第2話春と学校閉鎖 その2

簡単なあらすじ。

放送委員によって学校は閉鎖的かつ、無人の異世界となった。


若いうちに、いっぱい失敗すると後が楽になるよ


誰かの言葉が浮かんでは消えた。


「あんた、もしかして小栗おぐり?」

「、、違うけど]

「そうね、確かに小栗より落ち着いてる。けほつ」

顔を逸らせて咳一つ

声と言動が、という意味なのだろうか。


それじゃ、小栗はここにはいないってことか。

お互いに理解したような空気になる。


「私は、村主。むらぬしって書いてすぐり」

ふーと息を吐いて落ち着くと、うでまくりを直しつつ村主は名乗った。


耳より下で二つ結びをしている、茶色の髪が動くたびに揺れる。

こうなると、名乗るべき空気になる。


「天草。てんのくさって書いて、あまくさ」

頭に葉っぱが生えたような髪の毛。

生えてるとこだって、どっちかというと左のつむじ。


「何、してたの」

「掃除よ?」

「、、、ここを?」

「部屋を使いたかったから、先生にカギ、借りて」

「、、、いつも?」

「まあ、ね。朝早くと、放課後」

「、、、今回のこと、気になってたりする?」

「ええ。」

「、、、そっか」


気になるという共通認識。


「さてっと、一段落したし、行くんでしょ?」

「、、、もちろん」


「武器とか持っていこうかしら」

「、、、放送委員に、武器?」

「素手でドンパチやろうって訳?」

「、、、それもそうだ」


村主は漫才倶楽部のハリセン。しおれたレタスの強度。

天草は瞬殺研しゅんさつけん(叩いて被ってを極める研究部)のピコピコハンマー。ペコペコしている


双方、瞬殺研特性:石頭ヘルメットを着用。

(これで痛くないぞ!とヘルメットの裏にマジックで書いてあった。

本当だと信じたい)


三階の放送室前


未だ相手が動く気配がない。_慎重に

「突撃!」

「え」

ぶち破る勢いでドアを押し開く村主。ちゃんと、ドアノブで開けている。

一歩踏み込むと

放送機材の前。椅子に居座っている人物が小栗だろう。

今日は、そこそこ熱いのに制服ブレザー一式を着こむその姿は、見ているこっちが暑苦しく感じる。


「なッ!、、んだね君たちは、そうか、コレも強者きょうしゃの定m」

「んなこと、」ビシッとハリセンを相手に向ける

「どうでもいいとはなんだ!」

「あ、しまった、、」

はぁ、とため息をつく小栗

「ここは、現在放送委員が使用している。とっとと退したまえ!」

、、、

いつの間にか部屋の外にいた。一つ間をおいても、理解できなかっただろう。

「あれ、、?私ドア開けたかしら」

開けていないし、動いてもいない。


「なんなの、これ」

ドアを見つめる事しかできない程に困惑していた。自分も

「面白いじゃない!」

「!?」

「こうなったら、やってやるわ」

ふふふと笑うその横顔は<燃えてきた>の顔になる。


第二ラウンド、開幕。

二人で話し合った結果、推測。

・<退出せよ>という言葉⇒外に出た。

・放送室に籠城している。→籠城を破る。=何か起きるのでは

確証はない。

目標は有無を言わさずに表へ出さすこと。

あいにく、というか、当然というか。鍵をかけられてしまった。

ドアノブの鍵が開かない以上どうにもできない。


「職員室にカギくらいあるでしょ?」

「、、、」

そこに気付かない相手じゃないと思っていだが、

一応、村主と職員室へ鍵を確認しに行く。


フツーに壁に掛けてあった。

「、、、」

「、、あったわね」

どうやら、村主もあると思っていなかったらしい。


放送室前


いざ、鍵を開けようとして、気づいた。

のだ


家の鍵は閉まっている。と思って開いていた時の

鍵が、開いている。という恐怖。

思わず顔を見合わせる。


そぉ~っと開けると、やはり

「君たち、、、一体どうやって入ってきたんだ」

イスに座ったじょうたいの、青ざめて固まった小栗と対峙する。

今までにあったことを意味するかのように


手の内からチャリーンと鍵が滑り落ちる音がした。


有無を言わせてはいけない。即刻、村主がハリセンを振るう

「おりゃぁーー!!」

「うわぁああああっつ」

お互いの叫び声にビックリし合い

村主のハリセンは顔面を狙うも当たらず。顔の後ろにある壁をパシっと叩く。

椅子からドテっと転げ落ち、必死に出口へ這うように逃げる小栗が、

廊下にはいずり出る。

「天草―!」ギュリっと振り向きながら、と同じ言い方で叫ぶ

出口付近(廊下)で待機していた、天草のとどめの一発

ぺこッ


「ぐ、お、おのれ、せいとかい、、、」と、いい残しガクと気絶する。

はたから見れば、廊下と放送室で、無残にも上下を切られたような図になっている。

「生徒会?」

伸びた小栗を見る。


聞き返す気と独り言の混じったトーンをかき消すように

ザァ、、桜吹雪が吹く音がした

立ち尽くす天草。


キーンコーンカーンコーン、、、_聞きなれた音。


「うぇ!嘘?チャイム鳴っちゃった!?」

放送室から、慌てて顔を出す村主。

ハッとして辺りを見回す。校内には

「とにかく、戻ろう」

「ぇ、ええ、、」

よっこいせと村主は小栗の屍をこえて退出する。


急ぎ文化棟2階に向かう。

装備は物置き部室に放り込んでおいた。

村主によれば、先生曰く。カギは使う人がいないからいつ帰してもいいとのこと

そのまま、連絡通路を駆け抜ける。


本部棟(二階)では出席をとっている声がしている。

通路がつながっていて助かった。


「良かった、間に合いそう」息を切らしつつ、心から安心する。

「ねえ」

「ん」

「あんた、何組?」

「3組」

「私は、2組」


それじゃ。


[ここでお別れね]

そう言いたげな顔を向け、手をひらひらさせた。

走ったまま右手に曲がろうとして


向こうからくる人物とぶつかった。

「うわ!」

「ぐぎゃ!」

村主は尻もちを、相手もよろける

「ててて、、」

「あ、ご、ごめん、、大丈夫?」と声をかけつつ、目線の高さを村主に合わせる。

距離はぶつかったときのまま。程々を保っている。


「ん、、まぁなんとか」尻辺りを、さすりながらだと説得に力がない。


「、、、」大丈夫そうに見えず困惑しているのだろう


どこかのクラスの担任が、間延びした声で中岡と呼ぶ。中岡ーいないのかー?とも

「はーい!」

と慌てて返事をする。


中岡。


「本当に、ごめんね。」申し訳なさそうに、一番奥のクラスへ駆けてゆく。

2-4らしい。


昼休み、生徒会室にて。

閉め切りの室内では小栗と誰かの会話が執り行われていた。


入り口から見た<コの字>の机の配置は裁判所を連想させる。正面に生徒会長。

机を挟み

被告人のような扱いの椅子。一つ

そこに、小栗が座っており気力なさげにうなだれていた。


夜のような、落ち着いていて、はっきりとした声で問いかける。


「鍵が、開いてた、と?」

「そんなはず、、ないのは分かっている。、、奴らは何者なんだ」

「誰か、来たの?」

「舞台は、整っていた。それなのに、どうして」

「「説明」してもらえるかしら」


<説明>という言い方に含まれた苛立ちの声。

気付き顔を上げる。

艶のある黒い瞳が、一点のみ見据え動かない。


「、、、」小栗、カエルの気分をしばしあじわう。

冷や水を浴びせられたことで幾分落ち着きを取り戻す。


「ヘルメットをかぶった、凶暴なハリセンの女子。

同じく、ヘルメットをかぶっているが

ピコピコハンマーを持った男子。です」

沈黙。

「名前とか、聞いてないかしら」

「すみません。なんせ、逃げるのに必死だったもので」

「そう、、」

校内の喧騒と鳥の声が遠くに聞こえる。


紫がかった黒色の髪の毛は、微かなため息に揺れる。


「ちゃんと、保健室行ったの?」

「ええ。軽く手当てしてもらいました」

「なら、にすることね」

「、、そうします。黒月くろつき会長」

「では、解散ということで」

失礼します。と小栗の退室。


黒月会長と呼ばれた彼女は、思案する


スッと椅子から立ち上がる


背中を覆うほど長い髪は動作に追随する。

「さて、事情をきかないとね」


会長自ら放送室に向かい、

例の二人を呼び出すことにした。


パタン。


誰もいなくなった生徒会に

一枚の、桜の花が落ちていた。

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シロツメクサの春 ヨコスカ @KOUHONE

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