閑話 ある魔法少女の一日 その一

 お久しぶりです!


 ちょっと本編はお休みして、今回は魔法少女側の話を少し書いていきたく思います。



 ◇◆◇◆◇◆


 突然だが、第二次悪心大量発生がこの町に残した爪痕は大きい。


 魔法少女や警察、自衛隊の連携により、一般人の死傷者数は第一次に比べ非常に少なかった。……しかしそれでも決して皆無ではなく、建物も多くが倒壊等の被害に遭った。


 それは発生から二週間経った今でも完全に復興せず、所々で立ち入り禁止のテープが張られた家々が目立つ事からも明らかだ。そして、


『グオオオっ!』


 そんな中でも悪心の出現は止まる事はない。発生率こそ大分落ち着いたとはいえ、こうして時折町中に現れ出ては暴れまわる。


 今もまた、自動車並のサイズの馬型悪心が一体、道路を我が物顔で駆け抜けていた。幸い周囲に人の姿はないが、一つ間違えばその蹄で簡単に踏みつぶされる脅威である。だが、


「まあぁてこらあああぁっ! 逃げんなああっ!」


 


 一人悪心を追って後方から、橙色の魔法少女が凄まじい勢いで猛追していた。


 馬に走って追いすがる人間という側から見たらびっくりな構図だが、こと魔法少女は人の理を凌駕する者なので珍しくはない。


 ピピピっ! ピピピっ!


 走りながらも、突如響く腕の発信機を器用にタップする少女。


「はいもしもしこちらミカン」

『こちら火野。状況は?』

「めっちゃ速えよアイツっ!? 距離を保つのがやっとだ」

『想定内。そのまま予定ポイントに追い込んで』

「りょっ!」


 通信を切り、再び追跡に全力を傾ける少女ミカン。


 そのままさりげなく後ろから位置取りを調整し、徐々に人気のない場所に馬型悪心を誘導していく。そして、


「悪いね。ここから先は通行止め」


 一閃。


 突如として、走る馬型悪心の右前脚に一筋の線が走り、そのままバランスを崩して転倒する。


 すぐに起き上がった馬型悪心だが、その脚の一本はで黒い靄が漏れ出していた。


 それを成したのは真っ赤な少女。どこか中華風の衣装に、右腕には赤く発熱する鉤爪が装着されている。


「何だよぉ火野。こんだけアタシが追い込んだのに、良いとこ全部そっちかよ」

「追い込みご苦労様。でもまあアレよ。。でしょ?」

「まあな」


 気が付けばそこはだだっ広い空き地。元は何かの建物の建築予定地だったが、予定と言っておきながらここ数年進展もなし。おまけに先日の悪心大量発生にて、形だけの工事すらなくなって完全に放置されていた。


 確かにここなら周囲に人の姿もなく、多少派手に暴れても支障はないだろう。ミカンはごきごきと拳の骨を鳴らし、火野はスッと赤熱する鉤爪を構える。


 馬型悪心もブルルと鼻息を荒げ、脚の怪我などものともせずに魔法少女達の隙を伺っている。少しでも隙があれば、そこを魔法少女ごと踏みつぶして突破してやろうと言わんばかりに。


 そのまま数秒ほど睨み合いが続いたかと思うと、



「……なんてね。ミカンっ!」

「あいよっ!」



 魔法少女達は、急に構えを解いて全力で後ろに飛びずさった。


 これには隙を突いてやろうと考えていた馬型悪心も一瞬虚を突かれる。自分が何をするまでもなく、勝手に向こうから隙を作ったのだから。


 それゆえに判断が遅れた。逃げる魔法少女に追撃をするのでもなく、一目散に突破して退避するのでもなく、僅かにだが動きを止めてしまった。


 だからこそ、


 キイィン…………ズドーンっ!



 、抗う事も逃げる事すら叶わず消滅した。



「ひゅう~! やる~!」

「相変わらず、遠距離火力と精度にかけては際立っているわね」


 悪心を完全に消し飛ばすほどの火力を出しながら、ピンポイントに悪心の居た場所だけ奇麗に消し飛ばした様子に、ミカンは口笛を吹いて感心し、火野は冷静に腕に着けた通信機を操作して誰かに連絡をとる。


「……もしもし。そちらからも見えていると思うけど、悪心は無事仕留めたわ。周囲への被害も最小限。はまずまずと言った所ね」

「おいおい。アタシにも喋らせてくれよ。……お疲れさん。ここしばらく調子が悪いって話だったが、前に合同で戦った時ばりにキレッキレのビームじゃねぇの!  





「へへっ! ありがとうミッちゃん。火野さんも」


 通信機の先、その現場からやや離れた所にある高いビルの屋上で、愛用のステッキをくるりと回してコムギは朗らかに笑う。


 先日の悪心大量発生。その際に負った傷も、専門機関の治療と本来魔法少女に備わっている高い治癒力によって大体は完治していた。


 そう。これは休み明けのリハビリと、これからしばらく互いに背中を預ける事になるチームメイトへ実力を見せるための試験を兼ねた物。


 最悪コムギが戦えなくとも何とかなるよう注意を払いながら、それでいてコムギが上手く決められるよう場所と状況をセッティングした二人の技量も相当だが、そのチャンスを逃さず周囲に被害を出す事もなく一撃で決められたのは、間違いなくコムギの実力だろう。


「……うん。じゃあ今日はここまでで。後でミーティングね! それじゃあ」


 そう言って通信を終了し、コムギは息を吐いてステッキをギュッと握りしめる。


(大分怪我する前の感覚が戻ってきた。……火野さんもミッちゃんも、魔法少女としての実力は本物だし良い人達だ。これならこれからも魔法少女として頑張れる)


 そうして、軽くパンパンと頬を叩くと、コムギは顔を上げて力強く一歩を踏み出した。




(アズキちゃん。アズキちゃんが戻るまで、アタシ止まらないから。いつ戻ってきても良いように頑張るからね!)




 ◇◆◇◆◇◆


 如何だったでしょうか? その一と題名にあるように、これからしばらくはこちら側の話となります。本編はもう少々お待ちください。

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悪の組織の新米幹部 死にかけの魔法少女を拾いました! 黒月天星 @HPEP7913

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