第5話 嘘と正直

「やっぱり、そうなんだね」

「違う、違うの明佳」

「いいの。真優が言いたくないって言うなら無理に聞かない。けど、気づいちゃったからさ。それを何も言わずにおくってのは、できないから」


 最初はとぼけ通すつもりだったけれど、明佳の言葉を聞いて、こみ上げる涙を我慢できなかった私は、もう明佳に隠し通すことができないことを悟り、観念して明佳に全てを話すことにした。


 明佳が事故で意識を失ってしまったこと。

 この世界が私の用意した箱庭で、街よりも広い範囲を再現するのは難しいこと。この世界にいる生身の人間の意識は、私と明佳だけで、それ以外は高校時代に出会った人間を再現した人工知能であること。

 その全てを、私は泣きながら彼女に話した。


「でも、どうしてわかったの」

「んー? 勘?」

「勘……」

「だからちょっとさっき勇気出したんだよね。あんなこと言っておきながら、全部勘違いだったらもう死ぬほど恥ずかしいし」


 勘か。この仮想現実シミュレイティブリアリティは現実を、かつての仮想現実ヴァーチャルリアリティなんて比べるまでもなく、遥かに忠実に再現している世界だ。人間の意識を再現した人工知能だって、普通に喋っていたら本物と変わらない。

 だけど確かに、現実ではない以上、明佳には気づけるだけの違和が、どこかにあったのだろう。それは何か一つだけ、というわけではなく、現実ではない、嘘の積み重ねの中にある綻びだったのかもしれない。


「でも良かった。真優が正直で」

「正直、って」


 そんなことを、言わないでほしい。

 私は、嘘つきだ。彼女に、嘘の世界をそうと伝えずに過ごさせたのだから。私も本当は女子高生なんかじゃない。明佳なんかより、よっぽど歳を重ねてしまったのに、明佳のことを忘れられずに、明佳との青春を取り戻そうなんて考えた愚か者だ。大人の癖に、明佳を騙して、明佳と一緒に過ごそうとした。

 正直なんかじゃない。


「そんなことないよ。だって、真優がこのシミュリア? この世界を作ったのは、私のためなんでしょう。だったら、何にも嘘つきなんかじゃない」


 明佳はにこやかに私の肩に手を回し、抱き寄せた。私の肩は、まだ震えていた。


「ありがとう、真優。これからもよろしくね」


 私の目から、また大粒の涙が溢れた。

 明佳はそんな私の背中を優しく叩き、ただ肩を寄せ合わせてくれた。

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