最終話 最強とは最凶だ

 夏休みが終わる前日、私の元に入学時に学園側から支給された端末から新たなクラス分けが送られてきた。

 そのメールを開いて見てみると、晴れて正式にチームとなったアネット・ロンズテール、レオン・マルセイユの名前が私と同じクラスの欄に記載されていたのだが、これはチーム結成申請書類を夏休みが始まる前日にレオンが提出してくれたお陰でもある。


 そして、登録に必要なチーム名も話し合いで決定した。チーム名は『青薔薇騎士団あおばらきしだん』。その由来は3人の思い出の場所、屋上庭園に咲いていた薔薇からインスピレーションを得た上で、花言葉に『夢叶う』の意味を持つ青薔薇、アネットが夢として掲げるマルセイユ王国で女性初の騎士団長になることを混ぜてカッコ良さを出していこうとした結果、こうなった。


 一方で、後期授業の初日に『王立シャントゥール魔法学園魔法戦闘大会』への参加を認めてもらう為、まずは担任の先生に話した所、無事に推薦を貰うことが出来た。後は学園長からの許可待ちとなったのだが、翌日には先生から学園長許可が出たという話があって安堵した私達は、より一層気合いを入れて訓練に取り組んでいた。


 ちなみに夏休み期間中、どうしていたかというと、レオンの実家にて3人で合宿をしていた。

 そのきっかけは、夏休みをどうやって過ごすかを休み時間に3人で話していた時だった。


「──それでね、ずっと気になってた隣町の市場に行ってみようかなって思ってるんだ。ソラは?」


「私は……学園寮しか帰る場所が無いから、このまま残って授業の復習をしようと考えてるけど、当分は暇かな」


「…なら、うちに泊まりに来ない?」


「え、あの、今なんて」


 こうして突然の誘いと共にお泊まりイベントが発生。しかしながら断る理由も特に無く、アネットがその話を聴いて羨ましいと言ってきたこともあって、暫くしたら彼女も合流して合宿をすることになったのだ。


 ただ、レオンの実家に到着後、驚愕の事実が待ち受けていたのは…また別のお話。


 そして季節は秋となり、学年末の大型イベント『王立シャントゥール魔法学園魔法戦闘大会』の本番がやってきた。


* * * * *


「準決勝、勝者は『青薔薇騎士団』」


 特設会場に割れんばかりの歓声が響く中、私達のチームは危なげなく準決勝まで勝ち上がっていた。しかし、1年生でここまで来れたのは、まさしくレオンの才能スキル『采配』のおかげだ。


 才能スキル采配さいはい』。自身も戦いながら相手の弱点を分析、一緒に戦う仲間にしか見えない魔力の粒子を飛ばして、通るべきルートを指示する。これこそ、レオンが合宿中に身につけた才能スキルだ。


 また、アネットもメイン魔法である炎の上位魔法の取得に成功したり、私も魔法のコントール力がかなり向上したこともあって上級生相手でも引けを取らない戦いが出来ていた。


 そして、準決勝が終わり決勝待機場所にて。


「次は決勝か〜。流石に緊張してきたかも」


「そこまで固くならなくても、今まで通り戦えば問題ない。ソラ、今の内に聞きたいことや改善点があれば言ってほしい。…ソラ? どうした」


 レオンが心配そうに尋ねるのは、私が力無くその場にしゃがみ込んでしまったからだった。体は恐怖からなのか、小刻みに震えている。何故なら次の決勝の相手は、前回優勝したメンバーもいる実力者同士で組んだ3年生のチームだ。優勝しないといけないのに、下手したら一瞬で……。


「───ソラ」


もやもやした思考を切り裂くように鋭い声でもう一度名前を呼び、震える手を握ってきたのはレオンだった。


「大丈夫。君は1人じゃない。僕も、アネットもいる。だから、僕達を信じて?」


 いつの間にかアネットも重ねるように手を握って頷く。言葉には出さないものの、気持ちは充分に伝わってきた。私は1人じゃない。こんな状態を見捨てずに寄り添ってくれて、合宿中も食事の時間を削って魔法の練習に励む様子を見て何も言わず一緒に付き合ってくれるかけがえの無い仲間が、親友がいる。


「──レオン、アネット。ありがとう、もう大丈夫。…それじゃ、行こうか。優勝の舞台に」


 ゆっくりと立ち上がって歩き出した時には、自然と体の震えは止まり、全身が不思議な力に満ちていた。


* * * * *


「これより決勝戦を行います。各自、配置について下さい。……それでは、始め」


「はっ、俺達が1年に負けるなんてありえねぇ。こういうのは先手必勝なんだよ!」


 開始早々、アタッカーらしい人物は振り切るように3人の方に向かって走りながら呪文を唱える。


「ちょっと」と対戦相手のリーダーらしき人物は声を上げるが、その足は止まることを知らない。


「来るぞ。各自、カウンターを…」


「「2人とも下がれ」」


 レオンが出した指示を無視したことに本人が驚く暇もなく、いつの間にかソラの指輪は眩い光を帯びていた。


「「今度こそ、我の出番のようだな」」


 それは、まるで誰かに乗っ取られたようだった。変な予感がしたアネットが前に出たソラに触れようとしたが、何気なく瞬きをした時には既に一面は霧に包まれていて、敵か仲間かも判断が出来ない状態になっていた。


「なにが起きてる」

「見えねーぞ」

「ママ〜まっしろだ」 

「ダメ、動かないで」


 観客すら戸惑うほど広がる霧に視界を奪われる中、ソラは綺麗に指を揃えた右手を空に向かって伸ばす。すると頭上には、会場を揺らすほどの魔力を放つ漆黒の巨大な塊が出現、その周りには、まるでオーラのように炎が纏わりついていた。

 さらに追い撃ちをかけるように対戦相手の足元に蔓が生える。それは、あっという間に足から巻きつき、徐々に体の自由を奪っていった。


「「これで終わりだ」」


 ソラは、そう呟きながら空中に浮かぶ手を、すっと前に振りかざす。同時に巨大な塊はフィールドの中心で弾け、大きく空気が揺れる。数秒後、爆風と耳鳴りがするくらいの爆発音が鳴り響く。音を置き去りにするように。ここまで10秒も掛かっておらず、まさに一瞬の出来事だった。


「そっ、そこまで。決勝、勝者は『青薔薇騎士団』。よって優勝は…『青薔薇騎士団』」


 会場がどよめく中、勝利の宣言を聴いたソラは、ニヤリと笑みをこぼしたタイミングで何かが抜けたようにその場に倒れた。チームメイトが急いで駆け寄って様子を確かめると、どうやら魔力の使い過ぎで気を失っているようだった。


* * * * *


「一体どういうことだ! あんな厄介者がいるなんて、こちらは聞いていない」


「落ち着いて下さい、理事長」


「冷静で居られるか。だから闇魔法は嫌いなのだよ。これでは、まるで大凶を引いた気分だ」

「大凶。そこまで言いますか」


「そうだ。……あー、成程な。まさに最強を超えたの誕生、ということか」


 かくして学園内では、皮肉めいた言葉と共に何処から広まったかは全く分からないが、黒羽くろはソラは大会を経て『最凶魔女』と噂されてしまうことになったのだ。


 しかし、これだけでは終わらない。何故なら彼女の真の目的は、まだ叶えていないのだから。


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最凶魔女と呼ばれし者 雪兎 夜 @Yukiya_2

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