第18話 デートが終わったら
昼食を済ませ午前中に行っていなかったスポットを回ると少し早めにイルカショーの会場へと向かった。
午前中の賑わいから察するに直前に行ったのでは会場に入ることもままならないと思ったからだ。
その予想は見事に的中。イルカショー開始の三十分前なのに半分以上の席が埋まっていた。
結構後ろの方の席が集中して埋まっているみたいだ。
それもそのはず、こういうイルカショーではジャンプ後の着水時に派手に水しぶきが立ち、前の方の席まで水が飛んでくるからだ。
「後ろの方の席は全滅か」
「あっ、かー君。あの席ならどう? 真ん中あたりじゃから、あの位置なら水しぶきも飛んで来んじゃろ」
伊吹が見つけた席に座ってイルカショーが始まるまで談笑して過ごす。会場は満席になり、いよいよショーが始まった。
ドルフィントレーナーとイルカの見事な連携が続いていく。その賢さと泳ぎの躍動感は水上から見てもやはり凄かった。
そしてショーも中盤に入り目玉でもあるイルカの大ジャンプが行われる。派手に着水して発生した水しぶきが前の方の席を呑み込む。
これを予想していた人は傘やレインコートで凌ぐがそうでなかった人はずぶ濡れになっていた。でも、なんか楽しそう。
「この辺りなら濡れなくて済みそうじゃね」
「うん、あの大ジャンプ以上のしぶきなんてないだろうからね」
そう思っていた時期が俺にもありました。ショーが終了するとイルカのバイバイなるものが行われた。
プールの中に入ると中々出てこようとしない。このまま終わりかなと思っていたら、俺たちの前方にイルカの尾びれがヌッと水中から出てきた。
「何が始まるんじゃろ?」
「いや……ちょっと待て。何か嫌な予感がするぞ」
そう思った直後尾びれが激しく水面を打ち始めた。ジャンプ後のものとは段違いの水しぶきが観客を襲い、後方の席まで水が飛んでくる。
ヤバいと思った時には俺と伊吹に水が直撃し、ずぶ濡れの一歩手前の状態になっていた。
プールを見ると愛嬌を振りまくイルカがつぶらな瞳で観客席を見ていた。どことなく笑っているように見えるのは俺だけだろうか?
「あ……」
伊吹が短く困ったような声を上げる。どうしたのだろうと視線を向けると濡れたせいで彼女の白ワンピースが透けて、中の水色の下着がうっすらと見えていた。
「なん……!?」
驚きで声が詰まってしまう。このままでは伊吹のあられもない姿がさらされてしまう。パーカーを脱いで伊吹に着せると何とか透けていた下着部分を隠すことが出来た。
イルカへのグッジョブという気持ちと怒りが八対二でせめぎ合う中、俺たちは水族館を後にした。
既に館内は全て見て回っていたので、次の目的地である大笑タワーに向かう事にした。その道中、海岸を歩いて行けば濡れた服も多少は乾くだろう。
「伊吹、寒くないか?」
「ううん、大丈夫。今日は天気も良くて暖かいから。濡れた服もすぐに乾くと思う。それよりもかー君のパーカー借りてていいん? かー君の方こそ寒うない?」
「俺は大丈夫だよ。これで丁度良い感じ」
ゴールデンウィーク中という事もあって、浜辺にはたくさんの人が訪れている。海ではサーフィンを楽しんでいる人もいた。
皆、色んな形で海を楽しんでいる。それは俺と伊吹も同じだ。休憩がてらに浜辺で少し遊ぼうという事になった。
「えへへ、不思議な感じ。こうして立っているだけで海に引っ張られるような感覚がする」
「分かる。こうして久しぶりにやってみると面白いもんだなぁ」
靴を脱いで二人で浜辺に立つ。打ち寄せては返す波を足で感じて楽しむ。そうしていたらいつの間にか服は乾いていた。
浜辺に座って休憩しているとすぐ隣にいた伊吹が身体を寄せてくる。俺もそれに合わせて身体を寄せる。
「ウチらって他の人から見たらどういう関係に見えてるんじゃろ?」
「そりゃ、やっぱり恋人に見えるでしょ、多分」
「そっか。そうじゃよね」
終始ご機嫌の伊吹がさらに身体を密着させてくる。色々と柔らかいものが押しつけられて幸せの絶頂です。
しばらく休憩すると服が乾いていたのもあってバスでタワーに向かった。歩いたら地味に距離があったので文明の利器を使う。
大笑タワーの展望室からは付近の大笑町の街並みや港、それに水平線が見える。高い位置から自分たちが住んでいる場所を見てみると世界は広いと思わされる。
浜辺で長い時間遊んでいたこともあって、タワーに到着してそんなに時間も経たないうちに空がオレンジ色になってきた。
水平線に太陽が沈もうとしている。周りには俺たちと同様にカップルが結構いた。皆も夕暮れのムード漂う中キスでもしようとしているのであろう。
やたら周りをちらちら見ている。付き合い始めて間もないカップルビギナーの俺たちはキスを断念してタワーを後にした。
「帰りのバスの時間もあるし、そろそろ帰ろうか。家まで送っていくよ」
「……うん。ありがと」
ついさっきまでは元気だった伊吹の様子が少しおかしい。俯いていて何かを考え込んでいる様子。
「大丈夫? どこか具合悪い?」
「ううん、大丈夫。ウチは元気じゃよ」
そう言うと再び黙り込んでしまう伊吹。もしかしてデートがつまらなかったとか? それなのに俺に合わせて無理矢理楽しそうに振る舞っていたのだろうか?
ええい、こうして考えていても仕方が無い。こういう時はちゃんと確認して間違っていた部分は次回で直さないと。
質問しようと口を開きかけた時、伊吹が小さな声で話し始めた。
「……あのね、かー君」
「え、ああ、なに?」
「ウチ……今日ね、お母さんに結ちゃんの家に泊まってくるって言うてあるの」
「――へ?」
頭が真っ白になった。現在、俺の家族は旅行に出かけていていない。帰ってくるのは明日の夜だ。それまでは家には俺一人。
「それって……あのさ伊吹、実は今日――」
「知っとるよ。かー君の家の人、旅行中で家にいないんじゃろ? 結ちゃんが話してたよ」
「な……! 伊吹、自分が何を言ってるのか分かってる? その、男が一人でいる場所に泊まりに来るっていうのは、何て言うか……そうなる可能性が高いというか……ほぼ確実にそういう流れになる。言っておくけど、俺はそこら辺は紳士的じゃないと思う。多分……自分の欲求を抑えられない」
「……うん、そうじゃね」
「それに、俺たちはまだ付き合い始めてそんなに経っていないし、そういうのはまだ早いと思うんだ。だからそんなに急がなくても――」
「ウチはかー君と出逢うてから二年間、ずっとかー君だけ見てきたよ。……こんな事言うたらはしたないって思われるかもだけど……何度もかー君にされるのを想像して自分で慰めたりもした」
その衝撃の告白に俺の頭が真っ白になる。そりゃ年頃なのだしそういう事をするのは別に不思議なことじゃない。
ただ、以前から知っている奥手な少女が俺との行為を想像してそんな事をしていたと知ったら冷静じゃいられなくなるだろう。
これはヤバいぞ。午前中のキスとは段違いの性欲が奥底から湧き上がってくるような感覚だ。
「――それで実際にかー君とお付き合いするようになって、想像でしていた事が現実的になって……今日の初デート凄く楽しかったけど、かー君を身近に感じるほどウチの身体熱うなってしもうて、どうにかなりそうなんじゃよ。……じゃから、かー君……ダメ?」
懇願し俺の手に触れる伊吹の手は震えていた。ありったけの勇気を振り絞り、自分の秘密を打ち明けてくれた伊吹は俺のようなへたれなんかよりもずっと勇敢だった。
そんな彼女の手を俺は握りしめ、バスに乗っている間もバス停から自宅に帰る間もその手を離すことはしなかった。
30歳童貞だった俺が高校時代にタイムリープしたので人生をやり直そうとしたら、妹の友達の小生意気なコギャルが俺にゾッコンだった件。実は彼女は初心な方言少女で天然カワイイ! 河原 机宏 @tukuekawara
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