第16話

さて、俺はなぜ先生方に囲まれていいるのでしょうか?


これから何が執り行われるというのか?


先ほどまで一緒にいた菅原すらこの場からは居なくなっている。


今日はバイトが休みの日だからまだ時間的には余裕があるが、それでも早めに解放されたい。


バイトがない今日は母方の祖父と祖母の家に帰らなくてはならないからだ。


これも、独り暮らしをするための条件だったりする。


帰るのも別に嫌じゃない。今の家だって、祖父母の家からそんなに離れてもいないし。


むしろ、こんな俺の面倒を笑ってしてくれている祖父母には感謝しているくらいだ。


… 母と妹に会うことがなければ居心地も悪くない。


* * *


父さんが行方不明になって、大騒ぎになった後、母とは顔を合わせてもまともに話をしていない。ピリピリした空気になるから、あまり会わないようにしている。


母と妹とはうまくやっているようだけど。


接点があるのはお金のやり取りがあるときや強制3者面談になった時。


叱られるイベントがあるとき。


母も看護師として第一線に立っているから忙しいのは分かっている。


が、俺に対しては本当に無関心な人だ。


社会的な体面を気にするような人だから、迷惑さえかけずに生きていればどうでもいいのかもしれない。


逆に、親代わりをしてくれいている祖父母は昔から甘えさせてくれたし叱ってもくれた。


変な比較もされなかったから本当にありがたかった。


事故で行方不明になっている父さんのことについても一切否定的なことを言わなかった。


それが俺にはとても嬉しかった。母方の祖父母にとって父さんは本当の息子ではないのに本気で心配しているのがわかった。


本当に尊敬できる人たちだ。


そんな祖父祖母と10歳の頃から昨年までの数年間、一緒に暮らしていた。


ちなみに、父方の祖父祖母とはしばらく会っていない。


こっちについても別に関係が悪いわけではなく海外にいるからだ。


日本に帰ってきた時には会っているし。


というか日本にいる時は大体、母の実家である鈴木家で過ごしている。


そこで、いろいろな話をする。


だけど、今は、そんな母方の祖父祖母の元から離れ、生まれてから10歳ころまで暮らした一軒家、つまり俺の実家で一人暮らしをしている。


父が行方不明になって、マスコミやら周囲の人間やらが大騒ぎした結果、小学生だった俺は一時期、疑心暗鬼になりひどい人間不信に陥っていた。


マスコミなどから避難するために鈴木家に引っ越した。


でも、今はもうマスコミもほとんど来ない。


静かになって安全も確保ができたなら、俺がここに戻らない理由はない。

想いだの残る家が好きだったから、たとえ一人であってもこの家に暮らしている。


幸い、家電もほとんど残っていた。あと家が傷まないようにと祖母がたまにきて風を入れたり掃除をしてくれていたので生活はすぐにできた(婆ちゃん本当に感謝してます)。


違うのは、母と妹の荷物がすっかりなくなっていることだけだ。


一人暮らしをするにあたって祖父母とは何回とは何度も話し合った。


最終的に祖父母の出した、一人暮らしの条件が、食費は自分で負担する事。


掃除はまめにすること、テストで赤点を取らない事。


それから安否確認のためアルバイトが休みの日は必ず鈴木家で食事をする事。


これを破らない限り俺はこの家にいられることになっている。




そんなわけで俺は、早めに帰らねばならないのだけど。


何なんだこの状況は??


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