番外編 二人がいちゃいちゃするだけの話#3

 私たちはアウトレットモールの食器屋さんにいた。


「お揃いがいいですけど、なかなかいいのがないですね……」

「そうだねぇ」


 猫がたくさん飛び交っていたり、とんかつがたくさん泳いでいたり、何とも言えないセンスの食器やコップばかりだ。しばらくいいのを探していると、金色の装飾が入った高級そうなのをみつける。


「これも来客用としてはいいかもですが、普段使いには微妙ですね」

「というかこの店ってなんか変わり種のばかりだよね……」

「確かにそうですね……」


 マッチョな男の人がボディビルのポーズをしているのがついているお皿だったり、本当に需要が行方不明の商品だらけだ。


「他の店で探してみます?」

「うーん。そうしよっか」


 店を立ち去ろうとしたそのとき、私は桜と鶴が描かれた食器とコップを見つけた。まず見た目が綺麗だし、しかも桜と鶴って私たちのことを示してるみたいだ。


「桜さん! これいいと思う」

「わぁ! 桜と鶴……。本当ですね。これにしましょう!」


 目をキラキラさせる桜さんが可愛くて、つい見惚れていると目が合った。私は誤魔化そうと慌てて口を開く。


「桜さんっていい名前だよね。可愛いらしい見た目そのままだもん」

「千鶴さんこそ優雅な名前です。まぁ少しエッチなところはありますけどね!」


 そんなことを言うものだから私はぼそりと「桜さんだって脳内ピンク色だよね……」とつぶやく。するとじとーっとした目でみつめられた。


「否定はしません。でも私をこんな風にしたのは千鶴さんなんですからね? 千鶴さんに出会うまではこんなのじゃなかったんですからね!」


 まぁ確かに元はといえば、私が桜さんを引き留めるために告白したのがきっかけだけれど……。


「それにしても「今すぐ襲いたい」はねぇ……」


 私はにやにやと桜さんをみつめる。桜さんはぷくっとほっぺを膨らませた。


「し、仕方ないじゃないですか。あんまりにも千鶴さんがえっちなのが悪いんですよ! そもそもあんなスケスケの服着てえっちするって思考になる時点で、えっちすぎるじゃないですか! やっぱり千鶴さんはえっちです!」


 桜さんは大人びたところがあるけれど、意外と子供っぽい一面もあるみたいだ。一応もう大学生で、年齢の上では成人ではあるのだけれど。


「はいはい。私はえっちです。でもそもそもそれって悪いことじゃないよ? 好きな人のためにたくさんえっちになれる。それはむしろ美徳なんじゃないかな?」

「……どういうことですか?」


 桜さんは訝しそうにしている。私は桜さんの頭を撫でながら告げる。


「プライドとか理性とかかなぐり捨てないと人はえっちにはなれないでしょ? つまりえっちであるということは、好きな人にたくさんの愛を注げる立派な人だという証拠なんだよ」

「なるほど?」


 桜さんは顎に手を当てて、何やら考え込んでいるようだ。私はその間に桜と鶴の食器とコップとお箸をレジに持っていく。購入して戻ってくると桜さんは何やら強いまなざしを私に向けてくる。


「わ、私にもあのスケスケのエッチな服、買ってください!」

「えっ!?」


 もわもわと頭の中に想像が膨らむ。桜さんがあのネグリジェを着るのは……。ちょっと犯罪的になってしまうかもしれない。それはそれでインモラルで興奮するかもだけど……。


「だ、だめだよ。桜さんにあの服は早すぎるからっ……」

「私あの服でたくさん千鶴さんを誘惑したいんです! お願いします!」


 ゆ、誘惑って……。


「だめですか……?」


 桜さんは目をうるうるさせている。こんな表情されたら買いたくなっちゃう……。


「わ、分かった。それじゃ、またあの店に戻ろっか」

「はいっ」


 桜さんはとても嬉しそうに私の手を握った。もしも桜さんがあんな服を着て現れたら、私は耐えられるだろうか……? 


「早く私に手を出してくださいねっ!」


 魅惑の視線でみつめてくる桜さん。心なしかその表情はいつもよりも色っぽい気がする。私の理性は激しく揺らいでしまっていた。


 十八歳の女の子と二十三歳の私。年齢差は五歳。そう考えてみると「あれ? 案外問題ないんじゃ?」と思えて来てしまうけれど、やっぱり鏡に映る見た目を考えると、なんだかなぁと思ってしまう。


 だからどうしても、堪えなければと思ってしまうのだけれど……。


「試しに試着してみますねっ」


 二人で入った試着室ですけすけのネグリジェを身に着けた桜さんは、魅力的の一言。恥ずかしそうなもじもじとした仕草が可愛らしいし、しかも可愛いピンクのブラとショーツ。そしてぷにぷにのお腹がみえているから、私の本能が騒ぎ出して理性と激しいせめぎ合いを始めてしまうのだ。


「さ、桜さんってぷにぷにだよね」


 本能のまま飛びかかりそうになるのを抑えてそう告げる。すると桜さんは悲しそうな表情をした。


「ぷにぷに、嫌ですか……?」

「そ、そんなことないよ。すっごく魅力的というか。……襲いたいというか」


 その瞬間、桜さんは私に抱き着いてきた。


「襲ってもいいんですよ……?」

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