[蘇る記憶]
通された和室は8畳ほどの広さで真新しい畳が敷き詰められ、ピンと張り詰めた空気感が漂っている。
由緒のありそうな掛け軸が掛けられた床の間と漆塗り?のいかにも高価そうな座卓だけが置かれたシンプルな空間には生活感がまったくない。
「座りなさい」
上座に腰を降ろした
「只今、お茶を用意します」
「!?」
てっきり並んで座ると思っていた牧澤めらりがそう言って廊下の奥に歩いて行き、ひとり残された私は動揺した。
この状況は実に気まずい。
途端に気分が不安定になる。
「楽にしなさい」
こちらの心情を見透かすように言われ、余計に萎縮をしてしまう。
目力の強い黒々とした瞳、幅のある太い眉、がっしりと存在感のある肉厚の鼻の唇、そして手入れをされた長い
まるで歴史の教科書の中の昔の偉人の写真のような風貌。
物凄い存在感だ。
が、記憶の底でやはり何かが引っ掛かる。
「あらためて名乗るが、私は
「はい、あの・・・・宜しくお願いします」
「君は──」
「?」
一瞬、沈黙が走る。
何だろう・・・・強い視線に思わず目を逸らしたくなる。
「
「えっ!?」
「そうだね?」
「え、あ、あの、な・・・・何故そ、それを・・・・」
「・・・・」
またも沈黙。
他言無用、旧村の者以外に知るよしもなく知られるはずもない"
いわゆる"よそ者"の口からその名が語られることなど決して有り得ないはず──何故!?
「あの・・・・」
「私の顔に見覚えがあると思えているね?」
「!?」
「どこかで見たような、と」
「・・・・」
見透かされている!
急に動悸が高まってくる。
私は牧澤めらりが今この場にいないことを恨めしく思った。
が、黙っていても仕方がない。
私は場の雰囲気に呑まれながらも意を決して口を開いた。
「はい、あの・・・・思いました。どこかで見たような気がして、でもそれが何故かはわかりません」
それだけ言うのが精一杯だった。
何て返されるのか、不安が沸いてくる。
「なるほど」
「・・・・」
「君は村の歴史はもちろん学んでいるね? というより教え込まれていると言うべきか」
「それは・・・・はい」
「
「断籍・・・・あっ」
瞬時、脳裏に走る衝撃。
記憶の奥の霧が晴れた瞬間だった。
「思い当たったかね?」
「は・・・・い」
「そう、私の祖父は牧澤礼三郎。君の母方の祖父の弟だ」
「・・・・思い・・・・出しました」
見たことがある、と、うっすらながら感じたことは勘違いや間違いではなかった。
特異な風習にがんじがらめに縛られ続けているあの村の歴史の闇。
その闇に葬られた一部の者たち。
それらは私が幼少期から母親に学ばされこんこんと頭に叩き込まれた歴史の一端にひっそりと存在する。
今、はっきりと蘇る記憶。
四角の擦り切れたボロボロの1枚の写真。
そこに写る破れ着物をまとう死んだような目付きの数人。
『この人たち誰?』
『
『だ、ん、せき?』
『そう。いずれ笙子にも理解が出来る時が来る。その時また教えます』
けれどその時、そのうらぶれたような数人の男女の中で幼少の脳裏に強い印象を刻んだ顔があった。
(そうか・・・・そうだったんだ・・・・)
目の前に凛として座す人物の顔と写真のそれが今はっきり、私の中で重なった。
町が私を殺しに来る 真観谷百乱 @mamiyan
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