最終話 本当の世界

「ねえ、真優。結局コスメのことなんだけどさ」

「まだそれ言ってるの?」

「だって、真優もったいないよ。せっかく私っていう最高の先生がいるのに化粧もしないまんまなんて」

「そもそも私のこの姿も借り物だし……。本当はもう高校生なんかじゃないしさ」

「それ言ったら二人ともそうでしょ。確かに高校生の時からずっと意識がなかったせいなのか、この世界が現実じゃないって気付くまでには時間がかかったけど、それでも外の世界では真優と同じように、体は歳をとってるわけでしょ。同じじゃん」

「それも、そっか」

「だから気にしなくていいの! 明佳がわたしのことずっと考えてくれてたのは嬉しいし、それに他の友達だって、その気になれば呼べるんでしょ?」

「それは、呼べるけど」

「けど、何?」

「……私以外と仲良くしてる明佳を見るのは、ちょっと嫌だ」

「あはは! 真優、本当に正直!」


 現実ではない、現実のような世界。

 私と明佳以外は作り物の、嘘の世界。


 だけれどもそれを受け入れれば、それは現実と何も変わらない。

 そのことを、この仮想現実シミュレイティブりリアリティを創り、明佳に経験させながらも、私はわかっていなかった。


「どんなところでも行こうと思えば行けるんでしょ」

「再現データはいくらでもあるから、色々行けるよ」

「じゃあやっぱりハワイ行きたいなー、ハワイ。できるでしょ」

「当然」


 私と明佳は笑い合う。

 そこに嘘はない。現実の世界と同じように、一緒にいれる最後の時まで、きっと共にいよう。

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煌々たる天窓 宮塚恵一 @miyaduka3rd

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