ゆめがたり
山口 隼
第1話
夢の話を記す。
僕は顔も知らぬ悪友数人と夜の街にいて、どこか廃墟のラブホテルにいた。なんとか横になって夜を凌ごうというのだ。しとしとと雨は降り、時折トタンに水滴の落ちる音が強く響く。
上手く使えそうなベッドを見つけ横たわる。マットレスの硬さにうんざりしながらも、とろとろと眠り込みかける。しかし廃墟だ、よくよく考えねば見張りを立てなければならない。誰かが割り箸を割って赤の印をつけ、箱に放り込む。
まず僕が引いた。10だ。(まったく、どうしてそんなに作ったものだ?)「焼夷弾を浴びた子供だな」とくじを作った者がしたり顔で言う。「何だって?」僕は俺の心持ちになりながら転がったまま訊く。
やつはこう答える。「新聞記事と(くじを)合わせてやったのさ」「知らん。ハズレか?」闇のなかで相手がうなずく気配がする。どうでもよいことだ。
次に僕のすぐ左隣に寝た男が引く。なかなか拾うことができない。舌打ちをしながら掴むと、砂漠のような声で「2」とつぶやく。
「2か」返ってくる別の声は遠い。くじを作った男のそれもまた、酷く無機質になっている。
「26歳、女性。子供が腹にいるのに殺され、バラバラにされた」
沈黙が落ちる。闇の温度が次第に変わるのを、僕は覚える。粘つき、肌にまとわり、しかし同時に背骨を氷の寒さが通り抜ける。
何とはなしに気づいていた。
この場所が現場のはずだと。
隣の男がつぶやく。
「終わったな」
「何が」僕は答える。
「後ろ、下」
僕は気づく。僕の左腕には感触がある。触れ合う肌以上の、微細な指の……気づいた瞬間、取りすがる様に、引きずり込むように、強く握られた、血まみれの掌が! 長髪が顔をおおった、女が立ち現れ、
「コラァ!」
俺は同時にその手を掴みにいって、そこで現実へと返る。ちょうど今この時だ。見慣れた自室である。
僕が次に言うはずだったセリフは、こうだ。
「おめーよく考えろ! 幽霊がネオンの下やパチ屋のビカビカ光った演出の下で出るか? ボーナス確定画面で? そんなら再現性はねえんだよ」
かくして眠い目をこすりながら僕は「なんて即物的なやつだ、俺は……」と呆れながら時計を見る。
4:44。
僕は闇の中に、気配を覚えている。
ゆめがたり 山口 隼 @symg820
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