第87話 火の色と小休憩

「アカリ、捕えました!」

「ありがとう、ソフィア。こっちも確保! 美園、いけるかな?」

「ええ、もちろんよ・・・!」

ソフィアと私が光の糸で絡め取った、黒い靄のような存在に向けて、美園が御札を放てば、それは溶けるように消えてゆく。


「また出てきたね。地下に溜まっているのを考えれば、不思議ではないけれど。」

「それを感知できるようになったおかげで、地上に湧き出てきそうな時に気付けるのは、幸いといったところでしょうか。」

「個々の力自体は弱そうだから、取り憑かれた人が体調を崩すくらいかしら・・・だからといって、放置はしたくないけどね。」

南の門へと向かう途中、見付けた小さな異変への対処を終えて、私達は一つ息をついた。



「さて・・・あれが南の門だね。ここの護りの元になった考え方に合わせてるんだろうけど、赤色に塗られていて、分かりやすいかな。」

「そういえば、北の門もしっかりと黒色だったわね。」


「上のほうに、霊獣さまの絵も描かれています・・・! ここは鳥の姿でしたよね。」

「うん。あの門と同じように、赤い色をしているとか、炎を纏うといった伝承もあるよ。」

「その辺りも合わせてか、この方角は『火』なのよね。ちなみに北は『水』・・・相性は気にしすぎない、という話もしたけれど。」


「そうだね。もしかしたら効果があるかも・・・というくらいに、北の霊獣さまにご挨拶してきたことも少し思い浮かべて、お祈りすればいいんじゃないかな。」

「分かりました、アカリ・・・!」

ソフィアが強くうなずくと共に、南の門も間もなくという距離に入り、私達は準備に入った。



「それでは、始めます・・・!」

「うん、いつでも行けるよ。」

「私も準備は出来てるわ。」

北の門の時と同じように、ソフィアを中心にして私達は並び、お祈りを始める。


「・・・・・・先程よりもだいぶ早い気がしますが、届いたのでしょうか。」

そうして、少しの時間が経った頃、周囲の空気が変わるのを感じると共に、ソフィアがつぶやいた。


「私もそう思うよ。北の門の時には、この辺り全体からまだ認められていなかったわけだし、前提が違うんじゃないかな。」

「ええ。ここに着いた時も、拒絶というほどの空気は無かったものね。」


「確かにそうですね・・・でも、この地の霊獣さまに感謝を。門はあと二ヶ所ですね。」

「うん。ここまでそれなりに歩いてきたし、補給もしながら行こうか。」

「お店が混んでいなければ、遥流華さんにも状況を報告したいわね。」

お祈りを終え、これからのことを少し話し合ってから、私達は歩き出した。




「それじゃあ、ここで少し休憩ということで・・・ソフィア、早速飲んでみようか。」

「はい! んんっ・・・これは美味しいです、アカリ!」

次の門へと向かう途中、小さな広場のような場所で、屋台の食事を楽しむ多くの人達に交じり、買ったばかりの飲み物を味わい、ソフィアが声を上げる。


「うん、ソフィアの口に合って良かったよ。」

「アカリも飲んでください。このお茶は本当に甘くて美味しいですよ。」

「ありがとう・・・・! やっぱり、疲れた時にはこういうのがよく合うよね。」

そうして、そのまま差し出されるままに、私も少しそれを飲めば、甘い味わいが心地よく喉を通っていった。


「あなた達は、相変わらずよね・・・」

「ミソノ・・・本当に買わなくて良かったのですか? それなりに長く歩いてきましたし、糖分の補給も大事ですよ。」

「ええ、それは分かるのだけど・・・ただでさえ甘い飲み物に、その黒いやつ・・・・・」


「はい、ぷるぷるしていて美味しいです!」

「それ、原料はお芋なのよね・・・炭水化物の塊なのよね・・・飲み過ぎると恐ろしいわ。」


「な、なるほど・・・ミソノは以前も、その辺りを気にしていましたよね。では、私達のを少し飲みますか?」

「いや、その雰囲気に割って入る気にはならないのだけど・・・」

「はい・・・?」


「ああ、ソフィア。美園は回し飲みの特別な意味のほうを、気にしてるんだと思うよ。」

「そ、そういうことですか・・・でも、ミソノも大切な友達ですから、このくらいで嫌な気持ちになどなりません。遠慮せず飲んでください。」


「わ、分かったわ。ありがとう・・・」

ソフィアの真っ直ぐな視線に圧されるように、美園が飲み物を手に取った。


「くっ・・・! いけないわ、もう少し飲みたい気持ちが! これは糖分、炭水化物・・・」

「み、ミソノ、大丈夫ですか?」

そして一口飲み、もう一口続けたところで、首をぶんぶんと振る美園に、ソフィアが心配そうに声をかける。


「まあ、飲み過ぎの影響が出た場合に、この季節に運動して取り返すのを、なるべくしたくない気持ちがあるだろうから、心が決まるまでもう少し待とうか。」

「わ、分かりました、アカリ・・・」

「そこ、詳しく解説しないで欲しいんだけど・・・!?」

結局、もう一口飲んだ後をソフィアと私が引き受け、少しの休憩を終えたところで、私達は次の目的地へと歩き出した。

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【第一部完結】異世界帰りの召喚士、悪霊祓いのお手伝いはじめました! 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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