番外編 二人がいちゃいちゃするだけの話#4
しまった。可愛い上目遣いに、赤らんだ頬。このままだと私の本能が爆発してしまう。私は慌てて桜さんからすけすけのネグリジェを脱がせて服を着せた。
「……ふう」
汗でびっしょりだ。運動したわけでもないのに。
そんな私を桜さんの悲しげな視線が射抜く。
「もしも私がもう少し年を取っていたら、千鶴さんは手を出してくれたのでしょうか? 例えば二十一歳とか……」
二十一歳……。それなら確かに、正直手を出してたかもしれない。見た目が幼いからこそ、せめて年齢がもう少し近ければ抵抗感は減っていたかも……。桜さんは今となっては私の好みど真ん中だし、それがますます私の年齢に近づいたとなれば、手を出さない理由がない。
「……そう、かもね」
桜さんはしょんぼりと肩を落としている。桜さんが悲しそうにしているのをみると、私まで悲しくなってくる。何かしてあげたいなって考え込んでいると、一つ今でもできそうなことを思いつく。
「そ、それじゃあ、その。えっちはまだ勇気出ないけどさ、特別なキスくらいなら、ここでしてあげてもいいよ……?」
「特別なキス、ですか?」
「うん。して欲しい?」
「……仕方ないですね。それで我慢してあげます」
桜さんは私の腰に腕を回して、じっとこちらをみつめている。正直、えっちを求めて来る桜さんを満足させられるかは分からないけれど……。でも期待させてしまったからにはやるしかない。
私は桜さんにそっと唇を触れ合わせた。そしていつもより大胆に……。
「んんっ!?」
積極的なキスのせいか、桜さんの驚きの声が聞こえる。
「大丈夫? 怖いならやめるよ?」
唇を離して問いかけると、桜さんは首を横に振った。
「……もっと、して欲しいです」
とろんとしたえっちな目になっている。私は桜さんの頭と腰に手を回して、引き寄せる。そして唇を重ね合わせ、今度はしっかりと……。
「んっ。……千鶴さんっ」
すると桜さんは艶やかな声をあげた。粘液の交わり合う音が聞こえて、とてつもない快楽と興奮が波のようにやって来る。このままだと戻ってこれなくなりそう……。
私は慌てて桜さんから離れようとした。でも気付けば桜さんの手が私の頭にまわっていて、離れられない。いつの間にか主導権が桜さんに移ってしまっていて、私はなされるがままだ。
絡まり合って、いやらしい音が漏れる。私は必死で声を我慢していたけれど、桜さんの攻勢はいつまで経っても止まらなくて……。
「ん……っ!」
大きな声が漏れてしまった。それが外に聞こえてしまったのか、店員さんの声が聞こえてくる。
「あのー。お客様?」
うんざりした感じの声だ。きっと稀によくあるのだろう。私たちみたいな脳内ピンク色のカップルは。流石の桜さんも大慌てで私から離れていく。桜さんははぁはぁと息が荒くて、すっかり頬が上気している。なんだかえっちだ。
「申し訳ありませんがそういった行為はよそでやってください」
店員さんはどうやら断定しているみたいだった。まぁ正しいのだけれど、でも桜さんは中学生の見た目なわけだから……。あれ、これってまずいのでは? 私、通報とかされちゃわない?
「桜さん。隠れて」
「えっ?」
「魔法で何とかして!」
「わ、分かりました」
こそこそとそんな相談をしていると、店員さんの声が聞こえてきた。
「カーテン開きますよ?」
しかめっ面でカーテンを開けた店員さんの前にいたのは、一人で息を荒くして顔を赤らめる私だ。右手にはスケスケのネグリジェが握られている。桜さんは透明になる魔法で隠れていた。
「えっ?」
低い本気のトーンの「えっ?」だ。店員さんは困惑を隠さなかった。
「……おひとり、ですか?」
意外そうな、憐れむような表情。これ、絶対変態だと思われたでしょ……。この状況もなかなかにまずい……。どうしよ。何か言い訳しなきゃ……。
「め、迷惑になったのならごめんなさい。服のサイズがきつかったので……」
「そ、そうですか。申し訳ありませんでした」
店員さんはスケスケのネグリジェにもう一度視線を向けて、気まずそうにささっといなくなった。そのあとそれをレジに持っていったけれど、何とも言えない表情でみつめられた。私は顔を爆発しそうなほど熱くして店を出た。そしてむすっとした顔で外を歩く。
「桜さん」
「……はい」
桜さんは申し訳なさそうに肩を落としている。
「私、怒ってます」
「ごめんなさい……。我慢できなかったんです」
正直嬉しいけどね? 私にそんなに夢中になってくれたのは。でも恥ずかしすぎるよ。絶対ツイートとかされてるよ。「変態なお客様が試着室で一人でえっちなことしてました!」とかさ。
私が黙り込んでいると、桜さんは上目遣いでつげた。
「何でも言うこと聞きます。だから、許してもらえませんか……?」
「だったら魔法少女に変身して」
「わ、分かりました……。でもここは人が多いので、他の場所にいきませんか……?」
それなら、と私は桜さんを近くの多機能トイレに連れ込む。私はじとーっと粘っこい視線で桜さんをみつめる。桜さんはとても恥ずかしそうにもじもじしていた。
「早く変身して」
「……はい」
無からステッキを呼びだした桜さんは、それを高く掲げた。それと同時に桜色の光が溢れて桜さんのボディラインが露わになる。足は長くて、くびれもあって、胸はぺったんこだけど相変わらず魅力的だ。
流石の桜さんも罰だと知っているからか、隠そうとはしなかった。じっとみていると、パステルカラーのドレスが小さな桜色の輝きと共に現れて、ひらひらとどこからか吹いた風で揺れる。
「……そ、そんなにじっとみないでください」
私は顔を真っ赤にした桜さんから目をそらして、ため息をつく。
「今度からは人がいる場所でしちゃだめだよ? でも今回は私も悪かった。桜さんを興奮させちゃってごめんね?」
「……こ、興奮。あの一つ聞いてもいいですか?」
私は小さく首をかしげる。
「気持ち、良かったですか? 私、上手くできてましたか?」
想定外の質問に私はくすりと笑う。
「よくできてたよ。気持ちよかった」
すると桜さんはほっと息を吐いた。
「……良かったです」
「だからこれからは家でだけするようにしようね?」
「これからもキスはしてくれるんですね! 嬉しいです……! このままえっちも当たり前にしてくれるようになるまで、頑張らないとですね!」
最後のは失言だったかもしれない。そう思いながらも私は桜さんを抱きしめた。
それから私たちは再びアウトレットモールを回った。ご飯を食べたり、併設されていたアミューズメント施設で遊んだりしていると、夕方になっていた。電車に乗って帰るころになると桜さんは疲れ果てたのか、眠りについたまま電車に揺られている。
私一人なら来なかった一日の終わりだ。桜さんと一緒なら、単調だったはずの毎日が色鮮やかに彩られていく。こんな毎日が、これからはずっと続いていくのだろう。
オレンジ色の光に照らされた桜さんの頭を優しく撫でる。
本当にありがとう。桜さん。
私のこと、幸せにしてくれて。
魔法少女と酒浸り女子大学生が同棲する話 壊滅的な扇子 @kaibutsu
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