第17話
早く帰りたくて、ソワソワしている俺に校長が苦笑いしながら話しかけてきた。
「まだ、私のことが苦手かな?」
「いえ。そんなことなないです。」
「うん、ありがとう。こうして話をするのも久しぶりになるね?
以前より元気にしているようで何よりだ。
しかし、勉強はもう少し頑張ってくれると嬉しいかな。」
「ははは、そうすね。すんません、がんばります。」と言って頭をさげる。早く解放されたい一心で。
「ちなみにそんなにそわそわしなくても、先ほど君のお婆様には連絡をしてあるよ。帰りは私が送るから安心して欲しい。」
「…っ、ありがとうございます。勉強の方は...もう少し頑張りたいと思いますが、帰りは一人で帰るから大丈夫です。お気遣いなく。」
何故かこの人たちは、俺のプライベートを把握している。
ちょっと怖い。たぶん菅谷とか磯部あたりに聞いているのだろう。
「先ほどの菅谷くんの話じゃないが君はもう少し大人を頼りなさい。」
そうじゃなくて、最近はバイク通学してるから本当のことを言いにくいだけなんだけど。と、そんなことを考えていたら石井先生から、びっくり発言が出た。
「バイクか?磯部のうちに置かせてもらっているんだろ?今日は大人しく叔父さんの車で帰りなさい。」
「…(磯部のやつ●●す)」
「石井先生、学校では校長ですからね。」
「はい、すんません。でもな萌、バレバレだぞ。あのでかいザックの中に着替えも入っているんだろ?、怜雄にも説教はしておいた。バレているとは思ってなかったみたいでな、泡吹くくらい驚いていたぞwww」
「石井君、あまり生徒を揶揄わないように。萌君もだよ、君の事情を知っているからバイクの件は容認しているとはいえ、少し自重してくれないとどちらも困りますよ。」
「…はい。」
「それでは、本題に入りましょう。
今日ここに残ってもらったのは、君のお父さんのお話をするためです。
お父さんの件は残念でしたね。行方不明になられて7年が経過して、先日、死亡届も提出されたそうです。それでもまだ探しに行きますか?」
「…。」校長を見据えしっかり頷く。
「きっと、お父さんは安全なこの国で元気に育ってくれることを心から望んでいると思います。……スマンな。私にも立場があるからこんなことを言ってしまうが、君の気持ちはわかってあげたいと思っているのだよ。しかし、もう事故から7年も経ってしまったのだ。時間とは残酷なものだ。痕跡も残っているかどうか。」
「母から説得するように言われたんですね?
申し訳ありませんがそれだけはできません。父のことは諦めたくないんです。
母は諦めて死亡届を出したみたいですけど。
俺は納得してません。現に父方の祖父と祖母は現地で父の事を探しています。
俺はせめて父が生きた痕跡だけでも探したいとおもっています。
父は空手の師範代です。滅多な暴力には負けない。それに父は本職の救助技術のエキスパートです。そんな父が二次災害くらいで簡単に死んだりしないと今も思っています。子どもの頃はそのせいで周囲から偽善者扱いされたり、マスコミからも勝手なことを言われ、書かれ悲劇の人扱いされて色々な人に叩かれました。
だから、妹も何も言わず沈黙した。周りの目を見て上手に生きようとしている。
変わり者は俺一人で十分です。」
「そうはいってもだね…」
「…優しい言葉で近づいてきて、平気で嘘をついて簡単に裏切っていきやがる。
だから信じられない。俺に近づくな!わかったようなことを言わないでくれ!」
俺は感情的になってかぶせ気味に大声を上げてしまった。
バツが悪くなり下を向いて奥歯をかみしめていると。
石井先生が、俺に抱き着いてきた。
「萌、泣いていいんだぞ。そんなに堪えてなくていい。お前はもっと気持ちを吐き出していいんだ。溜め込みすぎて壊れるよりよっぽどいい。」
そう言いながら俺を抱きしめてくれた。
「あ”あ”あ”ぁぁぁう”ぁぁーーーーーーーーーーーーーー!」
気が抜けたのか、感情が爆発したのか、恥ずかしながら大声をあげて泣いてしまった。
※ このお話はフィクションです。消防関連の事故を題材に取り上げておりますが日本からの災害派遣に於いて消防官(消防士)の死亡例はありません。実在のお店、メーカー、バイク・車も登場しますが一切、実在の物とは一切関係ございません。ご了承ください。
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