[屋敷の主]
古めかしい観音開きの門をくぐりしばらく歩くと目の前に黒い屋敷が現れた。
屋根も外壁もすべてが異様なほど真っ黒に塗られている。
「驚いた? まさに真っ黒くろすけでしょ?」
「そう・・・・ですね」
「窓もね、日が落ちたら内側から黒いカーテンで覆うの。何故だかわかる?」
「いえ・・・・」
「闇に溶け込むためよ」
「闇・・・・」
見回せば周囲は背の高い木々に囲まれ、確かに夜は明かりがなければこの場所は真の闇だろう。
よく目を
ここまで黒一色にし、夜の闇に溶け込むべき理由が何なのか?
たぶんそこには不穏な事実があるのだろうとは思う。
気になる。
「お嬢さん、いらっしゃい」
ふいに屋敷の脇から初老の男性が現れ、牧澤めらりにそう声を掛けた。
「あら、
「お久しぶりです。半年ほどになりますかね? おや? その方は・・・・」
「あ、こちら父に会わせる人」
「初めまして、乃木谷です」
「乃木谷・・・・ああ、そうですか、日八木です、宜しく」
何だろう?
私が名乗った瞬間、男性の目に微妙な驚きの色が浮かんだような・・・・気のせいだろうか。
「日八木さんは父の古い知り合いなの」
「もう30年になりますね」
「もしかして父に急に呼ばれました?」
「はい、その通りです」
「なるほど。早急な仕上げでこの完璧なゾーン。さすがね、ありがとう」
「いえいえ」
左右を見回し空にも目をやりつつ満足したように頷く牧澤めらり。
完璧なゾーンとは一体──
「では、私はこれで失礼します」
「あら、そうですか?」
「ええ、帰りましてからすることもありますので。では」
「どうもありがとう」
男性は礼を言う牧澤めらりと私に向けて軽く会釈をし、また屋敷の脇の方へと歩き出した。
「良かったわ、日八木さんが来てくれてて」
「あの方は──」
「鬼門の
「?」
「この屋敷の裏手、北東の位置に家を構えてるの。うちにとっての守護的存在の人。鬼門はわかるでしょう?」
「それは、はい」
「そうよね、あなたもある種の異界の
「異界・・・・」
確かに私が居た地、
"村"の表記が消え"町"に変わっても"仕組み"の本質は何ら変化していない。
だから私は逃げた。
卑怯な裏切り者。
追われて当然の身であることは百も承知の上で。
「さ、入りましょう。中で父が待ってるわ」
「はい」
「一見ちょっと
「え・・・・」
「大丈夫、大丈夫」
「・・・・」
が、まさかそこまでではないだろうと気を取り直し、牧澤めらりにうながされるまま私は屋敷の玄関へと向かった。
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