第3話

「体を見せなさい」

 

 ラボに帰ってきて開口一番。

 なんて言葉を年頃の娘さんが吐く言葉じゃないですよ!お兄さん悲しい。

 

「早く キミの傘の強度だとあの男の威力は防げなかったでしょ」

 

 有無を言わせない強い口調、正直アレだけ『私の猟犬』とか言われてたのに恥ずかしさが大いに勝っている。

 けれど本音を言うなら意識を繋ぎ止めるのが精一杯だ。

 その証拠にさっきから一言も話すことができていない。

 

 どうして会話が成立しているのかは考えるだけ無駄だ。

 

 どうせ先生の事は考えても分からん。

 

「早くしなさい 抵抗するなら脱がしますよ」

 

 あらやだエッチ。あぁ嘘です今すぐ脱ぎますから圧のある無表情で躙り寄るのは辞めてください、叫びますよ。

 

「ココで灰色の叫びが聞こえた」

 

 はい状況が悪化しましたよ。

 

 いきなり現れた白髪の子供。

 シロと呼ばれる子供はブカブカの白衣を着て強引に俺と先生の距離を離す。

 その際に袖が破けるが気にしたら負けだ。

   

「シロ 灰原から離れなさい」

 

 なんでここのラボのメンバーは聞こえるのに心の声を声を聞いてくれないんですかね。

 

「赤色、無理はダメです 灰色が泣き叫んでました」

 

 泣き叫んではいないかな、まぁ今は普通に腕が折れそうで泣き叫びそうだけどさ。

 

「......全く、早く治療してあげて 死にかけてるのは本当だから」

「分かった ほら灰色チカラを抜け」

 

 待って!心の準備が

 

「てい」

 

 シロの小さい手は腹部を突き刺し内臓を触る感覚が脳にいやと言うほど突き刺さる。

 痛みはない、ただ内臓を誰かに触られていると言う不快感が強すぎるだけだ。

 

「ん 内臓が衝撃でボロボロ よく歩けてたね 頭おかしいよ」

 

 最後の必要かな?。

 

「骨も何本か折れてる 貧弱だね」

 

 心も折れるぞ。

 

「大体分かった コレならすぐに治せる」

 

 シロの言葉と同時に貫かれた腹部から光が溢れる。痛みが瞬く間に引いていき口からは言葉にならない声が漏れる。

 光が引いていくとシロは手を抜き床に漏れた血液を掃除し始めた。

 まるで当たり前のように平然と......いや当たり前の光景にされたんだけどさ?。弱くてゴメンね、スグに死にかけるの直したいんだけどね.......他の能力が化け物すぎるのもいけないと思うんだ。

 

「ん なに? 一緒に掃除するの? ヘタだから要らないよ」

 

 首を傾げて的確に精神をへし折ってくるシロは先生に作られた人造人間だ。

 

 異能力者を人工的に作れるのかという先生の好奇心と暇つぶしに作られたシロは他の治癒系の能力者とは一線を画す程の力を与えられ主に死にかける俺の命綱となってくれている。

 先生に色々教えてもらったが難しすぎて少しも分からなかった。

 

 元々の性格なのか先生のせいなのかは分からないが治療のために最短距離最高効率で全てを治そうとするのだけは遠慮願いたい。

 

「ほら 掃除はシロに任せて灰原はコッチに来なさい」

「了解です」

 

 あぁ声が出るって素晴らしい。

 

「それじゃあまずは説教です! 先生!」

「イヤだ聞きたくない だってあのまま追撃されてたら死にはしないし勝つけど今以上にボロボロになるじゃないか」

 

 おっと正論パンチは暴力だぞ?。確かにあの場では流れと空気感で余裕でした感を出しては見たがあと少し反応が遅れれば俺は挽肉となっていただろう。

 その後は先生お手製の肉団子が量産されて、俺はシロによって全裸蘇生される事になるだろうけど。

 

 ハハハ結果は変わらんな!

 

 異能力者ってヤバくない?

 

「それよりだ、灰原は今年で何歳になる?」

「いきなりですね 16になりますが」

 

 なんだ?猛烈に嫌な予感がする。

 

「そうか なら学園へ通おう」

「良い考え さすが赤色 今すぐ制服を2着用意するべき」

 

 キミは俺の血の掃除に集中して下さい。

 

「分かった」

 

 シロは大人しく掃除へ戻る。先生はハエを追い払うように手で払う。

 毎回思うけどキミたち親子みたいなものなのに仲悪いね。

 

「正直デバイスとキミも研究に邪魔が多すぎる事がわかった」

「そりゃ月に5回ぐらいはデバイス盗まれてますからね」

 

 今回の騒動の発端は『デバイス』と言う異能を扱う手助けをする端末の事だ。

 別に無くても異能を扱う事は出来るがその精度は段違いだ。

 それが赤羽根ミサキの作るデバイスならどんなに出来損ないでも億以上の価値が付く。最悪は殺し合いに発展する事もある。

 

 張本人の先生はそれに無頓着で金さえ払えば出来損ないは適当に売り捌くが今回のような窃盗の場合は容赦がない。大体が今回のような先生特製のミートボールが末路だ。

 

 一度でも見逃せばそれが相手を付け上がらせる事になるからだ。

 だから俺たちは殺す。温情は無い。

 

「だから学園さ」

 

 なんて?

 

「日本唯一の異能力者育成機関 七織学園にね 研究室を置く事にしたよ」

「なるほどそれなら俺はソコで護衛をすれば」

「シロが居れば十分さ キミは存分に学園生活を満喫してくれ」

 

 なんで?

 

 えっやだよ?俺の最終学歴は中2だよ?中身はオッサンで現在は異世界13年生だよ?。

 シロは使いこなしてるスマートフォンとやらも使えこなせない情弱だよ?。

 表の学校に通ってる頃からオジサンがあだ名の俺に通い直せと?泣くぞ?。

 

「安心してほしい 学園での戦闘記録は随時録り続けるから」

 

 その言葉が1番心に来た。その育成機関がほのぼのとは程遠い場所だと言うのが確定した。

 

 泣いても良いかな?。

 

「ダメ 床の掃除大変」

 

 そんなに泣かないよ。掃除に戻って。

 

「終わってる 灰色と違って仕事出来る」

「ちなみにコレは決定事項だよ 先方にも伝えてある」

「ちなみに拒否権は?」

 

 聞いてみただけだよ。ちくしょうめ。

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オジテン〜異世界おじさん現代(風味)転生〜 またたび五郎 @matatabigorou

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