で、君と。

魔導管理室

第1話

何年か前に営業不振で閉演した山の上の方にある遊園地。私は今ここにいる。

五年...いや、六年だったか。そのぐらい前に来た時とは、まったく印象が違って見えた。

閉演してから何年も経っているので当然の話だが、アスファルトはひび割れ、アトラクションは錆にまみれている。あれほどきらびやかに見えた装飾も、今はもう煤けている。

きっと、これほどではないものの、元からこんなものなのだろう。やはり、思い出は、思い出のままにしておくのが一番だ。


その遊園地の一番高い場所。観覧車の前のベンチに、私の待ち合わせ相手は座っていた。


「久しぶり。」


そういう彼は、記憶にあるよりもずっと虚ろな目をしていた。

何とか隠すように努力はしているのか、時々光が宿る。

言葉が出なかった。本当は、もっと何か言おうと思っていろいろ用意していたのに。


「ちょっと、歩こうか。」


結局、口から出たのはそんな言葉だった。















歩く、歩く。六年前のあの日にさかのぼるように。

あまり大きくはないこの遊園地は、一日ですべて回り切れてしまった。

アトラクションのそばを通るたびに、思い出が蘇る。

初めて乗ったジェットコースターで、恐怖に染められていた私をよそに、彼は、「鉄骨に当たるかもって少し怖かった」なんて、少しずれた感想を漏らしていた。あの時、私は絶叫マシンが苦手で、彼は得意だってわかった。「心臓が握られるような」なんて、本当にあるんだと驚いた。

お化け屋敷は、私も彼も怖いものが苦手なのに、両方が、こいつはダメだろうけど自分は大丈夫だろう。なんて思って意気揚々と入場した。案の定数分で恐怖が限界に達し、二人寄り添って、じわじわ進んでいた。そう言えば、手を握ったのもあれが初めてかもしれない。

メリーゴーランド、フリーフォール、土産コーナー。

さほど大きくない、よくある地元の遊園地。それに詰まっているのは、かけがえのない、記憶。あの時は間違いなく、私の最も幸せな時期だった。

彼と毎日一緒に過ごし、一緒に下校して、たまに寄り道をする。そんなありふれた、素晴らしい日々。

もし、あの時に戻れたら。なんて。いつだって、そう考えてしまうのだ。


思い出の中の私たちも、今の私たちも。最後にたどり着くのはこの遊園地で最も高いところにある、観覧車だった。


「どうせ来たんだからさ、ちょっと乗っていこうよ。」


昔と一緒の言葉。それに帰ってきた言葉も、昔と変わらなかった。


















観覧車に乗る。当然電気もないから動きはしないけど、微妙な揺れとか、ゴンドラ内の雰囲気とか、昔のまんまに思えた。


「ごめん。君があんなに追い詰められていたなんて、知らなかっ...いや、知ってた。ごめん。」


唐突に、彼女はそう告げた。

いや、唐突ではないのだろう。彼女は、会ってからずっと何も話さず黙っていた。彼女が唐突に何かを言い出したなら、それは深い思慮の果てに告げられたものだ。


「私に何かできたわけじゃない。私は、君は助けられなかった。

私は無力だから、君の代わりに、君と一緒のに戦うことすらできない。」


「無力じゃない。」


思わず、口から言葉が溢れた。


「昨日の君の、明日の約束。それだけで、ちょっと元気になったんだから。」


昨日の自分は、ひどく追い詰められて、屋上から飛び降りようとしていた。

ひっそりと、誰にも知られず。


でも彼女は、そんな自分に気が付いて。言葉に悩んだ後に、明日、つまり今日の約束を無理やり取り付けた。

無視してもよかったはずだ。でも、無視できなかった。彼女のその目は、めったに見せてくれなかった目。


本気で泣きそうな。そんな目だったから。

























やっぱり、彼は優しい。手遅れになるかもしれなかった私を、無力じゃないって。

ありがとう。そう言ってくれて。それに甘えてさ、言わせてもらうよ。

もう遅いけど。

もっと早くに言うべきだったけど。





「私は、君の味方だよ。君と戦うこともできないけど、何もできないかもしれないけど。私は君の味方でいたい。


それだけは、忘れないでほしいな。」


それに...


言おうか、言わないか。結構迷ってたけど、もう言ってしまうことにする。冷静になったら死ぬほど恥ずかしいかもしれないけど、まあいいや。



「私は、君に、死んでほしくないな。」
























やっぱり、彼女は優しい。

こんな自分にも、生きててほしいって、


ああ、ずるいなぁ。


そんなの、生きるしかないじゃないか。











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