第18話

15分ほども泣いただろうか?


すこし、落ち着いてきたところで、我に返り周囲の生暖かい視線を感じ、死にたくなるくらい恥ずかしくなった。


そして、校長が今度は優しい笑顔を浮かべながら説明してくれた。


「実はね、君のお母さんは私の生徒だったんだ。

それはもうね、すごいスケバンでね。ずいぶん手を焼いたものだよ。

あっ、スケバンってわかるかい?女性の番長のことだよ。」


「校長、たぶん番長がわからないのでは?」


といいながら先ほどから空気になっていた神田先生がスマホで検索した、暴走族(レディース)の画像を見せてくれた。


要は不良だったということらしい、それも筋金入りの…。


マジか?あの人が…?


「そのスケバンのお母さんが、君のお父さんと交際するようになって、まるで人が変わったようにおとなしくなってね。僕の言うこともきちんと聞いてくれるようになったんだよ。」


「あの糞真面目で融通の利かない母が…ですか?」


「真面目で融通の利かないか、面白いね。君はある意味母親に似たのかもね。」


「…。」


「でもね、お父さんの消防官になるという夢を傍で手伝いたいから私は看護師になるといってね。専門学校に進学して本当に看護師になった時には驚いたものさ。お父さんは大学を出た後、立派な消防官になったようだし。夢を叶えた二人は私の誇りだ。」


「そもそも、父と母は同級生だったんですか・・・。知らなかった。」


「そうだよ。それにとても仲の良いカップルでね、学年でも有名だったよ。今でいうバカップルとしてね。」


「そうなんですね、なんか意外過ぎて恥ずかしくなってきた。」


「そして君は、その二人の愛を受けて生まれてきたんだ。とても、愛しているはずだよ。」


「…。」


「今はすれ違ってしまっているかもしれないけどね。お母さんはね、お父さんがいなくなったときすごく混乱していたんだ。

すぐにでも現地に行きたい。でも、君たちを連れても行けないし、ましてや君らを残して自分だけ行くことなどできないとね。

君は知らないかもしれないけど、お母さんはね、とても優秀な看護師なんだよ。国内で大きな災害が起きたときは災害派遣ナースとして一番に飛んで行って救護をしてきたんだ。それがお父さんの一助になると信じてね。」


「そうなんですか・・・・。知らなかった。」

出張が多いのは知っていたけどそんな理由とは知らんかった。


「でも、そんな彼女だから気が付いてしまったんだ…。

被災後、救命のタイムリミットは72時間とされている。それがどんどん過ぎて行っていることにね。」


「…72時間。それは、知ってはいました。でも!」


「でも、それでも君はお父さんの生存を信じ続けたよね。それが痛ましかったんだ。最初は、先に諦めてしまったことが後ろめたかったらしい、それから君と顔を合わせることが怖くなったそうだ。

その分、幼かった妹の楓ちゃんを可愛がるようになった。

それが君との仲を決定的に悪くしてしまったのだろうね。

お母さんは君のことをとても心配していたよ。本当だよ?

先日も私のところに来ていてね、お父さんのことを泣きながら報告してくれたよ。

あと、君のことをよろしく頼むと。君はいろいろな人から傷つけられてそれでも父親を信じる強い子だと。君のお母さんが自分の誇りだという。私は、そんな君のことも誇りに思うよ。」


「ありがとうございます。あの母がそんなことを…。でもやっぱり俺は…諦めたくないです。う”ぅ”ぅ…」


また涙を流し始めた俺を優しく抱きしめながら、石井先生は言った。


「さっき、仁も言っていたが、ゆっくりでいいんだ。

ゆっくりでいいから友人でもいいさ、先生でもいい。頼ることを知りなさい。」


俺が、泣きやみ落ち着いたタイミングで、校長先生から

「さあ、今日はすっかり遅くなってしまったね。約束通り私が、君の実家に送らせてもらうよ。でないと、君のお婆様に怒られてしまう。」


「ありがとうございます。お願いします。」


「ああ、帰りの準備は仁がしてくれている。ハジメの荷物は職員室にあるはずだ。取りに行こう。」


「菅谷が?まさか、この話のことまで知っていたのか?あいつ。」


「流石にこの話の件は知らないさ。でも菅谷はお前のことを気にしていたみたいだぞ?あの子は萌のことを心から信頼しているはず、あの子も萌とは違った意味で孤独だったみたいだからね。たまには彼の悩みも聞いてあげなさい。信頼関係は持ちつ持たれつから始まるものよ。」


「押忍。ありがとうございます。先生」


「大切な弟弟子だからな萌はwww」


神田先生って無口ではないはずなのに静かだなって思ってたら後ろ向いて号泣してんじゃん。さすが熱血漢だ。感情移入半端ない。そして、ただの空気じゃない一応生徒会の顧問としてここにいるはずだ。


こうしてやっと祖父母の家に帰れる俺であった。

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【改稿中】 尊敬する父を追い続けた結果、人間不信(孤独)になりかけた俺もラブコメみたいな恋愛に憧れます。 パパゴリラ @Gomdam_MK2

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