[記憶の底]
漆黒の扉を開け玄関内へと入る牧澤めらりの肩越しに見えた内部は外からの印象とは異なり、意外にも暗い雰囲気はなく整然とした明るい印象を受けた。
「さ、入って」
「あの・・・・」
「何?」
「本当にこんな急にお邪魔しても良いのでしょうか」
朝からの有り得ないほどの怒涛の展開と勢いに押されるままにここまで来てしまったが、冷静になってみれば今日ふいに初対面をしたばかりの相手の家に足を踏み入れることへの非常識感と抵抗感が今になり私の口をついて出た。
「良いも何も、助かりたいでしょ?」
助かりたい?
確かに。
だからこそ"あそこ"から逃げ出したのだ。
思いもよらない展開になってはいても今ここに至っては他の選択肢はない。
私は振り向く牧澤めらりに無言のまま
「ただいま戻りました」
張りのある声が響く。
すると一瞬の間のあと、よく磨かれた長い廊下の突き当たりの角から一見して重厚な雰囲気を身にまとった和装の年配男性が姿を現した。
「そのまま!」
びくり、とした。
男性は右手でこちらを制しながら一言放ち、ゆっくりと近づいてくる。
中に上がるな、ということだろうか?
圧を感じるそのオーラに緊張が走る。
(怖い・・・・)
が、男性が至近距離に来た時、ふと私の脳裏に疑問符が浮かんだ。
(どこかで・・・・会った?)
初対面なのは間違いなく具体的に思い出せるほどではないが、いわゆる"どこかで見たような気がする、どこだったっけ"といった淡い引っ掛かりを感じた。
「お父様、こちら乃木谷笙子さん」
"お父様呼び"には少し面食らう思いがしたが、かなり特殊な家柄なことは察せられたため牧澤めらりにとっては普通のことなのだろう。
「乃木谷です。宜しくお願い致します」
「・・・・」
「?・・・・」
「
「えっ、あ・・・・はい」
無言の間のあと、いきなり旧村の名を出され私は動揺の声を漏らした。
低く響きのある声に緊張がMAXになる。
「そんな固くならないでも大丈夫よ。お父様は何でもお見通しだから」
何でも?
それはどういう──
「少し目を閉じなさい」
「?」
「さ、閉じて」
「・・・・はい」
二人に
!?!?
いきなり頭頂部に熱さを感じ、その熱が一瞬にして全身を包み、そして消えた。
「はい、開けていいわ」
「・・・・」
「大丈夫?」
「あ・・・・はい」
何をされたのかは分からなかったが、体感で少しだけ身体が軽くなったような気がした。
ゆっくり目を開け視線を上に向ける。
私を凝視する男性。
やはりどこかで見たような・・・・。
「上がりなさい」
低く重々しい声を受け、私はいよいよ家の中へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます