番外編 二人がいちゃいちゃするだけの話#2

 私たちは屋外のアウトレットモールの通路を歩いていた。太陽がまぶしい。


「……むぅ。早く千鶴さんの言う「大人」になりたいです」


 スケスケのネグリジェが入った袋の中身をみつめながら、桜さんはぼやく。


「でも魔法少女だとずっと体は子供のままなんですから、もうよくないですか?」

「だめだよ」

「どうしてだめなんですか?」


 ほっぺを膨らませて不満そうにする桜さん。


「子供はね、脳が発達しきってないから判断力が……」

「私のこの気持ちが間違いだって言うんですか? そもそも判断力を理由にするのなら、私死ぬまで中学生の体なので永遠にできないじゃないですか。というかそもそも私たち、一度えっちしてますよね!?」

「そ、それはそうだけど。でもあの時はもう会えなくなる覚悟だったから……」


 なんて弁明してみるけれど、ぷんぷんと桜さんは怒っている。


 でも確かにその通りだ。中学生の体で成長が止まるのなら、もういいのでは? いやいや。やっぱり見た目十五歳の女の子に手を出すのはだめだ。あの時はもう二度と会えなくなることを覚悟していたから、えっちできたけど。でもこういう平常時に手を出してしまえば、なんというか、人としてダメになるような気がする。


「と、とりあえずお揃いのお茶碗とかコップとかお箸とか買いに行こうよ」

「お揃いですか! いいですねっ」


 ふぅ。なんとか話題をそらすことができた。これからは気を付けないとだ。桜さん、なかなかにやる気があるみたいだしね……。やっぱり中学生の体だから性欲も強いのかな……?


 ん? だとするのならこれから私だけが年老いていくわけだから、やがては桜さんの気持ちについていけなくなるんじゃ……? それどころか老いて枯れ果てた私なんていらないって、捨てられちゃうんじゃ!?


 ちらりと桜さんをみる。うん。私の腕にコアラみたいに抱き着いてて可愛い。でも桜さんはいつまで私を好きでいてくれるのかな。一緒に年老いていけるのならそれが一番なんだけれど、桜さんは魔法少女で年を取らないのだ。


 私は桜さんと一緒に歩く。洋風のデザインの建物が並んでいて、海外を歩いているような気分になる。休みの日なだけあってたくさんの人でにぎわっている。みんな楽しそうだ。でも私はうつむきながらアウトレットモールを進む。


「千鶴さん。どうしたんですか?」

「……桜さん、いつまで私のことを好きでいてくれるんだろうって」

「いつまでも好きでいますよ」


 桜さんは微笑んだ。私は肩を落としてつげる。


「でも桜さんってずっと若い見た目のままなんでしょ? 私は年老いていく。桜さんに求められなくなっちゃうかもしれない。……それが怖いんだ」


 桜さんはやれやれと肩をすくめた。


「私が千鶴さんを外見だけで好きになったとでも思ってるんですか? 確かに千鶴さんはとびっきりの美人さんですけど、私が一番好きなのは中身です。私のこと助けてくれて、心配してくれて……。でも強い所ばかりじゃない。甘えさせたくなるような弱さもあって」


 可愛い顔が私を覗き込んでくる。世界一の笑顔を浮かべて、桜さんはつげた。


「だから私、千鶴さんのことが好きなんです」

「……桜さん」


 ハートの中心を桜さんの言葉が射抜いていく。私は人目も気にせず、桜さんを抱きしめた。


「ちょ、ちょっと。千鶴さん? みんなに変な人だって思われますから!」


 中学生にしか見えない桜さんを抱きしめる大人。確かにまずい光景に見えるかもしれない。でも私はそんなこともう気にしなかった。みんなにどう思われようと関係ない。限りある人生なのだ。我慢なんてしたくない。桜さんにもたくさん私の好きを知って欲しいのだ。


「そんなのどうでもいいよ。人生ってきっと思ったよりも長くない。だから後悔なんてしたくないんだ。あの時、もっと桜さんに好きを伝えておけばよかったなんて思いたくないんだよ」


 桜さんは私を抱きしめ返して微笑んだ。


「本当に、千鶴さんは。どれだけ私をドキドキさせたら気が済むんですか」

「死ぬまでずっとだよ」


 私がそう答えると、桜さんは寂しそうな顔をした。


「いつか、私たちも死んじゃうんですよね。どれだけ相手のことを思い合っていても、全て消えちゃうんですよね。そう考えると、なんだか辛いです」

「……だったら、生まれ変わってまた会えばいい」


 私が真剣な気持ちでそう言い放つと、桜さんはくすりと笑った。


「な、なんで笑うの……」

「ロマンチストなんですね。千鶴さんって。私は生まれ変わりなんてあまり信じないタイプですし、魔法少女になるまで神様の存在だって疑ってました。でも今は、生まれ変わりだって信じたいです」


 桜さんは真っすぐに私をみつめてくる。


「私、千鶴さんと出会うまではそんなに長生きしたくないなって思ってたんです。お母さんが死んだときに一緒に死ねばいいかなって。でも千鶴さんに出会ってからは全部変わりました。私、千鶴さんとずっと一緒がいいです」


 桜さんの言葉を聞いたら、来世も桜さんに会えるような気がしてくる。だってこんなに愛し合ってるんだから、幸福を義務付ける神様が私たちを引き離すはずがない。私たちは二人で永遠に輪廻の輪を巡り続けるのだ。


 なんて思ってみたり。流石に重すぎるから、桜さんに話さないけれどね。


 青空を見上げると太陽がまぶしかった。それがまるで私たちを祝福しているようにみえて、私は幸せな気持ちで桜さんと微笑み合うのだった。


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