[結界香]
『ほら、飲みなさい』
『もういらない』
『駄目です、飲み干しなさい』
『嫌っ』
『そう・・・・なら仕方ない、飲まないなら朝まで
『あ、あそこは嫌だ!』
『黙りなさい! どちらも嫌は通りませんよ!』
『だって・・・・だって・・・・』
『飲むの? 飲まないの?』
『・・・・』
『それとも無穴?』
『・・・・』
『早く決めなさい』
『・・・・・・・・む』
『何? 聞こえない』
『・・・・飲・・・・む・・・・』
『そ。じゃ飲み干しなさい。ほら、ちゃんと両手を添えて』
『・・・・・・・・・・・・』
厳しい表情の母が、いったんテーブルに置いた器をおずおず差し出した私の手のひらに乗せた。
────────────────────
ぼんやりとした意識に声が響く。
「着いたわ。さ、起きて」
「・・・・・・・・?」
「あなた、私の車で寝られるとはなかなか図太いじゃない? ふふ」
「あ・・・・すみません・・・・」
いつの間に寝に入ってしまったのか・・・・寝つきが良い方ではないのに。
しかも夢まで──
それにしても、ここは?
「緊張しなくて大丈夫よ。さ、降りて」
「はい・・・・」
中途半端な睡眠の目覚めの
瞬間、お香のような匂いが鼻先をかすめた。
外に出てみるとそこは背の高い木々に囲まれた静寂な場所だった。
「あの」
「何?」
「この匂いは・・・・」
「
「?」
目線より上に指し示された先を見ると、木の幹に鳥の巣箱よりも小さな木箱がくくりつけられている。
そして丸くくり貫かれた穴から立ち上る薄く白い煙。
「東西南北、四ヵ所で焚いてる
「はい・・・・」
「まあ、そうよね、その辺のことはあなたも詳しいでしょうし、ね」
「・・・・」
一瞬、寒気を感じた。
この人は一体どこまで私を見透かしているのか。
唐突に現れ、怒涛の展開の中、考えらしい考えをする間もないまま引きずり込まれるようにここまで来てしまったけれど、ここから先に行って良いのだろうか、行くしかないのだろうか・・・。
不安が一気に増大する。
「こっちよ」
見れば彼女はいつの間にか数メートルほど先で手招きをしている。
何故なのかを内観する間もなく自然と足がそちらに向く。
『 戻 れ ! 』
「っ!?」
瞬間、頭の中に〈声〉が響いた。
恐ろしく低く
「何? どうしたの?」
私の様子に異変を感じた牧澤めらりがそう声を張り、近づいて来る。
「なるほど相当な粘着だわね。ほら見て」
そう言って彼女は私の背後を指差した。
おずおず振り返る。
「え・・・・」
ついさっきまで動きのなかった木々が急に揺れだしている。
ざわざわと葉音が広がってゆく。
けれど明らかにおかしい。
風・・・・風がまったく吹いていない!
「
そう言うとめらりは、ふんっ、と鼻を鳴らした。
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