オペレーター物語

Glacialis

オペレーター物語

 堀チエコ(25)電話オペレーター

 風間杜太(40)社員・電話オペレーター

 高木頼子(50)社員

 石達哲之(42)客

 白石あつみ(25)電話オペレーター

 オペレーターA

 オペレーターB

 オペレーターC

 

 

 

○NNT並丘支局 電話受付け室(朝)

   高木頼子(50)が仕切る朝礼が始まる。マイクの声が広間に響く。

頼子「今朝は皆さんに、お客様の苦情の件で尋ねなければなりません」

   室内がざわつく。

頼子「昨日、お客様に失礼な態度を取った女性はいませんか?石達哲之(42)様が、話の途中で電話を切られたと、大変お怒りになられておられます」

   更に室内がざわつく。

頼子「この百名近いオペレーターの中に必ず居る筈です。心当たりのある人は、朝礼が終わったあと、私まで名乗り出てください。以上で終わります」

   時計が九時を指し、電話が一斉に鳴り出す。

   堀チエコ(25)はモタモタとインカムを頭につける。

チエコ「待ち戸が出てる!電話つながなきゃ…ああ…他の人が出ちゃった…」

   チエコの背後の席に座る、風間杜太(40)が振り向く。

風間「堀くん、慌てず出よう!」

チエコ「はい!私、お客様に何を言われるのか分からないのが怖いです!」

風間「そうか、分からないことがあれば何でも聞いて」

チエコ「はい!風間主査」

   突然、頼子がパーティションの上から風間のグループを差し覗く。

頼子「堀さん、ドンドン出ようね!…風間くん、朝礼の話だけど…何か聞いたとかないかしら?」

風間「僕のグループは無いですね」

頼子「今朝からもう、石達様から八件も電話が有ったと聞いたわ。オペレーターの声を聞いて判別してるみたいよ」

風間「そうですか…早く誰かわかれば良いですね」

頼子「石達様、とてもご立腹のようよ。困ったものね」

   頼子は他のグループの元へ去る。


○同・食堂

   チエコは、白石あつみ(25)と昼食をとっている。

あつみ「ねぇチエコ、朝礼の話、誰だと思う?石達って人、今朝から昼まで20回以上電話してきたらしいよ〜」

チエコ「え〜!!」

あつみ「社員の人かな?相当恨まれてるね」

チエコ「私そんな嫌な態度お客様に取ったことないよ〜」

あつみ「そうね、チエコ臆病だもん〜」

チエコ「怖いね〜。当たったらどうしよう!」

あつみ「祈るしか無いよね〜」

 

○電話受付室(夕)

   頼子が手を二回叩く。

頼子「はい、今日はお終いです。朝礼の苦情の件は結局誰も名乗り出ませんでした。石達様からは50件を超える電話がありました」

   オペレーター達は、口々に囁き合う。

頼子「誰にも言わないので、そっと名乗り出てください!」

   室内で帰り支度をし始めるオペレーター達。パーティションの上からあつみがチエコに声をかける。

あつみ「チエコ、駅まで一緒に帰ろう?」

チエコ「ごめん!もう少しかかるから先に帰っといて」

あつみ「そう!わかったわ、お疲れ様〜」

   もたもた帰り支度をするチエコ。

オペレーターA「例の石達って人、正面玄関で待ち伏せしてるって聞いたわ!」

オペレーターB「じゃあ、裏口に出る非常階段から降りましょう」

チエコ「待ち伏せって…どう言う神経してるの?」

   チエコは非常口を暫く眺める。

風間「堀、もう帰れるか?」

チエコ「はい!風間主査」

風間「非常口から出よう、送ってやる」

   チエコはホッとする。

風間「放って置けない、だが、駅までだぞ」

チエコ「ありがとうございます」

   チエコはバッグをかけ、風間の後を小走りで追う。

オペレーターC「大変よ!裏口があるのがバレたみたい!」

チエコ「えっ!」

風間「うむ…」

   チエコは非常口の緑の灯りに目を細め、風間の背中を見つめる。

風間「正面玄関に居るか…裏口にいるか…だな。俺もなるべくなら会いたく無い」

   風間は目を瞑り首を捻る。

チエコ「あつみ…大丈夫かな…」

風間「よし!堀、非常階段から帰るぞ」

チエコ「はい!」


○同・非常口・中(夕)

   風間とチエコは戸を開けくぐる。薄暗い電灯の下、階段を降りる。

   

○同・非常口・外(夕)

   チエコと風間は非常階段を降りている。

風間「堀、足元を気をつけろよ」

チエコ「薄暗くて降りづらい階段ですね…」

風間「さっさと行くぞ、裏にもし居たら、厄介なことになる」

   チエコは滑りそうになりながら、風間の後を追う。

チエコ「ドキドキする…すごく怖いわ」

   風間は下の非常口のドアを力一杯開ける。

チエコ「ああっ!」

風間「シィッ!しゃべるな」   

   チエコと風間は息を殺しながら、周囲を見渡す。

風間「……よし…居ないようだな」

チエコ「はぁ〜ヘタリそうだわ」

   チエコと風間は人影が無いことを確認する。

風間「さあ、早くここを離れるぞ」

チエコ「はい」

   チエコはまだオドオドしている。

風間「駅までついてこい」

チエコ「主査、ありがとうございます」

   チエコと風間は声をひそめ、そっとこの場を立ち去る。


○電話受付室(朝)

   翌朝

頼子「ねぇ、風間君、まだ現れないの」

風間「困りましたね」

頼子「昨晩のようなこと、まだ続くのかしら」

風間「根気強く待ってみましょう」

頼子「そうね」

   風間と頼子が話をしている間、チエコは電話を取る。

チエコ「はい、電話受付け担当の堀です」

××の声「クククッ…堀というのか…見つけた!」

チエコ「ええっ!!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オペレーター物語 Glacialis @Glacialis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る