普通の青春を送るはずが、強面のせいでなぜか女番長になっていました。
故地あられ
第1話 えっなんか避けられてね?
私、
まさか田舎育ちの私が都会の進学校に入学出来るなんて思いもしなかったからだ。
これも毎日、暇さえあれば勉強、学校終わったら塾直行。勉強、勉強、勉強、爆睡という二度と味わいたくない勉強三昧の日々を乗り越えたおかげだ。
いやぁー我ながら凄いわ。次やったら間違いなくノイローゼになるね絶対。まぁ晴れて女子高生になれたから全然いいけど、思わずニヤけちゃうくらい嬉しいしね。まさに春通らい! 我が世の春! わっはっはー! と、ふんぞり返りたくなる。
あぁ、でも失敗したなぁー。昨日、制服着ては何度も鏡の前でポーズを取ったり、必要な書類や教科書、通学ルートまであれこれ張り切り過ぎたせいで、すっごく眠い……。
自業自得と言われればそれまでだけれど、楽しみなことがあると人って眠れないじゃん? 寝よう寝ようと意識するほど、逆に冴えちゃうやつ。結局、深夜アニメやゲームでもやってれば自然と寝落ちするだろうと高を括ったら、この有様……。
さらには、こっちに上京したらしたで、口がポカーンと開いてしまうほどのどでかいビルが生えてるわ。車も人も多いわで人酔いする始末。おかげでバスから見える桜並木も霞んで見えてしまう。地元だと田んぼ、田んぼ、木に電柱と見新しいものなんて全くなくて退屈の一言だったけれど、時折、風に乗って入ってくるあの土の匂いが今はとても恋しい。
しかし、今は感傷に浸るよりも、眠気と人酔いも相まって吊革に捕まっているのも正直しんどくなってきた。
うぅ……飴でも舐めれば、気付けにはなるかな。
ポケットに入れていたソーダ味の飴を口に入れ、しばらく舐めるが、一向に収まるどころか甘ったるくて余計気持ち悪くなってきた……。
激甘お菓子グラブジャムンを平気で平らげる私でもこの調子じゃ薬どころか毒にしかならない……。
口直ししたくても他はキャラメル味やイチゴミルク味といった甘い飴しか持っていない。こういう時のために酔い止めとか常備しておくんだった。ちょっと勿体ないけど、さっさと食べちゃおっと。
「はぁ」と小さい溜息を一つ吐き。ガリッ! と飴玉を噛み砕く。
爽やかな香りと甘味、ソーダ味特有のシュワシュワが口一杯に広がると同時に、
「――ひっ」
と、誰かの情けない悲鳴がひっそりと車内に響いた。
「……ん?」
ボリボリと飴を食べ進めながら、何かあったのかと周囲を見回す。
朝の通勤ラッシュもあって多少混んではいるけど、特に怪しい人物もいないし、至って普通なんだけれど……なんだろう? 何? この違和感――みんなさっきから私のことをジロジロ見ているような? しかも、なーんか距離感ていうか避けられてるような……いやいやいや! 馬鹿か私は! そんなの当たり前だろ。友達ならまだしも赤の他人なんだし、ここは都会だ。いつ何が起きるかわからない場所で警戒心を持つのは当然のこと。
私は一旦「すぅ~はぁ~」と深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
冷静になれ。流石に考えすぎだ。被害妄想にもほどがある。きっと寝不足のせいでハイになっているんだ。
そう自分を納得させ、もう一度周囲を確認するが特に変化はなかった。
私はホッと胸を撫で下ろす。
ただの考えすぎでよかったー。てか、今気づいたんだけど、みんな汗かき過ぎじゃね? ダラダラ汗かいてるし、そんなに暑い? 普通に丁度いいくらいの温度なんだけれど、案外都会住みの人って暑がりさんが多いのかな。
「へぇ~なんかおもしろ」
緊張が解けたせいか思わずクスっと笑ってしまう。
すると、周囲もそれに呼応するかのようにビクッ! と反応する。
えっ! 急に何!? 超怖いんですけどー!? どゆこと? 私なんかした? いや、待てよ? さっきの状況から推測するに私が笑った直後だった。ていうことは――いやいやいや意味わかんない! 無視すりゃ済む話じゃん! そりゃさ、何もない所でいきなり独り言を言って笑っていたら「こいつ頭おかしいな」ってドン引きするのも仕方ないと思うよ? でもさ、態度で表されると私すっごい傷つくんですけど!? 何? みんなグルなの? これが出る杭は打たれるってやつなの? あぁもうわかんない! 嫌だ! マジで早く降りたい!
怖くなった私は、誰かに助けを求めるかのようにキョロキョロと視線を泳がしていると、
「――あっ」
偶然にも目の前に座る男子高生と目が合った。
新雪のような白い肌にキリッとした顔立ち、ふっさふさの黒髪にカミソリのような鋭い碧い瞳。まさしく絵に書いたようなイケメン。
ついさっきまで取り乱していた私が嘘のように落ち着いていた。
勿論、知り合いではない全くの初対面だ。
けれど、彼が着ている学生服には見覚えがあった。
紺を基調としたブレザーに胸元についてるエンブレムが、私がこれから通う学校の物と同じだったからだ。ネクタイの色がチェック柄の赤色ってことは私と同じ1年生か。
初めて会ったはずなのに、前からずっと一緒にいたような――そんな感覚が私の中に膨れ上がっていくのを感じた。おそらく、その答えはわかっていた。
「――ヨゾラ」
思わず、口にしてしまったその名前。
なぜ彼を『ヨゾラ』と呼んでしまったのかには理由がある。
単純に彼の容姿が私の実家で飼っているハスキーにそっくりだったからだ。
ヨゾラが擬人化したらこんな姿なんだろうなぁ~あぁ思い出しただけでも堪んない! 会いたいよーヨゾラ……あぁモフモフしたいよ~ヨゾラ~……ってあれ? なんかさっきからジーっと睨まれてるような? それにこの心地の良いふさふさとした感覚は――まさか!?
「――ッ!」
恐れ多いことに私は、これから同級生になるであろう名前も知らないイケメンの頭を撫でていた。
うぎゃぁぁあああ! やってしまったぁぁああ!
あまりの衝撃に手に力が入る。
何やってるんだ私! 距離感バグりすぎだろ! あっでも、これはこれで気持ちいいかも~違う違う! 癒されるな八重川夏葵! さっきから鬼の形相で睨んで来るし、ヨゾラに似てるなんて前言撤回。
どうにかしてこの状況から切り抜けないと……でないと――『おい? 俺にしたこと覚えてるよな? 責任とれよ』『ひぃ! やっやめてー!』みたいな展開になりかねない。あぁもうどうしよう! 怖くて動けない。でも、何かきっかけを作って離さないと!
「いっ犬と違って、いい髪質してんね……」
「……………はぁ?」
って、オイー! なーにが『犬と違っていい髪質してんね』だ! 煽っているようにしか聞こえんわ! やばいやばいやばい! 眼つきもさらに鋭くなってる! 絶対、喧嘩売ってるって思われてるよ!
あたふたしていると、彼は私の手を払い、グッと席から立ち上がる。
――背高けぇぇ! 190cm! これがイケメンの190cm! あぁもうなんで私、あんなことしちゃったんだろ――人生終わった……。
彼はゆっくりと口を開き、どんな言葉が返ってくるのか身構える私であったが、
「……席、どう、ぞ」
意外にも彼から発せられた言葉は脅しなどではなく、ぶっきらぼうだったけれど、ただの優しい一言だった。
「えっ? あっはい」
私は驚いて頭が真っ白になった。
まさか、譲ってくれるなんて誰が予想できただろうか? 良い人なのかな?
考える間もなく、流れるまま彼の座っていた席へと移動した。
「あっありが――」
お礼を言おうとしたが、彼はなぜかそのまま人を掻き分け車内の奥の方へ行ってしまった。
「と……」
いや、なんで? あれ他の人に迷惑じゃん。照れ隠しなのかな? 普通に私の立ってたとこにいればよかったのに……でも、少しくすぐったかったな。
手に残った感触を噛み締めながら、これから良いことが始まる予感がした。
普通の青春を送るはずが、強面のせいでなぜか女番長になっていました。 故地あられ @victor8986
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