第32話 様々な結末

「いや、俺はブルグじゃなくて

ただの冒険者ヨハン・アモン・・・だぜ」


そう言ってヨハンはユークリッドの隣

少し後ろで両手を合わせ謝罪の意を

表明しているハンスに注目した。


喋りやがったな。


「全て聞きました。というか私だって

子供の頃に見ましたよ。武闘大会の優勝を」


ユークリッドは冷静にそう言った。


ここはベレン教会の幹部専用の会議部屋だ。

セントボージから帰還するや否や

問答無用で運び込まれた。


「悪魔との契約といいう教会としての

あるまじき行為について気になさって

いるなら、その事は問題ありませんよ」


ユークリッドの横、ハンスとは

反対側の隣にいるパウルがそう言った。


「教会はあのお方を聖人に認定します。」


とんでもない事を言った。


「表向きには流石に無理ですがね」


ユークリッドがそう補足した。

教会は世界の記録を収めているが

公開前提の表用とは別に裏の真録が存在するのだ。


「なので、ヨハン様は自力で

若返った事にして下さいね」


「いや・・・無理があんだろそれ」


「ヨハン様ああああああああああ」


ひぃ

このやたらキンキンと鼓膜に突き刺さる声

その持ち主は記憶に一人しかいない。

あまりにまとわりついて

面倒くさくなったので地位を与え

南の国境のネルドまで飛ばした女だ。


「到着したようですねぇ」


そう言って、ユークリッドは扉近くから避難した。

残りの二人もそれに習う。


「おい。呼んだのか」


「ヨハンさまああああああああ」


すごいスピードで廊下を走っているのだろう

叫び声がドップラー効果で

音階が上がって聞こえる。


扉がぶち開けられると

ヨハンに飛びつくアトレイ。


見えていないはずなのに

ヨハンの場所をどうやって特定しているのだろう

ユークリッドはそこが気になった。


「ぐぅあアトレイかっ」


「ヨハンさまヨハンさまヨハンさまヨハンさま」


「キタねぇぞユーなんでコイツを」


体をくねらせるヨハンだが

その動きを先読みしているのか

アトレイは上手に位置を変え

まとわりつき

ヨハンの肉体を隅から隅まで

撫でくりまわした。


「グヘああ若返ったという話は本当だったのですね」


「早速ですがアトレイ。最高指導者は

ヨハン・ブルグでよろしいですか」


「もちろんですわ。むしろそれ以外は

認めません。呪い殺します。」


「おい!なんだそりゃ・・・うわ」


スンスンスンスンスンスンスンスンスン


今度はヨハンの全身を嗅ぎまわるアトレイ。

払い除けようとするヨハンだが

筋肉の微妙な収縮から動きを

読んでいるのであろうか

離れる事無く見事に躱す。

感心するユークリッド。


「トーマスもそれでよろしいですよね」


「え?居たのか・・・のぅわ」


部屋の隅で椅子に座っていたトーマスは

軽く手を上げ了承の意を表明した。


「これで全員一致ですね」


「全員だと?おわ」


パウルもハンスも両手を合わせ

祈る様な仕草をしている。


「ではここに新たな最高指導者の誕生を裁定いたします」


芝居がかった調子でユーはそう言った。

皆も拍手で称えた。


「オーベル。ユーが忌々しいってトコだけは

俺も賛成だぜ」


天井を仰ぎ見てヨハンはそう呟いた。


残りの寿命の問題を言ったのだが

死ぬまででいいという

恐ろしい返事だった。


ヨハンをたっぷりと堪能し

気持ち肌に艶を増したアトレイは

やっと平常心を取り戻して報告をしてきた。


「正式に不可侵条約の申し出がありました」


ドワーフの国との国境沿いの防衛線

ネルドの都市の9大司教がそう言ったのだ。

相手は聞くまでもない。


「本当ですか!?」


やたらと驚くパウル。

彼の持っている情報では

開戦も辞さない構えだったのだ。

だからバルバリスも戦力をネルドに集中させていた。


「どういう風の吹き回しですかねぇ

何も無しでの変化は信じがたいですが」


ユークリッドも首を傾げていた。

その説明がアトレイから成された。


なんでもドワーフの軍でも手を焼いていた。

大型の飛行性モンスターを

一人で討伐した魔女がネルドに来た事が

彼等の心境を一変させたのだ。


たった一人でアレなのだ

アレが集団で

我が国に牙を向いたら・・・。

そう言う理由らしい。


ユークリッドは喜び半分だった。

やはりあの力は軍事バランスを崩壊させてしまう。

なんとしても教会の管理下に置く必要がある。

それを再確認した。


まぁその手綱を取れる人物を

最高指導者にたった今、祭り上げる事には

たった今、成功したのだ。

順調な滑り出しと言えよう。


正式には新帝王の誕生の後だが

簡易的に約束は交わされ

ドワーフの国ドルワルドと

バルバリスの間に不可侵条約が結ばれ

互いの首都に大使を常駐させることになった。


こんな歴史的サインがオレでいいのか

兄貴助けてくれ。


それから一か月後

ベレンで今回の悲劇の慰霊祭が執り行われた。

正式に王が崩御された事を公式に認定したのだ。

同時に最高指導者を含む9大司教の死も公表された。


こんな大事な式典

俺が代表っておかしいだろ

兄貴助けてくれー


さらに一か月後には

新帝王エロルの戴冠式と

降臨時の災害救出と悪魔退治

さらにその後のセントボージの事件解決を

国として勇者ガバガバを称える式典も行われた。


もう疲れた

兄貴じゃなくてもイイ

誰か替わってくれー

確か食いぶちぐらい稼げば

それでいい余生の予定のハズだったんだが

どうしてこうなった。

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