第5話

綺堂きどう あざみside








 なんだかんだと登校初日を乗り切った翌日、クラス内はいつの間にか決闘する事になっていた主人公と悪役令嬢の話で持ちきりだった。


 どうも、昨日の放課後に一悶着あったらしい。日取りは一週間後だそうだ。


 『病みラビ』世界ではおまけ程度の要素で貴族階級が存在するが、その貴族が悪役令嬢たる『リリィ・ヴァティカルロール』である。

 

 彼女の生家であるヴァティカルロール家は、この国に古くから存在する大貴族だ。代々積み重ねてきた功績は計り知れず、良くも悪くも有名なのは否定しようがない。


 最高位の爵位を持つヴァティカルロール家ならば多少の悪評など捻じ伏せるだけの力はあるのだが、一つだけ拭うことの出来ない汚点がある。


 それはヴァティカルロール家の最初の功績が戦争中の裏切りだということだ。


 この国は今でこそ周辺諸国一の繁栄を誇るが、建国当初からそうだった訳ではない。当時の領土が繋がっていた国から土地を奪い、大きくなっていったのだ。


 ヴァティカルロール家はそんな時代に敵国から裏切った家の一つで、戦争の真っ只中に軍事を統括する立場にありながら広大な領地と機密情報を手土産に寝返ったのだ。


 当然だが敵国は怒り狂った。


 その凄まじさと言えば、敗戦濃厚となった敵国が降伏する条件として掲示した内容が、王族の助命や自治権の保証等よりもヴァティカルロール家当主の身柄であったことに示されているだろう。


 その後、降伏を却下され蹂躙された敵国はさらに恨みを深めた。現在でも数少ない生き残りの末裔達には、親の仇の如く恨まれている。


 そして恨まれていることを自覚しているヴァティカルロール家は、この国のに誰よりも敵意に敏感なのだ。


 ヴァティカルロール嬢の高飛車な言動や決闘騒ぎも彼女なりの「私に手出しするな」という牽制であり、ことを大きくさせないための処世術なのだ。


 そして、彼女の敵意センサーに反応した者には汚名を雪ぐための報復対象となり、取り分け家を侮辱するような言動をした相手には……




「汚れた一族が、どの面を下げてこの国に居座るのか。恥を知れ」



「出てきなさい! 陰口を吐くしか能のない卑怯者など、この場で叩き潰して差し上げますわ!」




 当然、ブチギレる。


 景色が歪んで見えるほどの熱量を放ちながらヴァティカルロールは気炎を吐いた。




「上等だ。貴族として汚れた血を絶やしてやろう!」




 今度は堂々と言い返したモブ貴族(名前は知らん)が受諾。


 他のクラスメイト俺達は静観しているが、その思いは様々だ。




「薊君、そっちの部屋いってもいい? 女子寮と違いが気になるんだ〜」



「ああ、いいぞ」




 来紅らいくは興味ない派らしい。ゲームでは、この手の問題の時はもう少し興味を持っていたと思うのだが何か心境の変化でもあったのだろうか。


 ちなみに、俺はどんどんれ派である。


 なぜなら俺の戦闘技術は未熟にも程があり、吸血鬼の身体能力だけでは限界がくるのは目に見えている。故に見本は多いに越したことはないのだ。


 見たところヴァティカルロールの勝利は固いが、モブ貴族もこの学園に来るくらいだから強い方なのだろう。


 それに、この場で戦ってくれれば血の一滴でも俺の方に落ちてくるかもしれない。ヴァティカルロールの戦い方的に望み薄だが、可能性は0ではない筈だ。




「来紅、そろそろ始まりそうだから俺の後へ来てくれ」



「うん///」




 ススッと身を寄せると、俺の背中にくっついて動かなくなった。いや、それだと守りにくいんだが……


 もはや一触即発の雰囲気で、どちらが先に手を出すかというところで、勢いよくドアが開く音がした。




「お前達、アタシの授業が始まるってのに巫山戯た事を抜かすんじゃねぇ。放課後にでもやってろ!」




 彼女こそ、このクラスの担任教師『鬼塚おにつか冴子さえこ』だ。


 実力主義の考えで暴言や体罰はやって当たり前の教育方針だが、人間の中では数少ない強者である。


 ゲームでもよく噛ませ犬実力者として活躍したものだ。




「くっ、承知いたしました」



「……わかりました」



「ふんっ」




 苦虫を噛み潰したような表情の二人を見送り、鬼塚先生は教壇へ立った。

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なんてことだ、大嫌いなキャラに転生してしまった。つまりこの状況は………最高だな。 一味違う一味 @splatter-festival

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