最終回 Secret Party
豪華な装飾を施された馬車が
ベレン領主の館に滑り込んでいく。
衝撃を吸収する懸架装置を装着しており
乗り心地はバツグンだ。
なによりその凝った装飾は
見ているだけで飽きない。
「これで追撃したかったです」
ストレガは賢い娘だ。
しかし、たまに的外れな事を言う。
「防御力は低いぞ。装飾のせいで
余計な重量が馬の負担を増やす。
そして最大の欠点は目立つ。」
冒険者には冒険者用の馬車が一番だ。
ヒタイングの協会は間違いなく
最高の馬車を準備してくれたのだ。
「ふふ、そうですね」
対面に座るストレガはヨハンをじっと見ている。
「やっぱりそっちの服装の方が
お兄様らしいです。」
最近は式典続きでヨハンは豪華な
司教用の衣装ばかり身に着けていた。
9大司教の「武」時代は
すっと司教の服だったので
昔を知っている者は懐かしく感じてくれたのだが
ストレガが知っているヨハンは
不貞腐れて寝てばかりの頃と
冒険者の恰好の二つだ。
今日は冒険者の恰好だ。
「そうかい」
そう返事をしてヨハンは
懐から書状を再度取り出し
服装の項目を確認する。
服装「本来の自己を最も表現する服装でお越しください」
間違い無い。
安堵するヨハン。
でも本当にイイのだろうか
これから向かう先は
今現在の皇居にあたる
ローベルト・ベレンの館だ。
首都復興で王宮が完成するまでは
エロル皇帝もここに滞在しているのだ。
「ストレガは普段通りなんだな」
書状から目を離し
正面のストレガを見やると
ヨハンはそう返した。
思えばずっと同じ格好だ。
黒のローブに
黒鉄色の錫杖
下は動きやすく機能的な服だ。
幾度となく冒険をこなしている割に
痛みが見て取れない。
特にローブはアモン特性で
以前、冗談で破いて見てくれと
言われ、冗談で引っ張り
伸びもしない事に驚き
最後は本気で引っ張ったのに
ビクともしなかった逸品だ。
一体何で出来ているのやらだ。
滑るようにエントランスまで馬車は入っていく。
ゆっくりと停車すると執事長が扉を開け
恭しくお辞儀をした。
「アモン兄妹様でいらっしゃいますね
お待ちしておりました。」
小刻みに震え出すストレガ。
笑いを堪えているのだ。
お辞儀をした執事長は
結構なお年であるにも関わらず
それはもう艶々とした豊かなブロンドの長髪だ。
それが頭部全体では無く
何故か頭頂部だけから生えているのだ。
「笑うんじゃ無ぇぞ」
ヨハンは小声でストレガに釘を刺す。
ストレガは返事が出来ない
頷くのが精いっぱいだった。
正面玄関から入ると直ぐ
広いロビーになっていた。
目の前のソファに座る見覚えのある後ろ姿が見えた。
何をつけているのか
黒髪の短髪はツンツンにとんがっている。
「お、Mr.テコンドーじゃ無ぇか」
「カラテドーだ!!」
ソファの背もたれに両手を掛けると
そのまま後方宙返りをしてヨハン達の正面に立つ。
恰好はいつものチャッキーだ。
この男は常に真の自分だけで
生きているのだ。
「料理・・・虫とか無いですよね」
「無い・・・ハズだ」
ヨハンもチャッキーも
当分、虫は遠慮したい。
天井はかなり高い
通常なら三階に当たる高さから
ロビーに直結する特別な螺旋階段。
下には警備が立っている。
皇族の部屋直通の階段なのだ。
その階段から派手な一団が下りて来る。
エロルを先頭に奥方と
ガバガバを伴ったセドリック
ロディを伴ったグロリア。
最後は館の主でもあるローベルト・ベレン6世
隣にはソフィだ。
「よくぞ参られた。」
エロルの言葉に皆、最敬礼をする。
それを手で制してエロルは続けた。
「今宵だけは、本当に無礼講だ。
私もこんな格好だ。」
おどけて見せるエロル。
新大陸で普段から着ていた。
開拓者の作業着で現れたのだ。
ガバガバは式典用の煌びやかな鎧でも
社交界用のドレスでも無い。
荒野を駆け抜けた、あのお馴染みの勇者スタイルだ。
セドリックは学生気分が抜けていないのか
寄宿学校時代の制服だ。
聞けばこの頃が一番自分らしかったとの事だ。
残りはこれぞ皇族という
豪華な出で立ちだ。
ソフィも体のラインを強調した妖艶なドレスだ。
ただ手にしているのは例の扇だ。
警護の仕事なのだ。
食事の準備が出来るまで
しばしロビーでの歓談になった。
ふとローベルト・ベレン6世が
ストレガの所まで近づいて来た。
警護の為に自然とソフィも後をついて来た。
面識は無い。
何事かと緊張するストレガに
ローベルトは驚いた口調で
ストレガに話しかけて来た。
「そなたの・・・その杖は」
ローベルトの手にしている錫杖と
ストレガの余裕綽錫はウリ二つだった。
違いは白金に綺麗に輝くローベルトの
杖と素材が異なるせいか黒鉄色に
怪しく輝いている余裕綽錫。
先端に装着されているクリスタルも
余裕綽錫の方が遥かに大きい
それ以外は同じデザインだ。
比べる様に杖を立てて突き出した
ローベルトに合わせる様に
ストレガも杖を出し
ヨハンの居る横側から見た時
鏡合わせの様な恰好になった
先端の曲がり具合がハートマークを描き出した。
入手した経緯をローベルトは先に正直に話した。
ストレガも正直に話す。
「そうか・・・魔勇者殿の」
「はい。」
ストレガも感慨深げに頷いた。
自分とアモンを象徴しているかの様だ。
この杖も兄弟なのだ。
「ワシには読めんのだが
何と書いてあるのだね」
もう一つの相違点に気が付くローベルト。
ストレガの杖には余裕綽錫と漢字で書かれてある。
ローベルトの方にも
漢字で何か書いてあるのだが
誰も読める者はいなかった。
ちなみに「足腰矍錫」であった。
「俺のも何か彫ってあるっすよ」
チャッキーはそう言って
肩からナックル来雷拳を取り出して見せた。
「あら、多分私の扇も
同じ文明圏の文字ですわよ」
ソフィは持っている扇
猛虎班を開いて見せた。
「いいなぁみんな俺何も無しだぜ」
どこか悔しいヨハンであったが
体そのものが最高傑作ではありませんかと
ストレガに小声で言われ
その時は納得してしまったが
後になって
よく考えればストレガも体に関しては
同じだ。武器とボディの二つだ。
「く・・・私のは消えてしまったな」
自分の腕を悔しそうに眺めるガバガバ。
魔刻が刻まれていた場所だ。
遥かに格上の剣を腰から下げているのだが
この場はアモン製品品評会と化していた。
変な髪型の執事長
バルタが準備が出来た事を告げにやって来た。
皆、食事用の部屋まで移動する。
上座に当たる席は空席。
それを臨むように王家側の列
対面に教会・冒険者側の列
それぞれ先頭はエロルとヨハンが座った。
下座まで行こうとした
ストレガはバルタに
ヨハンの隣まで連れ戻された。
「ご家族様ではありませんか」
恐縮して断ろうとしているストレガに
バルタはそう言って、ストレガを席に連れて来た。
生体反応の訓練が仇になったのか
功を奏していると言えるのか
ストレガはもう泣きそうな顔だ。
ヨハンは隣に座ったストレガの頭を
優しく撫でてやる。
「お待たせしました!!
今、出来上がりました」
扉が開き、開口一番そう言って
ハンスが入ってきた。
四角く平らな物を抱えている。
それは白い布で隠されていた。
「今朝、完成したと言ったではないか」
パウルは情報の正確さにうるさい。
「手直しをしていたら
今になってしまいました」
軽い口調で笑顔で答えるハンス。
顔には様々な色の絵の具の跡が見て取れた。
ハンスは上座
主賓の席にそれを立てかけると
低い声でこう言った。
「本日の主催者です。」
隠してある布を退けるハンス。
ハンスは絵を嗜む
アモンの世界で言う写実主義派にあたる。
人物の肖像画だ。
一見死んだ魚の目だが
瞳の奥に揺るがない確固たる炎が見える。
少し吊り上がった口の端は
イタズラをなにより好んだ
この男の趣向を如実に描き出していた。
「・・・魔勇者殿」
思わず両手で口を塞ぐガバガバ。
何も言わず席から下り膝を着いて畏まるパウル。
「・・・兄貴。」
ヨハンも思わず声に出してしまった。
「ハンスさん。これ下さい
くれないと心臓を焼きます!!」
身を乗り出して叫ぶストレガ。
「待て、私が欲しい
ハンス・・・なんなら一晩
・・・セドリックを貸そう!!」
とんでもない事を言うガバガバ。
「ぇ?」
驚くセドリック
「それは魅力的な提案ですね」
揺れるハンス。
「え?」
もっと驚くセドリック
「駄目だ!これは秘術と同じ
教会最深部にて未来永劫
一般の目に触れる事無く伝承していくのだ!!」
立ち上がるパウル
珍しく熱い。
「・・・それぞれ描いて差し上げれば
良いのではないですかねぇ」
当たり前の事をあっさりと言うユークリッド。
「「「それだぁ!」」」
時として咄嗟の場合に
人は冷静な判断を失う事がままある。
騒ぎが一段落すまで
少し時間が掛かった
ようやく収まってから
開会のあいさつがエロルから行わた。
「ここに集いしは真実を
決して世に出る事の無い秘密の真実を
それを共有する者の集まり」
秘密の宴が始まる。
デビルバロン 2 @tetra1031
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