第18話 闇のジュエル
大惨事となった事件もやっと落ち着き、警察で事情聴取うを受けていた流石たちも、やっと解放された頃にはもうすっかり夕方に鳴っていた。みんなで連れだって地球屋に行くと、杉崎智也のパーティーの用意はすっかり整っていた。自己のことを心配した流石の知り合いも次々に途中参加し、店はいつの間にか大賑わいに鳴っていた。いよいよ乾杯。だがその前に友也がみんなに言いたいことがあると、せつせつと語りだした。
「…そういうわけで、夕方に自分の部屋に帰ってきたら、レイが、薄暗い部屋の中で目をはらして泣いているんです。おれもメモリーの中身を読んだことはなかったけれど、初めてその中身を見て、心が痛みました。そうしたら思い当たることがあったんです。あの自殺した女子大生の傍らにあった荷物をヘッドに頼まれて置き引きみたいに持ち去ったことがあったんです。そのあと、少しして女子大生は死んだ。そんなこと全く知らなかった。わけもわからず人に使われることがどんなに恐ろしいことか、思い知りました。二人でおいおい泣きました。それで、誓ったんです、自分たちの力で奴らと戦って証拠を手に入れて奴らを警察に突き出してやるって…。」
「流石刑事さんにはすぐ電話したんですけれど、誰かの警備に出てるって言われて。それで菊川さんに連絡したんです…。すみませんでした、勝手な行動をしてしまって。へたに動くと証拠が取れる前に気づかれそうだったもんで…。ええっと、言いたかったことはそれだけです。うまくまとまらなくてすみません。でもこれからおれは、彼女と力を合わせて、自分たちの足できちんと歩いていきます。こんな会をやっていただいてなんとお礼を言っていいのか分かりません。本当にどうもありがとうございました。
」
そして、みんなで乾杯だ。
「ははは、今日は特別じゃ。食材が続く限り、誰でも受け付けじゃ。」
マスターも気合が入っていた。
教授はもう、全く平然として、最初に出てきた謎の料理に挑もうとしていた。
今日は「夜明けのディナーコース」という不思議なフルコースだった。一品目は、「闇のジュエル」、白いスープ皿にただ黒い液体が注がれているだけの不思議な一品だった。
具はたっぷりはいっているが、全部黒くてまったくわからない。
「この皿に盛られた闇のような一品は、食材を言われなければ味も食感も全く分からない。闇をたいらげた者だけが闇の味を語ることができる。まるで、人生のように。」
このあとには、「暁のバラ色のサラダ」、さらに「牛ロースステーキ、夜明けの黄金のソース」、そして最後には「昇る朝日のデザート、」と続くと言う。教授は、お品書きの説明を読むことも無く、自分の感性で、料理と真剣勝負だ。
お品書きにはこうある。一皿目は、スミイカのスミを練りこんだ黒いパスタ。さらに、そこにたっぷりの黒いキャビア、何種類もの黒い海藻類、ノリや黒ゴマをブレンドした黒いスープを絶妙の味付けでまとめた。その名は輝くような黒いスープパスタ、「闇のジュエル」だ。曽根崎とウタポンも微笑むように食べている。
「見た目は真っ黒だけど、特にのりやモズクなどの何種類もの海藻が不思議な食感を加え、さっぱりした黒いスープがイカ墨の味を引き立て、キャビアが仕上がりをとても上品にまとめ上げている。さすがだ。」
「黒にもいろんな黒があるって思い知りましたわ。黒なのに彩鮮やかでほんとに輝くようですわ。」
そのすぐ横では、なぜかパスタを食べながら、流石と菊川が話し込んでいる。
「…そんなに簡単につらい出来事を忘れられるもんですか?」
「ゼロ式忘却術と言ってね。まあ辛すぎるほどうまく行くわね。こりゃやばいと思ったら、最初から近付かないで、つまり一度も考えないようにしてると、憶えることも無くて、そのうち、あれ、なんでおちこんでいたのかしら?って感じで、どうでもいいようなことになっちゃうのよね。」
「でも、どうしても考えそうになったら…。」
「毎日を精一杯生きることね。あとはおいしいものを食べる。」
「そうします。先輩。」
なんで流石のような天然が菊川のような才媛に人生を説いているのかは不明だ。
「ジャーン!流石ちーん、生きてる?悪者とガンガンやりあったっていうじゃない。」
「そうなのよ、危機一髪、ハードアクション、大爆発よ。凄かったんだから!」
突然心配して飛び込んできたのは、トゥインクルグルグルタマコちゃんだ。後ろに何故かダークサイダーの総統とかれーの加藤、、かしまし商店街の恵さんもいる。あの大会のあと、交流があるのだという。
「…そこで、まさかと思ったんだけど、さっきの地震で巨大クレーンが倒れて、こっちのビルの窓と壁を突き破ってさあ…」
「ギョエー!」
流石の話が盛り上がる、あまりのすさまじさに驚くみんな。一段落したところで、曽根崎が聞いた。
「ところで、あの三ツ星会館で、天山市全体のアンテナショップを開くことになったんだって?よかったなあ。」
タマコちゃんがにやっと笑った。加藤もニコニコ笑っている。
「そうなんや。芸人軍団も農業ギャルのモデルさんたちも、せせらぎ蛍ちゃんもみんなそろってオールスターメンバーやで!そしてなんと言っても、あの栗祖綱五人の叔父さんたち、凄い情熱やで。きっとうまくいくわ。でも、ふふ、店全体のデザインのプロデュースを私がやることになるかもよ。どうする!」
曽根崎はみんなを褒めて乗せて力を発揮させる。信頼と店舗のタマコちゃんなら、うまくいくんじゃないかと応援した。
「加藤のプランやっぱりいいねえ。二階を喫茶コーナーにするのもいいアイデアだ。ただ、あのギシギシ階段は広くするか人の流れを考えないとちょっときついかなあ。」
曽根崎の言葉に加藤が答える。
ううむ、ダークサイダーの総統も同じことを言っていたよ。みんなで知恵を出し合っていい店にしていけたらいいね。」
めぐみさんが珍しく情熱的に語り始めた。
「加藤さんがね、二階の喫茶コーナーは下で買ったものを自由に食べられる自由な場所にして、名前を文さんカフェにするっていってました。私も小さいころ、文さんにかわいがってもらって、よく外国のお菓子もらったり、面白い話を聞かせてもらったんです。まだ、文さんを憶えてくれてる人がいて、とてもうれしかった。きっと文さんがおなじ志を持った人たちを集めてくれたんじゃないかなって思いました。いろんな人が力を貸してくれるんです。あの時、たくさんの人の心に種を蒔ていてくれたんだなって。」
「その通りだ。文さんはとっくにいないのに、こんなに大勢の人を動かしている。」
恵さんの話を聞いて曽根崎もほろっと来た。
「きっと、自由で楽しいお店になりそうですわ。」
だが、ウタポンが感想を言ったとたん、タマコちゃんが、素っ頓狂な声を出した。
「あれ、このパーティ、アーティストの再起のお祝いって聞いてたけど…。肝心の音楽やらへんのか?」
すると流石が立ち上がり、杉崎智也をにんなに再び紹介した。
「路上ミュージシャンの星、いい歌うたうのよ。ねえ、唄ってよ。あなたの会なんだから。」
「ええ?エスぴ尾のトゥインクルグルグルタマコさんの前で?…はい、喜んで。」
杉崎智也のギターの相棒や音楽仲間も前に進み出た。
すると、地球屋のマスターが出てきてみんなに告げた。
「ご存知の方はピンと来たと思うが、今日のフルコースは、彼の曲とコラボしたメニューじゃ。音楽とともに料理も味わってくれよ。」
地球屋に時ならぬギターの音が響いた。そう、あの曲だった。
『闇を突き抜けて』
ぼくはひたすら走ってた
どこかわからない闇の中、
追いかけてるのか、逃げているのか
どこ目指すのか、遠ざかるのか、
今夜はなぜだか調子がいい。いいや本当はボロボロさ。
今夜はどこまででもいける。、いいや、本当は倒れそう。
何をそんなに浮かれてる、何をそんなにおびえてる。
このままじゃ闇に飲まれちまう、それがこわくて止まれない。
いったいどこがスタートでいったいどこがゴールなのか。
そもそもなんで走るのか。いつから走り出したのか。
まだまだここは入り口か、真っただ中か、スパートか。
駆け上がるのか、落ちるのか。
闇が押し寄せてきたのか、それとも飛び込んじまったか。
ただ闇があり、闇のみぞ知る。
何も見えない、つかめない、誰もいない、聞こえない
これは本当の闇なのか、思い込みこそが闇なのか。
自分を信じられないなら、闇の中に落ちて行くだけ。
自分を信じられるなら、さらに前へと踏み出せる。
走れ、もがけ、叫べ、突き抜けろ。
踏み出せ、引き寄せろ、つかみあげろ、かけあがれ
光りが見えないのは目を閉じているから。
光りが無ければ自分で光れ!
やがて闇は暁の群青に変わり
やがて闇はバラ色から金色へ
そして朝日が昇るまで
闇をつきぬけて…!
(了)
天然刑事Ⅲ ~天然刑事vs詐欺軍団vs仮装人間~ セイン葉山 @seinsein
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